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奉公人が大勢、滞りなく動けるように、どの寮の厨房もめったやたらひろく、そしてぴかぴかに綺麗で清潔。そして、材料は常にどっさり用意されていた。魔力を消耗しておなかをすかせた学生が、食事時間以外でもなにかつくれと命じてくることがあるからだ。そこで材料がありませんなんて云うのは、料理人のはじらしい。
作業はしやすいし、調理台がむちゃくちゃ綺麗だから、パンをこねたりするのも気兼ねなくできて、とても楽しい。お鍋もぴかぴかだし。
ただ、ストリイ先生の仰言る通りで、一回だけ派遣された教員寮は、揚げものと炒めもの、油分の多い汁もの、油分の多いオーブン料理は厳禁だった。だから、わざわざ学舎に食べに行く先生も居るんだって。奉公人の寮までおしかけてくるのは、少数派だけど。
宗教上の理由で、動物性のものを口にしないひとの割合も、教員が一番多い。二割くらいかな。一緒に調理できないから、教員寮に限らずどこの厨房もきっちりゾーニングされていて、一部の区域には動物性のものを持ち込めなくなっていた。
お料理に関してだけど、ケルネスさまはあのお料理をいたく気にいったみたいで、お礼にと、ユヴァッシャンダ領へ審査なしで這入れる通行手形をもらってしまった。奉公人を辞めても、いつでも雇ってくれるそうだ。ありがたいのかなんなのか。くれるというのだからもらっておこうと思って、一応うけとってはいる。
十一月二十一日。俺がこちらに世界へ来てから、430日。
昨夜、よなかにリンド・ターカック嬢(神聖公国出身の司教令嬢、許嫁あり、天意落掌や修復者など複数特殊能力を持つ)に呼び出され、朝食は欠伸を嚙み殺しながらだった。複数のドレスのお直し……の手伝いをしたので、目がしばしばする。勿論俺にドレスの直しをできるようなスキルはない。紡織士や縫製士、お針子の先輩奉公人達から、雑用を請け負ったのだ。糸や針やはさみや布地を、云われたらすぐに渡す。そういう係。
ターカック嬢は今日、許嫁のスフィザ・ギルワさま(神聖公国出身の枢機卿長男、清澄な魂持ち、座学の成績不良、実技は最上位の班)とお茶の約束をしているから、その為に一晩中ドレスを選んでいた。なのに実技で痩せてしまっていて、ドレスの腰まわりがだぶついてみっともないと云うことで、奉公人がかりだされたのだ。今日着るかどうか解らないドレスも、いつか着るだろうし、ついでに直してと、複数に手をいれることになった、という訳。
「マオ、眠そうね」
「ランスさんも」欠伸を怺える。「昨夜なんかあった? こっちはターカック嬢のドレスのお直し」




