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飛び起きた。もの凄く悪い夢を見ていた気がする。魔王になって、魔王なのに魔物に襲われて、そうしたら魔を滅却できるという正義の味方みたいなんが出てきて、……。
「マオ、ぐっすりだったんだってな」
仰ぐ。ダストくんがにこにこしていた。
ゆ。夢じゃないのか。まずい。とてつもなくまずい。というかあの話の直後によくぐーすか寝れたな自分。
ダストくんが水をくれた。お礼を云って飲む。還元士と癒し手は居ない。みんなも馬車を降りている。
ダストくんが降りて行った。慌ててついてゆく。
「わ」
思わずぽかんとしてしまった。
村だ。これは……異世界っぽいなあ。
茶色の、土造り? 石造り? の建物があった。家なのだろう。窓には木の庇と鎧戸がついている。屋根は平たい。
そういう建物が、幅の広い道をはさんで左右に、ぽつぽつと立っている。道幅は、馬車が五台並んで走れるくらい。家々の間は庭や畑らしいが、柵はない。少々大き目の山羊が放牧されていた。
道端では小さな子どもが、同じくらいのサイズの、トゥアフェーノと遊んでいた。トゥアフェーノは魔物に怯え切っていたし、穏やかな性質なのだろう。子どもたちに皮を引っ張られても舌をぺろぺろさせるだけだ。
ダストくんがひょいと背を屈めた。「マオの知らないものばかり?」
「……うん」
「そっか。トゥアフェーノと遊ぶ?」
ぽんぽんと頭を撫でられた。う、可愛いなああのとかげ。触ってみたい。
「ね」トゥアフェーノに釘づけになっていた目をダストくんへ向けた。「祇畏士さまたちは?」
「俺達が危なくないように送ってくれただけで、行が終わってないんだって。ひっ返してった」
「あ……そか」
「マオが暴れたから助かったって、祇畏士さまが仰言ってたぞ」
へへへと笑ってごまかした。あれだよなあ、魔物退治ってスキルの所為。+500%ってことは、元が弱っちいからあれくらいの威力だったんだ。
滅却されるかもしれないのに、そういうのを防ぐスキルはくれない。魔王やるのってハードモード。
ダストくんが、知り合いらしい子どもに手を振った。あちらも元気よく振り返す。異世界でも子どもは元気だ。「一緒に遊べば?」
「え……んー、やめとく」
頭を振る。ダストくんはなんだか心配げな目をして、そうか、と小さく云った。
子どもには苦い思い出があるのだ。そう、あれは……。
✕
高校を辞めた直後、おじさんが温泉を掘り当てて、旅館をひらいた。
それで儲けて今度こそ埋蔵金を掘り当てる、とおじさんは鼻息が荒かった。真緒にはお金を出してもらったから、儲けは分ける、とも(結局おじさんは、そのあともうふたつ温泉を掘り当てた。ダウジングはあてにならん! と怒っていたっけ)。
正直、家に居るのも辛かった。なので、そういうのはいいから雇ってくれない? と云った。
最初は仲居をしていた。おじさんはトレジャーハンターとしてはビミョーだが、温泉旅館経営はなかなかの腕があるらしく、すぐに、お客さんが途切れることはなくなった。
半年たって、お客さんの前には出ないようお達しがあった。「真緒くんのいる旅館」と、一部で騒がれたから。端役ばかりの見切れ職人でも、知っているひとは知っている。騒ぎになるのはいやだったので、それからはお客さんの目に触れないところに居るようにした。チェックアウト後の客室掃除、裏山の整備、夜半に温泉のパイプを掃除したり、などなど。
暫くは平穏。三年くらい。
ある時、裏山に近所の子どもがはいりこんで遊んでいたが、荒らさない限りはほっておくというおじさんの方針で放っておいた。
裏山の整備(と云っても、落ち葉を掃いたり、雑草を抜いたり、ごみを拾うくらいだ。お客さんがはいりこむのか、煙草のすいがらがやけに多かった)をしていたから、遊びにくる子ども達とは顔見知りになった。
お客さんの目に触れないようにしているとはいえ、従業員とは顔を合わせる。無断で写真を撮っておじさんに怒られ、辞めてしまったひとも居る。
子どもは、自分が子役だったことなんか知らない。そういう気楽さがあった。子ども達にとってはただの「草むしりのひと」でしかない。
たまに、お菓子をあげた。正しくは、持っているのがばれて強奪された、かな。子どもは元気なのがいい。あとは、勉強教えて、と云ってくる子もいて、解る範囲で教えた。鬼ごっこに付き合った時は、何故か鬼五対自分で追いまわされたけど。
一年くらい前、突然、暫く休むよういわれた。
理由は色々。近所のひとが抗議に来た。子どもの教育に悪いとかなんとか。おじさんが怒鳴って追い返した。その時に自分の記事が出回っていると知った。
事務所を素行不良でくびになった。別の子役をいじめていた。監督に媚びへつらって役をもらった。未成年で喫煙。
根も葉もないことばかりだった。ほかの子役とはほとんど関わってもいない。そこまでして役が欲しいなら主役をもらう。煙草はすいがらを拾うだけだ。
どうして今頃、と思った。昔出た映画の、主演だった子が、傷害事件で捕まったのがきっかけらしい。その映画は主人公の母親役のひとが後に自殺、監督が淫行で逮捕、原作者が大麻で逮捕、と、「呪われた作品」としてもてはやされていたのだ。
その映画に出ていたひとのネタは溢れかえっていた。自分もその流れで標的にされただけだ。それは解った。
解ったけど無理だった。




