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死神の鎌で取引を

 あんた、知ってるか?

 人間って奴ァ欲望が尽きねえ。金だの物だの何だのと、ただ山のように積み重なっていく「物」を見ても、まだ満足しねぇときた。

 そんなかにはよ、無茶なもんだっていくつもあんのさ。

 たとえばよ、

 相手を石にしちまう蛇。

 不老不死の妙薬。

 どんな願いだって叶える鏡。

 あんただって、バカな話だと思うだろ?

 だがよ、そんな人間の欲望を叶えちまう店があるのさ。

 いや、人間だけじゃねえよ。そりゃ異形だって欲しがるもんもあるのさ。

 現に、おいらだって欲しいさ。何をかって? そりゃ言えねえけどもよ。

 それはどこにあるかって?

 おいおい、自分で探しなよ。

 まあ、教えんでもないがね。ただ、おいらも又聞きだ。ごちゃごちゃ言われてもわからねえからな。

 いいかい? 一度しか言わねえ。よっく聞けよ。

 その店はどこだって商いをしてる。それがよ、本当に何かを必要としてる奴だけが見えちまう、不思議な店なんだそうだ。

 建物と建物、暗い小道の横、ビルの屋上、物の怪道の端。どこだってそいつはいるのさ。

 求めりゃ、答える。買った相手が天国を見ようと地獄を見ようと、さ。

 つまり、だ。あんたが心から欲しいものを願えば、あっちから出向いてくれるってわけよ。

 あんたは何を望むんだい? あ、いや、やっぱり言わなくていい。おいらだって教えねぇんだ。対等といこうぜ。

 何? 昔、建物の間にぼろっちい店が急に見えたって?

 ほぉ。本当に出会った奴ぁ初めて見たよ。

あんた、何かを強く望んでるみてえだな。

そいつぁ、今でもかい?

 でも、やめといたほうが身のためだぜ。物によっちゃあ、無間地獄行きよ。おぉ、くわばらくわばら。

 どういう意味か? なんだ、それもわかんねえか。

 簡単よぉ。つまりそいつを貰う代価として、あんたの生活は一変しちまうってことさ。良くも悪くもな。

 あんたはその代価を支払えるか? まるで別の人生に変わっちまうかもしれねえってわかってても。

 おいら? おいらはごめんだね。今の生活で十分さ。

 あぁ、あんたたち人間ってのは不便だね。望まなきゃいいもんもあるのにさ。

 憐れ憐れ。おいらたちみてえな角がねぇくせに、人間て奴はどうして鬼より怖いのかね。

 そいつぁあれか。心に角が生えてるからかね。












 よく、欲しいものはなんだと聞かれる。誕生日が近くなると、親だけじゃなく友達にも聞かれる。そういうときは、無難なものを答えるんだ。バットやグローブ、ちょっと高価な物だとゲーム本体、とか。

 まあ欲しい物には変わりない。確かに欲しい物ではあるけど。でも、一番欲しい物じゃない。

 僕が一番欲しい物は、きっと誰かがくれるものじゃない。手に入れられるかどうかもわからない。

 小学校の図書室で読んでいた本に載っていた「アレ」。それを見たとき、衝撃を受けた。僕が欲しい物はこれだと思った。それまでは何を貰っても虚しさを感じていたけど、これが貰えるなら喜んで自分の物全てを差し出してもかまわないと思った。

 その本の名前は忘れたけれど、そこには確かに書かれていた。

 黒いマントを着た、骸骨の絵。それが持っていた、鎌。

 そう。僕が欲しいのは、死神の鎌だ。

 誤解を生むかも知れないが、僕は誰かを殺したいわけじゃない。誰かの寿命を減らしたいわけでもない。

 逆なんだ。命を取るんじゃなくて、命を救いたいんだ。

 どうやって? 簡単だ。死神が落とした鎌を探して、僕が先に拾う。そんで、言うんだ。

 返して欲しけりゃ、僕の弟を救えって。

 そう、僕が本当に欲しいのは、病弱の弟の命なんだ。




 物心ついたときからずっと疑問に思ってた。

 どうして僕はこんなに健康で、弟は学校にも通えないほど体が弱いんだろうって。

 弟は生まれつき病気を持ってた。難しい病名はいつも覚えられないが、とにかく外に散歩に行くのも難しいらしい。

 だから、ずっと負い目を感じていた。いっそ、僕も病気になれば、入院すればってずっと思ってた。

 僕と弟は仲が良いのは、そういう境遇だけというわけではなかった。例えば弟が病気でなくて、僕の世話が要らなかったとしたら、きっと僕たちは兄弟で野球選手を目指していたに違いない。

