大家族と男の子 ⑥
悠人が挨拶すると、貴志さんーーお父さんが優しそうな微笑みを浮かべた。
自分の家に知らない人が泊まっていくなんて、普通なら嫌だろうに、この家の人たちは誰ひとりそんな表情を見せない。それはきっと、この人のおかげなのだろうな、と勝手に感じた。
「ただいま」
玄関の扉がガチャリ、と音を立てる。扉が開いて家に入ってきたのは、次女の衣織さんだ。
悠人が挨拶したすぐ後に、部活の用事で出かけていった。
「おかえり、衣織。先にお風呂入る?」
「今日はただの打ち上げだったから大丈夫。家出る前にも言ったでしょ」
「あぁ、そうだったわね。じゃあご飯は食べてきちゃった?」
衣織さんは由紀子さんの問いに、面倒臭そうに頷きながら、二階ーーおそらく自分の部屋に行ってしまった。
「愛想が悪い子でごめんね。昔っからあんな感じなのよ」
「でも、琴より衣織姉の方がいいよ。うるさくねえもん」
「何よ、うるさいのはあんたでしょーが! ていうか、なんで衣織だけ……」
琴さんと碧太くんがまた喧嘩を始める。だが、お母さんもお父さんも、何も言わずにやれやれと言った表情で、そのまま横を通り過ぎていく。
……放っておいていいのかな……。
「おかーさーん! 早く来て、暑い! 交代して!」
「はいはい、今行く!」
唐揚げを揚げていた光莉さんが大きな声でお母さんを呼ぶ。
すると、いつのまにか横に立っていたお父さんが悠人に声をかける。
「騒がしいだろ。まったく、恥ずかしいな」
「……でも、うるさいことって嬉しい事じゃないですか? みんなが元気って印だから」
悠人がそう言うと、お父さんが驚きで目を見張る。
「……うん、その通りだね。ほら、たまにいるんだよ。迷惑な体験者さんが」
お父さんは心の底から嬉しそうに笑った後、眉尻を下げる。
やっぱり大変なこともあるのだろうと悠人は思った。
「さあ、夕飯の途中だったんだろ? 行こう」
お父さんが悠人の背中を押して、リビングまで誘導する。
すると、階段からドスドスと誰かが降りてくるのが聞こえた。衣織さんかと思い、目線を向けると降りてきたのは、長男の陸斗さんだった。
「あ、おかえり。父さん」
「ただいま、もうできたのか?」
「いや、あとちょっと。最後の仕上げって感じ」
なんの話をしているのかわからなくて悠人が首を傾げると、それに気づいたお父さんが口を開いた。
「陸斗はな、芸術系の高校目指してるんだ。僕はそんなに早く決めなくていいと思うんだが……。今はコンテストに出展する作品をつくってる」
「芸術……」
前回でまだ登場していなかった、
父と七人兄弟の長男、そして次女。
これで家族全員出揃いました。




