帝国にて 4
浅い眠りの後、飛び起きたユラは、粗末な木靴をはいて外へ出た。授業で服もくつもぼろぼろになるから、ここの邸にあるのは粗末なものばかりだ。
魔法で出した水を飲み、砂浜へ降りる。侍女達がついてきた。遠くでほかの生徒達が、ユラ同様魔法の練習をしている。レフオーブル家の邸に近寄る勇気はないらしい。
侍女達が岩場に腰掛けた。ユラは魔力を掌へ集める。レントで暴れたのは、ユラにとっていい経験だった。遠慮しながら試合をするのとは違い、相手は本気だし、こちらも本気だった。殺されるかもしれない状態で、でもこちらとしてはできうる限り殺したくないから、なんとか巧く動けない状態に、と、必死で魔法を制禦したのだ。
その経験は、ユラの糧になった。先生にも指摘されたが、去年ここへ来たときより、魔法の制禦が巧くできるようになったのだ。それでも、それは今が平常心だからだ、と云う自覚はある。本当は、どんな時、どんな情況でも、もっともっと巧く魔法をつかえなくてはいけない。
いつ来たのか、リッターが裸足で海へと歩いて行った。ずぼんをまくり上げている。波を蹴って、膝まで海水に浸すと、リッターは剣を抜いて振り始めた。前後左右に動きながらだ。リッターはユラのおともで来ているだけで、魔法の授業に対して気力があるようには見えない。一応真面目に教程をこなしてはいるが、こうやって剣を振っている時のほうが長い。
「ねえ」魔力の流れは、解る。解るのと、しっかり思い通りにできるのは、違う。「ゾラ達は?」
「なんともない筈だ。なんぞあったら、兄上から連絡が来る」
ロヴィオダーリ家にひきとられたゾラ達は、シアイル貴族の養子としてはずかしくないようにと教育をうけている。何人かは職業加護を活用して、ロヴィオダーリ下邸の家政を請け負っているとか。
リッターが振り向く。
「侍女はどうなった」
「ああ、無理だそうよ。ほんとに、つかえない子ばっかり。ひとりくらいうかってるのが普通でしょうに」
ユラには同年代の侍女も居る。入山した時にユラの世話をする為、貴族学校にも行って、高度な教育をうけた面々だ。ところが、誰もうからなかった。
詰まり、ユラは入山したら、髪を結うのも風呂あがりに体を拭くのも、そもそも風呂で体を洗うのも、すべて自分でやらなくてはならないのだ。面倒なことに。
なんとかならないかと掛け合ってみたが、体の不自由な生徒の介助以外の理由で、侍女や従者が御山へあしを踏みいれることは不可能、と返ってきただけだ。
「まあ、仕方ないわ。ひとりでもなんとかなるわよ。食事の用意なんかはしなくていいのだし」
今だと思ったから掌を海へ向けた。「燼滅」
炎がユラの前方にひろがる。髪が焦げた。燼滅は、熱の最上級の魔法だ。呪文なしでもこれくらいはできる。
「……及第点」
納得できるできではなかったっが、ユラは息を吐く。「もうお仕舞。リッター、明日は買いものだからね」
「ああ。行ってこい」
「あんたも来るのよ。それでも護衛なの?」
呆れてそう云うが、リッターは剣をぶんぶん振るだけだ。




