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次の日の朝、ツィークくんが来て、いつものようにお弁当を沢山買った。
「マイファレットのお嬢さん達は、かわったことをはじめたみたいですねえ」
「いいことだと思うよ」
「……なにか裏があるのじゃないですか」
ツィークくんの頬を軽くつつく。凄くいやがられた。
「なんですかあ、もう」
「ツィークくんってひねくれてるなって思って。それに、なにか裏があるとしても、やってることはいいことでしょ。ならいいんじゃない」
「あなたは……ああもう。マオさんは変わり者で、その、おひとよしですから、そういう評価ができるんですよ」
「そう?じゃあマイファレット嬢のまわりのひとは、変わり者でおひとよしばかりじゃん。子どもを預けてるんだもん」
マイファレット嬢が無理に子どもを連れてきた訳ではないのだ。家族が預けると決めて幼稚園にやっているのである。つまり、それだけの信用は、マイファレット兄妹にはある。
ツィークくんは言葉に詰まった。俺はにこっとする。
「ツィークくんが彼女を嫌うのは自由だけど、嫌いってだけでやってること全部を悪く云うのはやめてほしいな。ツィークくんのこと嫌いになっちゃうよ」
「だから、そういう誤解を招くような発言は、控えてくださいっ」
誤解ってなんの。
一波乱。
お昼の配達から戻ったアランさんが、怪我をしていた。みんな慌てて、セロベルさんが走って癒し手を連れてくる。アランさんは殴られたみたいで、目のまわりにまっくろく内出血ができていた。チュニックの裾は裂けているし、口から血が流れている。
「なにがあった、アラン?」
癒し手に恢復魔法をかけてもらっているアランさんに、セロベルさんが訊く。アランさんは目を伏せた。「ちょっと……喧嘩のまきぞえです」
「まきぞえって、どこで」
「配達帰りに……たいしたことないです。すみません、大事になっちゃって。治療費」
「いい。それはこっちでもつ。心配すんな」
セロベルさんは怒ったみたいに云って、アランさんに部屋でしっかり休むよう云いつけた。
髪の短い同士で、ついでに俺はもと・娼妓と思われていて、給仕五人衆からの信頼はある。お茶の時間の少し前に、リューさんから情報がはいった。
アランさんの怪我は、説明のような喧嘩のまきぞえが原因ではない。そうだったらいやだと思っていたが、案の定、娼妓だろう、金なら出すから買わせろと絡んできた揚げ句、首をたてに振らないアランさんに業を煮やして無理矢理ことに及ぼうとしたばかの仕業。
リューさん曰く、その程度だと警邏隊に捕まることはないんだって。なんか、おかしくない?暴行傷害じゃん。それがどうして、お咎めなしなんだよ。
ツィークくんはマイファレット嬢を嫌ってるし、凄く疑ってるけど、そっちを気にするくらいなら、アランさんに絡んだみたいなばかをもっと取り締まれよな。
くしゃくしゃする。こういう時、この世界がとてもいやになる。犯罪者の家族より、犯罪者を捕まえてほしいのは、当たり前の感情だと思うんだけど、違うの?




