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031話 白猫亭

※お詫び、2019年3月28日に改訂作業を行いました。

それに伴い、話の順序や表現が多少変更になっております。

予めご了承いただけますと幸いです。

誤字報告や感想をいただけたら嬉しいです(っ´ω`c)マッ...

 照った陽の光が水溜りに反射し、煌くそれがコウヘイたち三人を出迎えた。

 いつの間にやら雨が降っていたようで、道にいくつもの水溜りができあがっており、ぬかるんでいた。


 帝都の石畳の道とは違い、テレサの町は、道の整備が進んでおらず、冒険者ギルドをあとにしたコウヘイたちは、アリエッタお勧めの、「白猫亭」を水溜りに注意しながら目指して歩いていた――


 それは、拠点登録とイルマの履歴読み取りの作業を待っている間、お勧めの宿屋や武具店等を聞くことにしたときのことだった。


「宿屋は、断然、白猫亭、ですかね!」

「白猫亭、ですか」


 僕は、そう繰り返して、くすりと笑ってしまった。


 何とも猫に縁のあることやら。


「やっぱりって言うくらいですから人気なんですよね? 空いているかな」

「うーん、きっと大丈夫だと思いますよ」


 なぜ苦笑いをしたんだ?


「テレサには、宿屋が一〇か所くらいあるんですが、その白猫亭だけは、酒場がメインの宿屋になっていて、少し賑やかなんですよ。それで、静かな場所を好む人は、食事に行ったとしても宿泊はしないようですね」

「へー、良いじゃないですか。話すのはあまり得意ではないですけど、そういう雰囲気は好きなんですよね」


 帝都で拠点にしていた黒猫亭は、宿泊客の殆どが冒険者であったため、そういった騒がしい雰囲気には慣れていた。


「あと、気まぐれで酒場を閉める日があるので、そのときは他の食事処に行くか……」


 そこで言葉を切ったアリエッタさんは、思い出し笑いなのか、微笑んだ。


「何故かキノコは豊富にあるみたいで、キノコ料理なら宿泊客には出してくれるそうですよ。マスターというか料理長のフーエイさんがかなりの変わり者で、ご自身が納得のいく素材を入手できないと料理を作りたくないそうです」


 ちょっとクセがありそうだけど、そういったのも楽しいかもしれない。


 エルサやイルマも異論はないようで、僕たちは、アリエッタさんのお勧め通り、宿屋を「白猫亭」にすることにした。


 今日は、喧嘩を売られたり、勘違いから僕の正体がばれたり、イルマがゴールドランクだったり、ギルドマスターから直接指名依頼を受けることになったりと、短時間で色々なことがあり、精神的に大分くたくたになった。


