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俺みたいにそもそもプライドなんてない人間なら、平気でへらへら笑ってすごせるが、自分の名前を世に知らしめよう、一旗揚げよう、と意気込んでやってきたら、厳しいだろう。
歳若い学生達は、奉公人をぞんざいに扱うし、用がすめば大概は礼も云わずに無視する。
俺は、自分は仕事をこなしただけだし、お礼を強要するつもりはない。ケルネスさまみたいに、つんけんしててもお礼を云ってくれる子が居るし、そういう時ちょっと嬉しいな、くらい。こっちは御山からお給料もらってる訳だから、学生達にお礼を云われなくたって困らないのだ。云ってもらえたら嬉しいけど。
でも、ひとによったら、御山での自分の価値を見出せなくなっていくんだろうな。だから、厳しい試験を通ってやっと奉公人になれたのに、あっさり辞めていくひとが多いんだと思う。
俺とサフェくんは急いでご飯を食べ、歯を磨きに洗面所へ行った。サフェくんも、歯磨きは頻繁にするタイプだ。だっておいしくご飯食べたいもんね。
ついでに、髪を梳き、ネックレスと腕環をつけておく。
御山に来てから十日くらいだけど、案の定俺は毎日アクセサリを紛失していた。こっちだと貴金属が貴金属じゃない(貴重じゃないって意味だ)から、感覚がおかしくなるんだよな。プラチナに大きなダイアモンドが等間隔で配置された、もとの世界だったら車買えるくらいのお値段だろうな、と思った腕環すら、気付いたらなくなってた。
広間へ戻る。サフェくんと一緒になった。サフェくんも髪をといてきて、しかもあみこみをつくって、綺麗なガーネットのヘアピンを挿している。「サフェくん、器用だね」
「男ならこれくらいできないといけないって、お父さまに云われてきたから」
まあ、まあ、そうだよね。綺麗な髪、長い髪は、男らしさの象徴なんだから。
あ、ちなみにサフェくん達、髪を短くした新入り達は、それぞれ切った髪から数本を抜きとって、綺麗に編み、ストリイ先生へ贈呈していた。
はじめ、彼をこわがっていたサフェくんだけど、何日も経たず、単に甘えん坊なだけで悪いひとではないと気付いたのだ。みんなの弟、みたいな感じ。
それにほかの新入り達も、ストリイ先生にはよくしてもらったらしい。学生達に怒鳴り散らされて困ってたら、ストリイ先生がとりなしてくれたり(「後は僕が注意しておくから、君達はもう行きなさい。授業があるだろう」)、先輩とはぐれてしまっておろおろしてたら、どこからか颯爽とあらわれて助けてくれたり。




