317
入山できるかどうか。
入山目指して勉強してきた子どもたちには、それは死活問題だ。
文字通り命がけの修業をこなした子もいる。入山できなかったら勘当される子もいる。裾野にいる間に情勢変化で帰りたくても帰れなくなってしまうこともある。
バルドさんは警邏隊だから、試験に落ちてしまった子やその家族、が、とんでもない行動に走るのを見てきた。勿論、警邏隊だから、それを停めなければならない。
御山への侵入未遂、試験官襲撃、廟や井での自殺未遂、心中未遂、など、など……。
今年も例によって例のごとく、試験に落ちてやけを起こした者が居た。
数日前、たてこもり事件が発生し、バルドさん含め警邏隊十数人が出動した。
たてこもったのはシアイル出の男の子で、家族総出で試験を受けに来たものの、二次試験で落ちてしまい、父親と喧嘩になって、宿の一室にたてこもったのだ。
たてこもり事件自体はあっさり片が付いた。
廊下からまだまだ受験失敗を大声で責める父親を無視して、バルドさんが伝糸で直に説得した。男の子も伝糸持ちだった。ふたりはほかには聴こえないようにこっそり話し、自分は一次にすら通らなかったから君のほうが凄いよ、とバルドさんがなぐさめ、落ち着いた男の子は出てきた。
ついでに、物騒なことを喚いた父親と、とめなかった祖父祖母は、警邏隊に絞られた。自分の子どもといえど、殺すぞ、は流石にアウトだ。たてこもり自体も、父親が男の子を殴ったので、それから逃げる為だったらしい。
で、そこまでなら、丸く収まってよかったね、で終わるのだが、そうはいかなかった。
男の子の姉が、バルドさんを好きになってしまったのだ。
弟を助けてくれて、無茶を云う父親や祖父祖母を叱った、まるで物語の王子さまのようなひと、と。
ストーカと化した姉はこっそりバルドさんをつけまわし、住んでいる場所、よくいくお店、などを割り出した。
バルドさんは、ヨーくんやラールさんなんかとルームシェアしているそう。傭兵はまちからまちに移動したり、ひとつところにとどまらないほうが普通だから、荷物は少ないし、せまいところで寝るのも慣れている。なので、ルームシェアして家賃をうかすのはよくやることらしい。
昨夜、夜勤に出るルームメイトを送り出し、バルドさんはすぐにベッドへはいった。癒し手に治してもらったと云っても怪我をしたせいで血は失っている。恢復魔法で血を補える癒し手はそうそう居ない。
うとうとしていると、いやな感じがして、寝返りを打った。
その時、寝る時に邪魔だからとみつあみにしていた髪を、忍び込んだストーカにざっくり切られてしまったのだ。