 これは悪い夢だ。目が覚めたらきっと元気な弟が俺を起こしてくれる。何度そう願って眠りにつき、起きたときに絶望したことか。

 そんな、奇跡的になんとか生きてきた弟が十五歳になった、先月の誕生日。

その均衡が崩れた。

 弟の病気が、急激に進行し始めた。

 大学の中世民俗学のゼミを専攻している僕、いや、俺は、その日からほとんど寝ずに資料を漁った。

 落ちてるはずなどない、死神の鎌を探して。












 ぐらぐらと体を揺すられ、不機嫌に俺は目を覚ました。

肩に手を置いている人物を見上げ、軽く睨む。

「・・・何?」

「怒られるぞ。」

睨み返してきた相手は、同じゼミ生の日吉だった。

 いつもほとんど無表情な日吉だが、今日は珍しく目を細めて苦い顔をしていた。

「お前がいつもこのソファで寝てるから、俺たちが教授に嫌味を言われるんだぞ。」

「あぁ、じゃあ今度からはベッドを搬入しとくよ。」

機嫌悪いのは同じだと言わんばかりに鼻で息をついた。

「別に寝るなとは言ってない。ただ、このソファは教授のお気に入りなんだ。知ってて寝てるだろ。」

テーブルの上に置かれた五冊の分厚い本を見やり、また眉を顰める。

「また家に帰ってないのか。」

「・・・家だと集中できない。」

「・・・栄二くんがいるからか?」

弟の名前を出され、よりいっそう強く睨みつけた。

「栄二は関係ない。」

立ち上がり、本を持ち上げる。その上の二冊ほど、日吉が持ってくれた。

「また、死神の本か。」

「なんか文句あんのかよ。」

喧嘩越しで歩き出した俺を一瞥し、隣に立った。

「なんで死神なんだ?」

「悪趣味ってか?」

「だいぶな。」

ふん、と鼻で笑ってやった。

「お前だって魔女狩りじゃん。悪趣味。悪魔。変態。」

日吉がくすりと笑みを漏らした。

「お互い様だな。」

「うん。」

素直にそう言うと、先ほどの重い空気が瞬時に和んだ。

 図書館室に入ると、顔なじみの司書がにこにこと挨拶をしてきた。俺と日吉もそれに応じながら、奥へと歩く。

 中世民族・史学の棚に入ると、途端に空気が変わった。

 重々しく、人を寄せ付けないような匂い。俺はここの雰囲気が好きだった。

 唯一、賛同してくれたのは、日吉だけだった。何故だろうか、こいつとは正反対のようで、よく気が合うのだ。

「えーと、この本は・・・ここの列のぉ・・・」

指で触れながら、何メートルもある一列を辿っていく。ここの蔵書は本当に多く、他では滅多にお目にかかれない本も大量にある。まさに宝庫の山なのだ。

「あったあった。次は、ペストとー?・・・・あれ、ねえな。」

眉根を寄せながら辿っていくと、どんと肩があたった。

 見れば、日吉が二冊の本を下に置いて別の本を読みふけっていた。

「あのぉ、日吉くん? まずは返そうや。」

冷たく一瞥すると、またすぐに本に目を戻す。

「俺の本じゃない。お前、戻しとけよ。」

「ええ? そこはお前、普通は親切に返しとくべきじゃない?」

「・・・いい材料の本を見つけたんだ。」

ちらりと背表紙を見せてきた。

 魔女狩りについての本である。

 確かに、読みたいだろうけどさ。

「・・・わかったよ。」

 ぽつ、と呟くと、二冊を拾い上げ、再び棚に目を行き来させた。

 それから、どのくらいかかっただろうか、やっと全部戻し終えたときには、昼休み開始のチャイムが鳴っていた。

「はぁー、終わった。おし、昼飯行くか。」

「前回は俺がおごったから、次はお前だな。」

「はいはい。今日はなんにする?」

「・・・パン。」

あくびしているその顔のまま、日吉に振り向いた。

「そんなんでいいのか?」

にやりともせず、真剣に日吉が頷いた。

「・・・話しがある。」

「え、なに? その手の話?」

「どの手だ?」

俺のぎこちないひきつり笑いで察した日吉が、鼻で笑った。

「違う。お前の欲しい物の話だ。」

ぴた、と足が止まった。

 先ほどとは打って変わって、凄みを利かせた瞳で睨んだ。

「・・・本当か?」

日吉は視線をそらしながらポツリと言った。

「俺も聞いただけだが、それでもお前には伝えておこうと思ってな。」

それからは二人とも一言も喋らず、無言でパンを買った。

 普段からも人気の無いベンチに座り、やはり言葉を交わさずにパンをぼそぼそと食べ終えた。

 その後にすぐ会話をするわけでもなく、重い沈黙が俺らを包んでいた。

 十分ほどしたくらいだろうか。耐えられなくなって、俺が沈黙を破る。

「んで、その・・・俺が欲しい物の話って?」

考え込んでいた日吉も、前を向いたまま小声で言った。

「これが本当の話なのか、ただの都市伝説なのかはわからない。ただ、こういう話を聞いた、というだけだ。」

小さく頷くのを確認すると、日吉はため息と共に語りだした。