 ダンジョン探索を明日に控え、今日は変わり者といわれているフーエイさんの料理でも楽しんで、早くふかふかのベッドで寝たいな、と陽が落ちる前からそんなことを考える。


 ただでさえ暑いのに、湿り気を帯びた空気がプレートアーマー姿の僕には、少々応える嫌な暑さだった。


「暑ーい。それにしても、キノコ料理ね……」

「何じゃ、コウヘイはキノコが嫌いか? あれは、食物繊維が豊富で、その他にも色々と健康に良い物じゃぞ」


 水溜りに入らないように視線を地面に向けたままのイルマが、健康番組の料理研究家の如く、成分説明を大袈裟な口調でしてきた。


「べつに嫌いって訳じゃないけど、やっぱり肉とかの方がいいじゃん」

「じゃあ、残念だね」


 白猫亭は、魚料理が多いそうで、エルサがそう言いながら手を繋いできた。


 少し辛そうな表情をしているので、魔力量が上限に達してしまったのだろう。


 エルサと手を繋ぎながら白猫亭へ向かうこと数分で、その場所へ到着した。


「おっ、ここじゃないかな。アリエッタさんが言っていた通りで、わかり易い目印だね」


 目的地に到着して、まず目に入ったのは、白猫が魚を抱えて手招きをした大きな看板だった。


 これって、持っているのが小判だったら完全に招き猫だよな、と僕は思った。


 扉を押し開けて中に入ると、手前に木製の丸テーブルが二〇卓ほど並べられており、奥がカウンター席となっていた。


 酒場にしては珍しく、その丸テーブルにはクロスがかけられており、一輪の花が装飾を施されたガラス瓶に生けられていた。


 しかも、その花は、テーブル毎で種類が違うようで、その気の配りようも含めて高級レストランを思わせる。


 が、


 高めの天井と外からの陽の光を取り込めるように大きめの窓が沢山あり、開放感と明るい雰囲気を演出しており、気後れせずにアットホームな雰囲気で過ごせそうだった。


 時間が昼食時から大分経っているため、お客さんの姿はまばらだった。


 そんな風に店内を観察しながら、カウンター越しに人がいたので、そちらに向かった。


「こんにちは。三人部屋って空いていますか?」

「こんなに陽の高いうちから……お兄さん中々ですね」

「はい?」


 魔力弁障害があるエルサと別の部屋にはできない。

 かと言って、イルマだけを別の部屋にするのも何か言われそうだったので、無駄なことはせず三人部屋をお願いしたのに、受付の女の子に勘違いされてしまったようだ。


 それにしても、受付の人はエルフなんだね、と宿屋の名前で勝手に猫獣人の宿屋と思っていたけど違った。


「えっとー、僕は、コウヘイといいます。冒険者で暫くテレサに滞在するので、一週間ほどお願いしたいんですが。右にいるのエルサで、左のがイルマです」

「エルサでーす」

「イルマじゃ」

「私はエルフ……名前はまだない……」


 うん、見ればエルフなのはよくわかるよ。


 特徴的な尖った耳が、亜麻色のショートボブからちょこんと出ていた。

 白銀のその瞳は、陰りを見せたように焦点が合っていないようにみえる。


 ウッドエルフは、金髪に深緑の瞳が一般的なのに、そうではないことから、もしかしたらハーフエルフなのだろうか、と僕は、邪推してしまう。


「名前を言いたくないなら構わないですよ。三人部屋、一週間空いていますか?」

「スー……」

「す?」


 何かボソッと言ったように聞こえたけど、よく聞こえなかった。


「スー! 何ぼさっとしてるのよっ、ちょっと手伝って……あら、お客様かしら」


 カウンター脇の入口から、オボンにラーメンどんぶりを乗せた女の子が出てきて大声を張り上げた。


 目の前にいるぼやっとした女の子の名前が、スーというのだろう。


「ちょっと待っていてくださいね。すぐ行きますのでっ」


 その元気な女の子がそう言って、客に配膳してからこちらに駆け寄ってきた。


「お客様、ごめんなさいね。この時間帯のスーは、自分の世界にこもってしまうものでして」

「いえ、大丈夫です。三人部屋を一週間お願いしたいのですが」


 フーエイさんとやらが変わり者と聞いていたけど、このスーという子も大分変っている気がする。


「三人部屋ですね。えーっと……あちゃー、ごめんなさい。二人部屋しか空いていないですね。どうなさいますか?」


 どうせエルサは、同じベッドに潜り込んでくるからそれでも構わないので、二人部屋でお願いすることにした。


「あら、そういう関係でしたの」


 その結果、言い方は違うけどまた勘違いされてしまった。

 性格は違うようだけど、考えることは同じなようだった。

