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息を切らして、楠に手をつく。酷い気分だ。吐きそう。ジーナちゃんは親から虐待をうけているし、ミューくんは責任感が強すぎる。サキくんはあんなにいいところばかりなのに自分を卑下して、ハーヴィくんは自分が痩せている自覚もない。おかしい。おかしなことばっかり。
でも、ほーじくんが俺に会いに来ないのは、別に変でもなんでもない。
そうだ。約束したけど、相手は子どもだもの。大人の俺の一年より、子どものほーじくんの一年はずっと長いし、新鮮な出来事は沢山ある。俺を忘れたって、責められやしない。それに覚えていたからってなにかある訳じゃない。
あっちゃだめだ。俺は大人で、ほーじくんは子どもで、それで。
それでなに? それって、そんなに大事なこと?
「マオさん」
びくっとして振り返る。サキくんは俺を見て、目を瞠った。
俺は目許を手の甲で拭う。だめだ。このところ、色々ありすぎて、神経がささくれだっている。もうあとひと押しで、ろくでもないことをしでかす。
そんなふうにもろいから、悪しき魂なのかな。
「ごめん、ちょっと、……」
サキくんはなにも云わない。頭を振って、俺の右肩へ自分の右肩をぶつけるみたいにして、軽く抱きしめてくれる。「すみません。ふざけて云うことじゃなかった」
「え……」
「そうですよね。僕だって、あのひとのことでからかわれたらいやだもの」
サキくんはあったかい。髪の毛は柔らかくって、いい匂いがする。笹の葉とはこべと、桃の花をまぜたような。
「……俺はサキくんとは違うよ」
「ええ。マオさんは、片思いじゃあない」
「違うよ。サキくんは、巧くいくよ。俺は違う」
ほかすべてがどうにかなったって、職業はかえられない。俺は魔王で、ほーじくんは祇畏士になる。反目する立場だ。絶対に巧くいく訳ない。
サキくんは低く云う。
「応援してくれてるんですね」
「……うん」
「でも多分、僕のおもいは叶わない。だから、せめて、マオさんは」
「俺は」涙がぽろっとこぼれた。「だめなんだ」
リッターくんの言葉が頭のなかをぐるぐるしている。あなたがその人物に相応かどうかは誰にも決められない。
そうかもしれない。どんなカップルだって、当人同士が認め合っていればいいのかも。
でも、俺とほーじくんのことは、誰が見たって火を見るより明らかだ。天敵、不倶戴天。親しくなんてなれない。
それでいい筈なのに、どうしてこんなにいやな気分になる訳?
ほーじくんが認めてくれたとしても、俺は俺を認められない。
サキくんを押しやって、離れた。「泣いたりしてごめん」
「いいえ」
「サキくんの所為じゃないから。俺が、問題なだけ」
そう、問題だらけだ。寧ろ問題じゃないところってなに?