「俺の先輩の友達の人で、俺も会ったことはない。でも、そういうオカルト系にかなり詳しい人らしいんだ。その人も誰かから聞いたって話なんだけどな。」

言いにくそうに言った後、不意に俺の顔をまっすぐに見つめた。

「建物と建物の間、もしくは裏道の横、もののけが通る道の端。『それ』はどこでも現れるらしい。場所も時間も関係ない。『それ』は突然、目の前に現れるとか。本当に突然現れるのか、それともそれまでそこにあって突然見えるようになるのかはわからないそうだ。」

そこでたまらず口を挟んだ。

「いいから、『それ』ってのは一体なんなんだよ? 俺の欲しいアレなのか?」     

何度か口を開け閉めすると、意を決して声を出した。

「お前、アンティークは知ってるよな?」

「あ? ああ、骨董品だろ?」

「そうだ。『それ』は、骨董品屋なんだ。それも、ジャンルがない。望むもの全てが揃っているとか。」

なんだか拍子抜けした。日吉が言っているのは、てっきり死神の鎌のことだと思っていたのに。

「それで? その骨董品屋に、鎌が置いてあるってわけ?」

「俺はただ聞いたことがあるだけだと言ってる。俺に聞かれてもわからない。ただ、そこにはなんでも揃ってるらしい。」

ふん、と鼻で笑った。確かに死神の鎌を探す俺もバカだが、こんな話を真面目に語る日吉もバカだな、とおかしくなった。

「・・・バカにしてるだろ。」

「いーえ。そんなそんな、とんでもない。」

一本調子で淡々と吐き捨てるのを横目で見ながら、ため息をついた。

「・・・俺もそう思った。だが、お前にはすがりつくものを選んでいる場合じゃないだろう。」

その言葉に、顔が凍りついた。

 そうだった。もう、あまり時間がない。

 昨日も栄二は発作を起こしかけた。このままだと、発作を起こして病院に行った姿が最後になってしまうかもしれない。

 日吉は立ち上がると、俺を見下ろして言った。

「その骨董品屋は、心から何かを望んでいる者の前にしか現れない・・・時間が無いだろ。頼るだけならタダだぞ。」

そういうと、日吉は振り返りもしないで教室に戻っていった。

 まだ夏の盛りなはずなのに、腕にはびっしりと鳥肌が立っていた。




 日曜日、俺は気がつくと町を出歩いていた。

 それまでも、ヒマさえあれば外に散歩に出ていた。

 帰る頃には、バカなことをと苦笑するのに、次の日曜日が来れば探さずにはいられない。

 そうして一ヶ月は過ぎようとした頃だった。

 結局は見つからず、半ば諦めていた。

 夏の盛りが過ぎようとしていた頃、それは起きた。




 その日はかなり寝苦しくて、確かベッドに潜ってからも一時間くらいはごろごろしていた気がする。

 やっとのことでまどろんできた時、耳を劈くような女の悲鳴が聞こえた。

 おふくろの声だ。

 慌ててベッドを転げ降りて部屋を飛び出す。念のために、高校のときに買った土産の木刀を引っつかんで。

「どうした!?」

親父がどたどたと階段を上ってくる。そう、聞こえたのは俺の部屋の隣。

 つまり、栄二の部屋だ。

 最悪の予感が過ぎる。嘘だろ、と自然と呟いていた。

 どうかゴキブリであってくれ、なんて場違いなことを考えていた。

 親父が乱暴にドアを開ける。俺も後ろに続く。

 そこで見たのは、泣いてパニックを起こしているおふくろと、顔が真っ青になって首を押さえている栄二の姿。

 まずい。栄二の目がもう朦朧としてる。

「栄二ぃ!」

親父が慌てて駆け寄った。振り向き、もの凄い剣幕で俺を睨む。

「救急車呼んで来い! 早く!」

弾かれるように俺は部屋を飛び出し、万が一の為と部屋の真ん前に置かれていた電話に飛びついた。

 手が面白いほど震えて、上手く番号が押せない。

「おち、おち、落ち着け。きゅ、救急・・・」

必死に自分を宥めながら番号を打つ。

 すぐにオペレーターが出てくれた。半ばパニックになりながら、早口で栄二が発作したことと、住所を告げた。

 そこなら五分でいけるから、とりあえず応急処置をしてくれと指示が出される。だが、耳に入ってもすぐ抜けていく。

 何度も同じ言葉を繰り返されたが、俺の頭で日本語になってくれない。

 オペレーターが落ち着いた声で、よく聞いてと言った。

 あなたはこれから言うことを、声を出して繰り返してくれればいい。

 つまり、親父に伝えろ、ということだ。

 オペレーターが淡々と指示を出す。俺はとにかく一言一句間違えないよう、瞬きもせずに大声で繰り返した。

 親父が手際よく処置を施していく。

 気がつけば、自分の無力さに涙を流していた。

 俺はただ、バカみたいに言葉を繰り返すだけだったから。




 やっと我に返ったときは、俺は病院の待合室に座っていた。

 夜中だから消灯されていて、ほんのり非常灯が緑に光っているだけだった。

 いつから、ここにいたんだっけ?

