ジーナの冒険・8
ジーナはリッターのあとをつけた。ロヴィオダーリ家は警護がうすい。娘が居ないからだろう。一階も二階も、廊下は私兵の気配がしなかった。
しっかりするのよ、ジーナ! いつだって戦えるように、準備だけは怠ってはだめ。油断をしないで。
調査は終わっている。アーフィネルは居た。リッターの大人しい兄と、判じもので遊んでいる。だから、ジーナはもう外へ出て、おそらく前の通りではらはらして待っているだろう三人の許へ行き、居たわ、と云えばいい。そして、ミューに叱られれば。
だが、ジーナは出て行かなかった。リッターのことは気になる。ミューをまもるには敵の情報が必要だ。リッターは友達だと内心思っているが、それと同じくらい敵だとも思っている。ミューを怯えさせ、すきあらばミューにいい寄り、ミューの清らかさを損なおうとしている。信用できるのは、自分以外には絶対にミューを傷付けさせようとしないところだけ。かといって、ミューをまもる役目をあの男に譲る気は、ジーナにはさらさらない。リッターとミューをふたりきりにしたら、ミューがリッターを殺してしまう。ミューにそんなことをさせられるとでも?
殺すのはわたし。ミューは癒す。ぜんぶを。
リッターは手洗いから出てくると、ぶらぶらと歩いて中庭を見た。ジーナもそちらへ目を向ける。フォルクがめしつかいや私兵と鍛錬していた。ひとり叩きのめすと、すぐに別の誰かが飛び出してフォルクと戦う。しかし、フォルクは頑強だった。誰もかなわない。
「リッターさま」
十歳前後のめしつかいが駈けてきて、お辞儀した。頬を赤らめる。「あの。リッターさまの専属になりました、デュランと申します」
「ああ。宜しく」
「あの、僕はなにをすればいいのでしょうか。……お寝間に侍るなんて、冗談ですよね?」
「からかわれたようだ、デュラン」
リッターは淡々としている。「俺達の訓練の相手だ。戦闘訓練の。丁度、弟がやっている」
デュランはリッターの示すほうを見て、あおざめる。リッターが慰めるように云った。
「無論、お前達に無理を強いることはない。一度試してみて、どうしても無理だと思えば、お前には俺の許を去る権利がある。今、俺のものになっているのは五人だ。おそらくそのうちの誰かがお前をほしがったのだろう。お前は癒しの力を持っているから、治療に専念すればいい」
「僕の能力を?」
「新しくはいった者は一度、能力証を見る。その上で俺達の誰がめしつかいの誰をとるか決める。大概、最初に権利をとるのはフォルクだ。あれは運がいい」
成程、そういうことだったのね。
ジーナは少しだけほっとした。デュランがぺこっとお辞儀して、走り去る。
ジーナはリッターのせなかを見ている。隠密を解かずに、背後から斬りかかったら、仕留められるだろうか。
無理だと判断した。リッターにすきはない。だから隠密を解いた。「リッター」
「……ジーナ。ご機嫌よう」
振り向いたリッターは平然とそう云って、軽くお辞儀した。ジーナも礼を失しないようにお辞儀を返す。……忍び込んでいて礼儀もなにもないだろうが。
「訊きたいことがあるの」
「なんだ」
前置きは不要と考えた。案の定、リッターは平然としている。ジーナは云った。
「アーフィネルという娼妓を身請けしたのはあなた?」




