1992
「ぜったい、ぜったいにぜったい、云わないでよ」
「解ってる」
サイレくんはくわしい話はしなかったけれど、俺の言葉を否定しなかった。そして、こうやって必死にくちどめしてきてる。だから、マイファレット嬢が好き、なのだろう。
そうかあ、ぽかんとしてたのは、あれ、恋に落ちた瞬間だったのだな。わー、青春。甘酸っぱい。可愛い。応援したい。
マイファレット嬢は、恋愛云々には縁がないみたいだけれど、どうなるか解らない。マイファレット嬢とサイレくんなら、相性も悪くない気がする。マイファレット嬢、ダストくんとよくお喋りしてたから、荒れ地近くのひとに対しての偏見もないみたいだし。
俺は屈み込んだままのサイレくんの、肩口をぺたぺたした。
「いいねえ。若いねえ」
「ま、マオだって若いだろ。俺とそんなにかわんないじゃん」
いやいやかわる。下手したら十歳くらい差があるって。サイレくん幾歳だったっけ?
そんなことはどうでもいい。それよりも、サイレくんの恋だ。でも、よかったんだよなきっと。マイファレット嬢は一般寮生だから、サイレくんは来年には同じ寮にはいることになる。きっと仲好くなれる。
サイレくんの、ドライフルーツ作戦に、俺も手をかすことにした。マイファレット嬢がサイレくんを恋愛対象にするかはともかく、サイレくんは役に立つ特殊能力、天意落掌の持ち主だ。で、来年には傭兵になって、入山前に依頼をこなす予定である。傭兵同士、仲好くなって困ることはないだろう。サイレくんと仲好くしてたら天気が解るしね。
俺はにこにこする。
「サイレくん、一緒に来なよ」
「エッ」
サイレくんが顔を上げた。混乱したみたいな表情だ。
「薬材採集じゃなくて、レントの外で気晴らしのお散歩するだけだし、そんなにこわくないからさ」
「こ、こ、こ、こわいとかじゃなくて、だって俺、ま、マオの友達ってだけだし邪魔したら悪いよ」
あ、友達だと思ってくれてるんだ。嬉しい。
俺はにまにまがとめられない。「だから大袈裟なものじゃないんだって。魔物が居たら戦うかもだけど、みんな強いし、それに昼間なら結構安全なんだって」
「そりゃ、夜よか安全だろうけどさ」
「じゃ、決定ね。サイレくん、準備してきて」
サイレくんは口をぱくぱくさせる。と、ドアが開いて、マイファレット嬢が這入ってきた。
「お待たせいたしました、マオさん」
どうやら、テーブルに隠れてサイレくんが見えなかったらしい。にこやかに云いながらこちらへやってきて、屈み込んでいるサイレくんに気付くと、マイファレット嬢はきょとんとした。