 きょろきょろと辺りを見回す。患者どころか看護師も通らない静かな病院は、結構不気味だった。

 栄二はどうなったんだろう。親父たちはどこにいるんだ?

 ふらふらと病室を歩いていると、奥の病室から医者と看護師が出てきた。

 俺を見るなり、ぺこりと頭を下げて通り過ぎる。

 ああ、あそこか。

 違うかもしれないというふうには思わなかった。

 案の定、そこは栄二の病室だった。

 おふくろは栄二の隣に座り、親父は深刻そうにドアの横に立っていた。

 親父が俺に気づき、ぽんと肩を叩いた。

「おう、淳一。大丈夫か。」

疲れた笑みを浮かべる。いや、笑みとは程遠い、引きつりに近いものではあった。

 静かに頷くと、親父も頷いた。

「じゃあ、母さん。明日替えの服持ってくるから。今日はよろしくな。」

わずかに頷いて、おふくろは再び嗚咽を漏らした。

「今日は母さんに任せて、俺たちは帰ろう。」

栄二の顔を見る。今は落ち着いている。顔色も悪くない。

 その安らかな寝顔を見てると、今までのことが嘘みたいだ。

 離れがたい気持ちを抑えながら、俺たちは家路に着いた。




 あの後、全然眠れなかった。いや、うとうとくらいはしたが、それでも熟睡は出来なかった。

 親父は学校には行かなくていいと言ってくれたが、俺は無理にでも行きたかった。

 授業に出るつもりはない。ただ、家に居たくなかった。図書館でも調べたかったし。

 学校に登校してすぐ、図書館に向かった。

 早く見つけなければ。栄二がどれくらい持つかわからない。

 早足で中世民族・史学の棚に入った。

ひんやりとした、古い匂いがする。

 そこには、先客がいた。

「・・・日吉。」

日吉も驚いたように目を丸めて俺を見つめる。

「早いな、淳一。」

また魔女関係の本を持っている。いつもならここで悪趣味だとか、からかうところだが、今日はそんな気分にはなれない。

 いつもと違う俺に気づいたのか、日吉が本を閉じて俺を見た。

「・・・どうした? お前、くま酷いぞ。」

「あぁ・・・まあ、ちょっと。」

眉を顰め、呟くように言った。

「・・・栄二くんになにかあったのか?」

さすが、鋭い。俺は目の前の書棚に目を走らせながら、曖昧に答えた。

「発作か?」

無言で頷く。

「今、状態は?」

無口で無愛想なくせに、何故か栄二のことをよく心配してくれた。何度か家にも来ていて、栄二も「ひよさん」と呼ぶくらい仲が良かった。

「・・・・安定してる。今は、大丈夫。」

日吉が苦々しい表情を浮かべた。本気で心配してくれているみたいだ。

俺は落ち着きなく、本を出したり戻したりをしていた。本のタイトルも頭に入ってこないので、何をしているのか自分でもわからない。ただ、何かをしていたかった。

 不意に、日吉が俺の手を止めた。何かと思ってみると、日吉は今までにないくらいに真剣な顔をして、呟いた。

「お前、こうしてる場合じゃないんじゃないか。」

「・・・?」

何が言いたいのか、その目を見つめるが、まったくわからなかった。

「あの都市伝説、頼るべきじゃないのか?」

何を言い出すかと思えば、都市伝説?

