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あ、いい香りしてきた。パン焼けたかな。
オーブンを開けると、ぶわっと香りがたった。「うわあ、いいかおりー」
アーレンセさんが鼻をすんすんいわせる。
天板をとりだした。
「あつっ……おお、ちゃんと焼けてる」
よかった。一応綺麗なパンになってる。
手間がかかるものなので、ひとり……みっつくらいまでかな。大きいから充分だろう。
かごに移す。よし、スープも煮込めた。
パン・ピーマンレバー・スープ・フルーツサラダをそれぞれ器へもって、四人の前へ置いた。「わあ」
「おいしそう」
サッディレくんのは揚げて甘辛く炒めたレバーと、パンがひとつ。ほかのもほしかったら云ってねとは伝えた。
食堂で注文をとっていたセロベルさんが、アーチから顔を覗かせる。「マオ。定食、20」
「はーい」
パン足りるといいけど。
いつもはゆっくり食べるアーレンセさんだが、今日は違った。
おかずやスープはそっちのけで、パンをもぐもぐしている。それも凄いスピードで。
「マオさん」アーレンセさんは普段よりも大きな声を出した。「わたしはやっぱり運がいいです。修復者に感謝しないといけません。こんなにおいしいものを食べられるなんて!」
パン好きらしい。口にあってよかった。
修復者に感謝、って、特殊能力にってことかな?
「あの」
ルッタさんだ。おずおずと云う。「これ、弟にも食べさせてあげたいんですが……」
「どうぞ、持って帰って下さい。でも、かたくなっちゃうかもなあ」
「ひとつ、戴いていきます」
ぺこっと会釈するのがかたくるしい。
レアディさんはパンを頬張って、ふにゃっと笑み崩れていた。「これうまいですね」
「レアディさんも持って帰ります?」
「いいんですか? こんなの、うちで焼けたらなあ。オーブンはあるんですけど」
「わりに簡単ですよ。発酵さえできれば」
「マオ」セロベルさんが戻ってきた。「追加で20。サッディレかアーレンセ、かわってくんねえ?」
「はーい」
サッディレくんが、残っていたレバーを口へ詰めこみ、席を立つ。「……アーレンセはまだ食べてていーぜ。俺がやっとくから」
「ありがと、サッディレくん」
サッディレくんの袖を引いて屈ませ、アーレンセさんがその頬へちゅっとキスした。え?
しかし、誰も特に反応しない。サッディレくんだけ嬉しそうだ。「あんがと」
ぱっと食堂へ移動していった。今のなに?
……あれかな。握手と一緒? 修復者にキスしてもらうと運がよくなる、みたいな。




