ジーナの冒険・7
相変わらずね!
ジーナは思わず笑い出しそうになった。リッターは表情がなく、彫像めいた佇まいだ。いつもなら着ている外套は脱いで、シアイルふうのぼたんでとめるシャツに、素っ気ないずぼんとブーツ。その所為で、上半身の鍛えられかたがはっきり解る。リッターは特殊能力にあぐらをかくような人間ではない。鍛錬を怠らず、精進し続ける。リッターの場合、自分の意思でなく、親の命令だろうけれど。
ジーナは、自分が親のいいつけをまもるのと、リッターのそれとは違う、と思っている。リッターは男だ。自分とは違う。女が親に逆らうなんて、そんなおそろしいことができようか?
ジーナは雑念を振り払い、室内をじっくり眺めた。リッターの隣には、冷たい灰色の髪の青年が座っている。あれがアーフィネルだろう。粗末な紙を綴った、簡単な帳面を持っている。
リッターとアーフィネルには距離があり、親密な時間を過ごしているようには見えない。リッターに関して云えば、もう少しで眠りそうだ。
ソファと向かうように置かれた椅子に、茶色に白と黒の筋がまざる髪の、華奢な青年が居た。アーデル、だろう。リッターの兄の。
アーデルの手には紙と鉛筆。にこにこしている。アーフィネルは、その青年へ向けて喋っていた。ゆっくり、丁寧に、身振りを交えて。アーデルは耳が聴こえない筈だ。ジーナは自分が悪い人間だと確信してる。親の仕事の資料を盗み見た。
単なるお喋りのようだが、アーフィネルの存在は確認できた。ヘアツォークは弟達に邪魔にされて機嫌が悪く、あのようないいまわしをしたのだろう。ロヴィオダーリの四兄弟はかわっている、とジーナは思った。
リッターがなにか云って、立った。兄へ向けて手を動かす。手洗いへ行くと伝えたようだ。ディファーズとシアイルの仕種に差がなければ。
ジーナは迷わなかった。隣へ飛び移る時間が勿体ない。だから、飛び跳ねてあかりとりの窓へ移り、リッターの部屋へ体をねじ込んだ。さいわい、こちらの窓は開いている。
「では、次です。このお嬢さんはとりすましている。容姿に問題がある……」
室内へ降り立った瞬間、どきりとした。自分のことを云われているみたいだったのだ。
だが、勿論誰もジーナに気付いていない。アーフィネルは身振りを交えて言葉を続ける。アーデルがそれを紙へ書きつけ、ぱちんと手を叩いた。不安定な発音で云う。「泥塗だ」
「正解です。アーデルさまに、答えが魔法の判じものは、簡単すぎましたね」
「いや。とても面白い。リッターはいいひとをつれてきてくれた」
そうだ、リッターだ。
ジーナは今まさに部屋を出て行くリッターを追った。扉が閉まる前にすり抜ける。リッターはすたすたと一階へ降りた。