「おい、こんなときにふざけんなよ。そんなの頼ってたって何にも出来ないって。」

「ここで大して手がかりもない本を漁ってるほうが、どうにかなるのか?」

ひく、と口の端が引きつった。

 そんなの、俺が一番わかってんだよ。無意味だってこと。

「だからって、そんなのにすがりつけるかよ!?」

思わず声を荒げてしまった。

 だが、日吉はそれにも動じなかった。ただ、俺を見つめていた。

「・・・俺は、探す。」

ぽつりと言った。

「は?」

「俺だって栄二くんを発作から救いたいと思ってる。だから、俺は都市伝説の店を探す。」

「ちょ、ちょっと待てよ。でも。」

「・・・何か行動したいんだ。栄二くんのために。」

そういうと、ふらりとどこかへ行ってしまった。

「・・・俺だって、あいつに出来ることならなんでも・・・」

本を取ることも忘れ、ただ、ぎりと歯噛みした。




 栄二の病室に行くと、おふくろが疲れた顔で花を生けていた。

 俺の顔を見るなり、少し微笑む。

「栄二ね、今は安定してるって。とりあえず、発作さえ起きなければ大丈夫だろうって。」

ほっとしてカバンを下ろした。栄二の横に座る。

 今日も顔色は大丈夫だ。まだ目が覚めないけれど、もう明日か明後日くらいには起きるだろうとのこと。

 おふくろと少し話しをしてから、俺は家路についた。

 もちろん、行き帰りもちゃんとビルとビルの間を見たりした。

 でも、見つかるわけがない。

 そうだ。こんな都市伝説、どこが信用できるってんだ。

 ちくしょう、と口の中で呟いた。

 俺に出来ることって、なんなんだよ。




 その日、変な夢を見た。

 俺は、学校の真裏の通りを歩いていた。

 なんでこんな滅多に通らないとこ、歩いてるんだろ。

 そんなことを思いながら、俺はきょろきょろと辺りを見回していた。

 その足がぴたりと止まる。

 自分の体なのに、何に反応して止まったのか、わからなかった。

 よくよく意識してみれば、そこにあったのは―

小さな骨董品店だった。

 店と店の間にこじんまりとあったが、その存在感は圧倒的なものだった。

 というより、引き込まれていくような妖しい魅力があった。

 木の板に店の名前を彫ってぶら下げている。

 「音木箱」、と。




 はっとして目が覚めた。

 冷や汗でべとべとする。気持ちが悪かった。

 やけにリアルな夢だった。そこにあるのが本当のように。

 考えすぎて夢まで見たか、と苦笑いして起き上がる。

 夢で見たって何にも解決しないのに。

 そう思いながら、自然、大学に向かおうと体は動いていた。

 まるでその裏の通りに行こうと、勝手に体が動いているように。




 学校に着くと、いつものように掲示板を確認した。もうくせになっている。今日も授業に出るつもりはないのに。

 見終わると、そのまま学校の裏の通りに足が向いた。

 通りはまだ授業中だからか、学生の姿はなく、静かなものであった。

 何気なく、辺りを見回す。

 確かに、夢に出てきた通りとそっくりだった。

 だがそれだけで何があるというわけでもない。夢は無意識が現れることが多いからだ。

 かといって自分に出来ることは何もない。

 だったらもう夢でもなんでもすがりつくしかないだろ。

 そう自分に言い聞かせ、歩きながら隅々にまで目をいかせた。

 そのときだった。

「・・・お前、こんなところで何してんだ?」

目の前に日吉が、きょとんとして立っていた。

「いや、お前こそ何やってんだ?」

「いや、俺は・・・」

そこで、怪訝に眉を顰めた。

「お前、あの骨董品屋を探してるのか?」

バカにしてるわけではない、真剣な顔で言った。

 嘘を言ってもなんとなくすっきりしない。

 仕方なく今日の夢で見たことを話した。

「そうか・・・」

言いにくそうに、日吉が黙った。

 何を考えてるのだろうか。

 思ったことが顔に出ていたのだろうか。日吉が表情を変えないまま言った。

「いや、信じてもらえないだろうが・・・俺も、変な夢を見た。」

「え?」

「いや、夢の中で俺は骨董品屋を見つけたわけじゃないんだ。ただ・・・ここで、お前と会う夢だ。」

「俺と?」

「ああ・・・ここでな、俺がぶらぶらしてると、お前に会うんだ。それでお前と一緒に歩いて、それで・・・そこで、お前が突然いなくなった。そんな夢だった。」

まるで夢を再現しようとするかのように、日吉は歩き出した。

 慌てて俺もその後を追う。

「そうだ、こうやって歩いてて、何かを話してた。」

「突然いなくなったのか?」

「ああ、お前が何かを言って、振り向いたらいなくなってた。」

そういえば、俺が見た夢も、誰かと歩いていた気がする。

 そう、ちょうど、こんな感じで。

 はっとして辺りを見回した。

 そうだ、こんな景色だった。

 中華飯店があって、その先にクリーニング屋があって、そんでその先には本屋。その先は・・・

「日吉。この先に、あの店があるかもしれない。」

日吉が驚いて振り返った。

「本当か?」

「ああ。ここまで夢の中で見た。」

自然、早歩きになった。

 まさか、と思いつつも、どこかで確信を持っている自分がいる。

 中華飯店を過ぎ、クリーニング屋を過ぎた。

 本屋が、見えてきた。

「この、先だ・・・」

心臓がばくばくと音を立てる。

 十年間探し続けた「あれ」が、見つかるかもしれない。

 走りたくなる衝動を抑え、「店」が逃げていかないように足音を静かに立てていた。表現はおかしいだろうけど、そのときは本当にそう思ってたんだ。唯一栄二を救える手がかりを逃したくなかったから。

