魔王、同情される(14.5)
「ナジ長老?」
「うん?」
ナジは柱に寄りかかりつつ右を向いた。ヤームの息子のセムが、ナジの息子が連れてきた客人の様子を窺っている。
「マオって、攫われっ子ですかね」
「……売られっ子だろうな」
ヤームの息子は口をひん曲げた。「可哀相に」
マオはシアイルの東のほうの顔立ちにも見えるが、共通語で喋るし、かといってデラクと云ってもきょとんとしている。「魔」や「素」、「還元」も知らないようだった。ダストによれば、効果の高い治療薬を持っていたらしい。それにしては「調剤士」や「錬金術士」らしくもない。上等な生地の服を着てはいるが、装飾品はひとつもない。
そうだ。髪も短かければ、耳に穴のひとつも開いておらず、装飾品の類はなにひとつ身に着けていない。ヤームの息子の云うとおりなのだろう。
話に聴いたことはあったが、異常な格好だった。まるで妙齢のご婦人のような……。馬車のなかからそれを見ていたシアナンの息子とジブの息子がろくでもないことを口走ったらしい。
ダストに理性が備わっていてよかったし、マオが素直に着飾ってくれて助かった。ナジは今更冷や汗を拭う。天は息子を見捨てないでくださった。
ヤームの息子が云う。「どうするんですか?」
「家族をさがしてやりたいところだが、当人がなんにも知らないらしいからなあ……」
「攫われっ子」もしくは「売られっ子」。
文字通り、攫われたり、売られた子のことだが、特に異性装をしている者をさす。そういう子達は大体、赤ン坊のうちに親元から離され、売られたのだ。世のなかには幼い子供に劣情を抱くばちあたりが居る。
マオはなかなかに綺麗な顔をしている。つやつやできちんと手入れされているらしい、なのに短すぎて落ち着かない、真っ黒の髪。優しそうな垂れ気味の目、ぼんやりとどこを見ているか解らない黒い瞳。女の恰好をさせて悦にいっている愚か者が居たのだ。
マオは十六、七に見える。捨てられたのか、逃げてきたのか……。
「耳に穴もあけていないんじゃあ……な」
普通、男なら、生まれてすぐに耳飾りをつける。ロアでは髪の短い男が飾りもつけていないことがあるそうだが、そういうものでも流石に耳に穴は開いている。
それをされていないということは、耳に穴の開いていない子を欲しがった者に売った、ということだろう。売られっ子と考えて間違いはない。
マオの前では努めて明るくしていたナジだったが、今マオの寝顔を見ていると、不憫で自然としかめ面になった。子を育てられないのなら、修道学校にでも預ければ済む話だ。
マオは、見ず知らずのダストを助けてくれた。控えめで大人しく、あまり喋らない。馬車酔いも相当我慢していたようだ。かと思えば、ナジやシアナン達を心配して、得物もないのに魔物に立ち向かった。無垢ないい子だ。天の配剤でナジ達の前に現れたなら、ナジ達が助けるのが筋だろう。
さてどうしたものか。ナジは小さく息を吐く。
魔王爆睡中




