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ラスターラ家の敷地を出て、通りを暫く行くと、項垂れたサキくんが強い調子で云った。「あんな酷いことを……」
リッターくんがサキくんのせなかを軽く叩く。俺は、サキくんの腕を引っ張った。
「おやつ食べてこう。ううん、ご飯かな」
「……マオさん」
「俺達がしょんぼりしてたってジーナちゃん喜ばないよ」
そんなありきたりのことを云うしかない。実際、ジーナちゃんは放っておいてほしいのじゃないか、とも思う。「だから、なにか食べよう」
サキくんは反応しない。リッターくんがぼそぼそ喋った。
「サキ、お前が気に病んでもなにも解決しない」
「リッター、きみ」
「ジーナはこれから一年近く、完全に家族から離れていられる。その間に髪も伸びる」
「そうかもしれないけど!」
サキくんはリッターくんを睨む。泣く寸前みたいな表情だった。リッターくんはサキくんに目もくれない。
「俺達にどうにかできることではない。だが、俺はあのふたりを応援する」
「……え」
「父の教えだ」
サキくんは吃驚したのか、目を瞠っている。リッターくんはすいと前方を示した。「だから、俺達は腹拵えをしよう。串焼きが旨そうだ」
中央の屋台で、ご飯を買って食べた。サキくんは困惑と悔恨がない交ぜになったような顔で、黙々と羊の串焼きを食べている。俺はさばのサンドウィッチと、木製のボウルに山盛りのアムブロシアをぱくつく。リッターくんはドーナツを消費していた。
ジーナちゃんのことを話すのは気まずい。俺は話題をさがす。「あ、リッターくん、入山準備ってもうできてるの?」
「ああ」
「寮の部屋って、もう決まってるの?」
「決まっているらしい。入寮の手続きも済んでいるからな。西門を越えたら、部屋の鍵をもらえるそうだ」
「へえー……」
会話が続かない。サキくんが串を還元した。
「リッター、さっきのは本気?」
「……なんの話だ」
「ミュー達を応援するってやつさ。君は本気で云ってるのか?」
リッターくんはサキくんへ顔を向け、口のなかのドーナツを飲み込んだ。
「本気だ」
「けど君は……」
「婚約しているふたりが巧く行くように応援するのがそんなに奇妙なことか?」
サキくんとリッターくんは、十秒くらい睨みあった。あのー、はさまれてる俺が凄く居心地悪いんですが。
同じタイミングで顔を背け、ふたりとも黙った。ええー。
結局、リッターくんはいつも通り積極的には喋らないし、サキくんはいつになく不機嫌そうで、買いこんだ食糧はなくなり、俺達は立ち上がる。リッターくんは、伝糸で連絡があったそうで、お別れを云って西へと歩いて行った。サキくんがそのせなかを睨んでいる。らしくなく、機嫌が悪い。「サキくん?」
「……僕も彼くらい割り切れたらいいんですけどね」サキくんは嘲るように鼻を鳴らす。「みならいたいものだ。あんなに冷静でいられるなんて」