 本屋が、近づく。

 日吉が不意に、足を速めた。たぶん、あいつも早く見たい一心なんだろう。

 いつのまにか、辺りに靄が出始めていた。

 気づかなかった。今まではこんなの出ていなかった。

 いや、おかしい。朝ならわかるが、今は午前、というか昼間。こんな時間に出るのなんて、あんまり聞いたことない。他の国ならわかるが、ここは日本の東京。靄の出る条件は揃ってないはずだ。

 日吉、と呼びかけようとした瞬間だった。

 目の前には、誰もいなかった。

「え、日吉?」

声をかけたが返事はどこにもなかった。まるで最初から一人だったかのように。

 なんとなく、日吉とは違う次元に来たのだろうと、漠然と感じた。それぐらい、異空間に来てしまった感じがした。

 ふと、足を止めて横を見た。

 その途端、そこだけ、さあっと靄が晴れた。

 そこにあったのは。

 小さな、とても小さな、骨董品屋だった。

 ぞくりと背筋が寒くなる。

 まさかと思いつつ、一歩店に歩み寄った。それに呼応するかのように、そこだけ靄がさっと晴れていく。

 店先にぶら下がった何か。

 見てみれば、古い看板のようだった。

 達筆で何か書かれている。

 手でそれを掴み、よく読んでみた。

 古くなって黒くなっていたが、しっかりと読める。

 「音木箱」、と。

 再び背筋に冷たいものが走った。

 夢が、現実になってしまったのだ。

「うそ、だろ・・・」

信じられない。けれど、目の前の光景は確かにそこに存在する。

 嘘じゃ、ない。

 勝手に、足が動き出した。引き込まれるように店に歩き出す。

 意識していないのに、手が扉を押した。

 もう、後戻りは出来ないことは、わかっていた。




 軋んだ音がして、扉が開かれた。中から甘いような渋いような匂いの風が頬を撫でていった。

 中は、真っ暗だった。

 かろうじて日の光で、中に何があるのかわかった。

 骨董品屋と聞いて浮かんでいたイメージそのままのようなところだった。

 絵がところどころにかけてあったり置いてあったり、つぼがちょこんとあると思えば、本棚には溢れ出しそうに古本が詰まっている。

 中に一歩踏み込むと、驚くほど冷えていることに気づいた。

 ちりん。

 扉に取り付けてあった呼び鈴が、閉まると同時に涼やかに鳴った。

 そのときだった。

 辺りは薄暗いのに、何故かそれだけは浮かび上がるように見えた。

 黄金色の刺繍が入った赤い服を着た、二つの大きな人形。本物の五歳くらいの子どものサイズで、こちらを見ていた。

 その突然さと人形とは思えないリアルさに、再び鳥肌が立った。

 いや、それは人形ではなかった。

「歓迎光臨!」

「歓迎光臨!」

二つが声を揃えて言った。鈴のような、美しい声だった。

 その二つ、いや、二人の子どもは、にっこりと笑って俺の前に走り寄ってきた。

「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいませ!」

にこにこと可愛らしい顔で笑う。

 事態を把握できず、呆然としていた俺に、ぺこりと頭を下げた。

「お探し物はなんですか?」

「お探し物はどれですか?」

交互に喋り、また笑う。良く見れば、一人は弁髪の男の子、一人は髪を結わえた女の子であった。

 驚きすぎて何も言うことが出来ない俺に、二人は眉根を寄せた。

 くるりと背を向けこそこそと顔を寄せ合う。

「あれ? 日本人じゃないのかな?」

「あれ? 言葉間違ったかな?」

「おかしいね。動かないよ。」

「おかしいね。喋らないよ。」

おかしいねえ、と二人が首を傾げた。

 そのとき、不意に空気が揺れた気がした。

「こら、二人とも。お客様に背を向けちゃダメでしょ。」

凛とした声。高いのに、重みのあるような、そんな声がした。

 部屋の奥から、その声がした。

「いらっしゃいませ。お探しの物なら、ここであなたを待っていましたよ。」

暗がりから出てきたその人物に、怖さや疑問などすべて吹っ飛んでしまった。

 さらさらとした柔らかそうな髪は優しい赤色に染まっていた。可愛らしい大きな瞳は吸い込まれそうなほど漆黒の色をしている。まだ十二歳くらいのその少年は八重歯を見せてにこりと笑っている。

