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その後は会話らしい会話もない。
カップが空になる頃、ラスターラ邸へ戻るわ、とジーナちゃんが立つと、送るよ、とミューくんも立った。ジーナちゃんは、なにか具合が悪かったか、スカート部分をごそごそさぐる。と、ヴェールの切れ端が出てきた。ジーナちゃんは、上等な生地のそれを、カップとお匙と一緒に近くのくず捨て場へひょいと投げ込んだ。
「いやになるわ、まったく……ミュー、送ってくるのは嬉しいけれど、勿論その後はわたしの侍女にあなたを送らせる。それでもいいのなら、送って頂戴。だめなら、あなたとサキを離れられないように縛るから」
「ああ、君ってやつは、相変わらずだな。勿論、君の侍女に護送されるよ。俺はか弱いからね」
ミューくんがおどけて云う。ジーナちゃんはくすりともせず、こっくり頷いた。
ふたりが腕を組んで、ラスターラ邸の方角へと歩いて行く。別れ際、ジーナちゃんは、また四月の雨亭へ行くわ、と云ってくれた。
俺とサキくんは、とぼとぼと四月の雨亭へ向かう。リッターくんの言動については、おかしいとは思うがどう表現するのが適切か解らない。サキくんは沈んだ表情で、いつもと違って姿勢が悪い。
俺は、北通りにはいったところで、屋台を示した。「お買いもの、してっていい?」
「あ。はい。荷物、持ちますよ」
俺の収納空間のことを忘れたのか、サキくんはそう云った。
屋台は、軽食のがほとんど。でも、アクセサリ屋さんとか、古着屋さん、薬屋さんもあった。薬屋さんは、サローちゃんの工房みたいに品質が安定していないらしく、同じような壜にはいっているのに効果が大きく違ったりする。勿論、効果が低いものは値段も低いから、ぼったくられることはない。
おまじない屋さんもあった。おまじないグッズ屋さん、かな。持っていたら商売が巧くいくおまもりとか、怪我よけ病気よけのおまもりとか、お金が貯まるお財布とか、見たい夢を見られる枕とか、売っている。そんなに高くはないし、買うほうもネタと解って買っているみたい。娼妓の商売用おまもり(いろんなお花を乾燥させて、小さな絹の袋に詰め込んだ、匂い袋)を猛烈にすすめられたが、断って逃げた。
おやつを買いこみ、ぼんやり突っ立っているサキくんに飴の包みを渡した。
「お待たせ。食べて」
「……ありがとうございます」
サキくんは機械的に包みを開け、飴を口へいれる。透き通る赤の、苺フレーバーの飴だ。俺もひとつ口に含んだ。
並んで歩く。サキくんは元気がない。俺は当たり障りのないことを云おうと、考える。
「……そうだ。制服って、もうできたの?」
「せいふく? ……ああ、はい。できてます。と云うか、持ってきています。入山前に、家族と顔を合わせなくてもいいように」
サキくんは顔を歪める。「僕は逃げてばかりだ」