 やっぱり、双子なのだろう。


「いえ、そうい訳ではないですけどね。それよりもお二人は双子ですか? 並ばれると全く区別がつかないです」

「あー、それは良く言われます。私は、フーと申します。区別は、カチューシャの色ですかね」


 そう、このフーという子も、亜麻色のショートボブで白銀の瞳をしており、背格好から顔の形まで全く同じだった。

 髪型くらいべつにしてほしいと思わなくもないけど、フーさんが指差したカチューシャを見てみると、フーさんが赤色で、スーさんが青色で判別できるようだった。


「それならわかりますね。あのー、それと、あれは何ですか?」


 先程、フーさんが配膳したのがラーメンどんぶりだったことが気になって、正にラーメンをすすっているお客を指差して確認してみた。


「ああ、あれは今月のお勧めで、W煮干しラーメンです」

「やっぱりラーメンか」

「お客様はラーメンをご存じで? 私は、マスターから聞いて初めて知ったのですが、サーデン帝国でもご存知の方がいらっしゃるとは、やはり有名なんですね」


 ラーメンの存在を僕が知っていることに驚いたのか、フーさんは、目を見開いてから嬉しそうに満面の笑みになった。


 マスターとは、フーエイさんのことだろう。

 エルサはしょうがないとして、イルマにも聞いたけどラーメンの存在を知らなかった。


 もしや、フーエイさんは地球からの召喚者かもしれない、と思った僕は、もう少し突っ込んでみることにした。


「もしかしてフーエイさんは、勇者だったりするんですか?」

「勇者? いえ、国王様ですけど……」


 国王? 白猫亭の主という意味だろうか。


 聞き返しても要領を得ない回答ばかりだったため、これ以上聞いても意味がなさそうなことから、話をそれくらいに切り上げて、割り当てられた部屋に向かうことにした。


「なんか、人も含めて変わったところだね」


 部屋に入るなり僕は、諸々の感想を述べた。


「うん、変な子だったけど、二人とも凄い強そうだった」

「やはりそうじゃったか」

「え、何のこと?」


 魔力眼で見た二人の魔力は、多くかなり濃密だったみたい。

 流石に、イルマほどの量は無いらしいけど、それ以上に質が良いとエルサが教えてくれた。


 イルマは、魔力ではなく一つ一つの所作が洗練されているところが気になったのだとか。


 二人ともよく見ているな、と感心すると共に、魔力に性質があることは知っていたけど、密度にも違いもあること知り、驚いた。


 まだまだこの世界には知らないことが多い。

 

 明日からは、質も考慮して魔法の訓練をした方が良いかもしれない。


 時間帯が中途半端だったため、町の探索は明日以降にして、のんびり夕飯の時間まで部屋でパーティー名を考える等他愛もない話をしながら過ごした。


 お腹の虫が鳴るころに一階へ降りていくと、驚くことに席が全て埋まっており、アリエッタさんがお勧めするだけあって物凄い繁盛ぶりだった。


 仕方がないので、お勧めのW煮干しラーメンを運んでもらい、部屋で食べることにした。


 それを食べて僕は、確信した。


 絶対フーエイさんは、日本人だ!


 濃厚な煮干しの風味もさることながら、家系ラーメンのガツンとくるスープで、懐かしいその味が五臓六腑に染み渡る感じがして、全て飲み干したほどだった。


 箸の扱いになれていないのか食べ辛そうだったけど、エルサやイルマにも大変好評だった。


 食べ終わったあと、どんぶりを下げに行くがてらフーエイさんに会おうとしたけど、残念ながらフーエイさんは、外に出て行ったあとで会えなかった。


 ここに暫く滞在するのだから、会う機会はこれからいつでもあるだろうと思った僕は、明日のダンジョン探索のことへ思考を切り替えた。


 ダンジョンは、洞窟を下へ進む地下の狭い場所であるため、使う魔法を何にするか等の戦術を入念に打ち合わせし、パーティー名を考えてから、床に就くことにした。


 まるで日本のベッドのようにふかふかで、とても寝心地の良い物だった。


 僕は、久しぶりの感触に大の字になって伸び伸びと寝たかった。

 それでも、羞恥心の一かけらも無いのか、案の定、全裸になって潜り込んでくるエルサのせいで、それは台無しになった。


 ――――身を寄せられ柔らかな女性を背中に感じながら、多感な年頃のコウヘイは、欲望に負けないように一生懸命布団の感触に意識を集中させていた。


 コウヘイは、本日も自分との戦いに忙しく、結局、心休まらないのだった。

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