 その美しさに、思わず見惚れてしまった。

ラフな洋服に身を包み、ゆっくりと俺に歩み寄った。

「僕はこの『音木箱』の主。名を龍稀と申します。」

男女の子どもが少年の裾を掴んだ。

「この子たちは双子なんです。男の子は禮麒。女の子は宝麟。ほら、二人とも挨拶して。」

「禮麒と申します。」

「宝麟と申します。」

ふかぶかと双子が頭を下げた。

「淳一さん、ですね?」

声が出なかった。何故名前を知っているかという疑問も、浮かんでこなかった。

 本能的に感じていた。

 ここは人間が来るような所じゃない。異界の店なんだと。

「お探し物はこちらですか?」

右手の手のひらが舞うように動く。俺は思わず右手を見つめた。

 ぴたりと手が止まったその先に目線を移した。

 心臓が、止まった気がした。

 傘立てのような壷に入れられていた、棒のようなもの。

「そ、それ・・・マジ、か・・・?」

「ええ。こちらでしょう?」

少年がそれを壷から抜いた。

 かなりの長い。少年の身長を超えるくらいだ。

 そしてその先端には、棒の半分くらいの長さの鋭い刃物がついていた。

 それは、まさしく。

 死神の、鎌だ。

 絵にあった、まさしくそれであった。

「こちらは死神が落とした鎌です。別の国ではこれをデスサイズと呼びます。大きいでしょう?」

死神の鎌を持ちながら、少年はにこりと笑う。

「さあ、どうぞ。」

鎌の刃物の部分を俺に当たらないように向け、渡してきた。

 一生有り得ない夢だと思っていた。

 死神の鎌を、手に入れるなんて。

 緊張で手が震える。

 少年がそっと俺に手渡した。

 ずっしりと重い。けど、持ち運べない重さじゃない。

 現実的な重みが、手のひらから確かに伝わる。

 夢じゃ、ない。

「・・・十年以上、探してた・・・」

俺は鎌に向かって呟いた。

「ずっとずっと、探し続けてたんだ・・・」

不意に涙が出た。ぽろぽろと後から後から零れ落ちる。

 ああ、やっと、栄二を助けることが出来る。

 やっと、栄二の役に立つことが出来るんだ。

 ずっと苦しかった。

 俺だけが、元気なこと。

 栄二にすべて背負わせてしまったような気がしていて。

 その思いから今、解放されたように感じた。

 泣いている俺を、少年は優しく見つめた。

「よかったねー。」

「ねー。」

二人の子どもが嬉しそうに顔を見合わせている。

 嬉しくて伏せていた顔を、俺は我に返ったようにあげた。

 そういえば、金を持っていない。

 何かを買おうと思って出ていなかったから、財布を家に忘れていたのに今、気づいた。

 慌ててポケットを探るが、金目の物は一つも入っていない。

 俺が焦っていることに気づいたのか、少年はやんわりと首を振った。

「お金は要りませんよ。ここではお金は何の価値もない、ただの飾り物なのです。」

「え? いや、でも・・・」

「その死神の鎌、ご購入されますか?」

もちろん、と言おうとしたが、金はおろかそれ以上の価値のあるものを俺は持っていない。

 しかも、ここは都市伝説の店である。家に帰って何かを持ってきたとしても、もう一度巡り合える可能性はゼロに等しいのではないのか。

第一、死神の鎌に見合う物を、俺は持っているのか?

 その心配を察したように少年は笑んだ。

「あなたの物ならなんでもよいのです。それも、大切な物ほど価値がある。例えば、そう・・・」

少年は横の棚から古びた本を手にした。

「これは十七世紀ロンドンで、サー・シンプソンという方から買わせていただきました。これは彼の記憶。記憶すべてと引き換えに、彼は大富豪になりました。彼が買っていったのは富豪になる絵画。」

それを丁寧に仕舞うと、今度は別の棚から青い瓶を取り出した。

 その中には、丸い形の美しい宝石が入っている。

「これは八世紀のカリブの海にて、人魚のサレから買わせていただきました。これは彼女の涙。泣くという感情と引き換えに、彼女は人間になりました。彼女が買っていったのは人間になる薬。」

ことりと棚に戻すと、俺に向き直った。

「さあ、あなたは何をお売りになりますか?」

突然そう問われ、俺は動揺した。

 何を売る、だって?

 売るものは何だ?

