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「四年前もあなたはとても怒ったわ。だから、云いたくなかった。あの時より、ずっと短く切られてしまったし……」
泣きやんだジーナちゃんは、手巾を握りしめた。ミューくんがその髪を指で梳く。
ラスターラ邸の食堂だ。ジーナちゃんはミューくんによって椅子に座らされ、「診察」をうけている。侍女さん達は、廊下側の出入り口傍と、中庭へ面したフランス窓の前に立って、誰か来たら追い返すかまえ。俺とリッターくんとサキくんは、かたまって、ミューくん達から少し離れたところにいる。
屈みこんでいるミューくんは、事務的に云った。
「そりゃね。とおを幾らか過ぎたくらいで結婚なんて、前時代的だ。君も俺も繁殖用の羊じゃない。それとも君はそういう扱いをされたいのか?」
「あなたが怒ると、わたし、身が竦むわ」ジーナちゃんはささやくみたいに云って、顔を歪める。ミューくんのロ-ブをぎゅっと掴み、項垂れた。「おねがい。おとうさまたちをころさないで」
小さな子どもみたいな、か細くて不安げな声で、そう懇願する。ミューくんは微笑み、ジーナちゃんに燕息をかける。
「ああ。頭も少し冷えた。ばかな真似はしないさ。ジーナ、君はやっぱり優しいな。こんなことになってなお、親を心配するなんて」
「……違うの」
「うん?」
「お父さま達はどうでもいいの。あなたが傷付くのがいや……」
ジーナちゃんは上目にミューくんを見る。「だから、お父さま達になにもしないで」
ファルさんが這入ってくるや、天を仰いだ。ミューくんが立ち上がる。
「ファルマディエッシャさま」
「ああ、ミュー、僕らの立場を理解してくれ」
「ええ」ミューくんはちらっとジーナちゃんを見る。「切られたのは、六月だろ、ジーナ?」
ジーナちゃんがこっくり頷く。ファルさんがほっと息を吐いた、
ミューくんは哀しそうに微笑む。
「こちらこそ、まきこんでしまって申し訳ありません。俺は怒りっぽいので、彼女に無駄に気を遣わせたみたいです」
「いや、いや、君が謝ることじゃない……」
ファルさんとミューくんは低声で喋る。ジーナちゃんは揃えた膝の上に両手を置いて、項垂れている。髪は、こちらが動揺するくらいに短い。
四年前云々というのは、その時にも髪を短く切られた、のかな。まだ十代前半で……結婚、を、真剣に考えさせられるのか。
話し合いの結果、ミューくんはジーナちゃんの傍に居ると決まった。だから、ミューくんはラスターラ邸へ残る。ジーナちゃんはほっとしたみたいで、ミューくんのローブをそっと掴んでいる。
俺達三人は、ラスターラ邸を辞した。ミューくんとジーナちゃんの邪魔になりそうだったからだ。