 大富豪になるために記憶を売った男。

 人間になるために涙を売った人魚。

 信じられない話ばかりだが、なんとなく納得出来る。

 ここは、人間にも妖怪やモンスターにも、通用する商売をしているのだ。

「大切であればあるほど、良いのです。ちなみにそのデスサイズは―」

少年の瞳の中の瞳孔が、きゅっと細まった。

 まるで爬虫類のような瞳に変化したのである。

「うわっ!」

俺は思わず声を上げた。

「ああ、すいません。僕のこの目は、その商品がどれだけ大切とされているか読み取ることが出来るんです。」

照れたように少年は笑った。いわば目利の道具ですね、と言葉を付け加える。

「そのデスサイズは、死神にとって存在意義そのもの。それが無いと死神は意味の無い者になってしまう。それほど大切なものです。えっと、以前にも四名の方がそのデスサイズをお求めになっておりましたが、それに見合う物をお持ちではなかったのでお断りいたしました。」

存在意義と同程度の物を差し出せと言っている。

 それは、かなり高額商品であるに違いなかった。

「いかがしますか?」

少年が問う。

 俺は迷いに迷った。

 存在意義と同じくらいの物を、俺は持っているのか?

「・・・・すいません、何があるのかわからなくて。」

素直に謝る。少年に文句でも言われるかと思ったが、意外にも優しく笑っている。

「ええ、そういう方は多いですよ。特に人間のお客さんには。」

またあの瞳孔を尖らせ、今度は俺を見つめた。

 俺を値踏みしているのだ、そう悟った。

 俺は目を瞑った。

 もしここで俺が商品価値無しだと決定されてしまったら、死神の鎌を手に入れられなくなる。

 きっとこの機会をのがしたらもう二度と手に入ることは無いだろう。

 この十年間が、無駄に終わるのだ。

 緊張して震えていた俺に、声がかかった。

「もう大丈夫ですよ。目を開けてください。」

そろりと目を開ける。少年を顔を窺った。

 少年は、満足そうに笑っている。

 じゃあ、俺は鎌と同じくらいの価値があるものを持っているということだろうか。

 だが、何を売れというのだろう。

「あなたがお持ちの商品で、この品と見合うものはですね。」

す、と少年は俺を指差した。

「あなたです。」

「・・・は?」

「あなたの存在そのものと、この鎌は同じ価値があります。」

意味がわからずに黙る俺を、二人の子どもがつっついた。

「デスサイズとお兄さんは同じなの。誰かにとってとても大切なの。」

禮麒と呼ばれた男の子が身振り手振りで言った。

「前に来た人たちは違ったのよ。皆自分ばっかりだったの。デスサイズで誰かを殺そうとしたのよ。」

宝麟と呼ばれた女の子が口を膨らませて言った。

「でも、お兄さんは違うよ。」

「お兄さんは助けるため。」

「だから、お兄さんは愛されてるの。」

「デスサイズも死神に愛されてるの。」

「同じなの。」

「同じなの。」

ねー、と二人は声を揃えた。

「な、なんで・・・」

何故、理由を知っている?

 日吉にしか話したことなかったのに。

「ここでは嘘はつけません。」

穏やかに少年が言った。

「ここでは隠し事もすべて暴かれてしまいます。自分でも知らないものまで。さて、どうされますか?」

少年は俺を見つめる。その目はとても優しかった。

 少年は何も言わず、けれど頭の中に声が響いた気がした。

 いいんだよ。

 例え、死神の鎌を買わなかったとしても。

 それはきみのせいじゃない。

 弟は、寿命だったのだから。

 そう言われてる気さえしてきた。

 きみは、頑張ったのだから。

 不意に鎌を掴んでいる手が緩む。

 わかってた。

 本当は気づいてたよ。

 もうずっと前から、疲れてたってこと。

 俺はもう、死神の鎌を探すのを、やめたかったんだ。

 緩んだ手に力が入る。手が震えていた。

 自然、涙も溢れていた。

 ごめん。ごめんな、栄二。

 ごめんな、父さん、母さん。

 ごめんな、日吉。

 俺はもう、疲れたよ。

 握っていた死神の鎌を、少年に差し出した。

 涙で溢れる目で少年を見つめ、俺は言った。

「これ、ください。」

少年は少し悲しげに言った。

「代価は・・・あなたですよ?」

「構いません。これください。」

双子が顔を見合わせている。驚いたようだ。

 二人が何か言おうとするのを少年が遮った。

「承知いたしました。」

深々とお辞儀をする。

「では、デスサイズをお売りいたします。」

透き通るような少年の声が、俺の脳に響いた。




 気づいたとき、俺は家の前に立っていた。

 手には布に巻かれた、木刀くらいに小さくなった死神の鎌を握っている。

 そう、夢じゃないんだ。

 俺は、とんでもない買い物をしてしまったのだ。

 死神の鎌を買うために、俺は俺自身を売ったんだ。

 けれどその言葉がいまいちしっくりこない。売ったけど、これからどうなるんだろう。

 とりあえず家に入る。中には誰もいなかった。

 きっと親父もおふくろも栄二のところなのだろう。何処へ行っていたのだと問いただされなくてよかった。

 俺はまっすぐに自分の部屋に入ると、死神の鎌を窓辺に飾った。

 今日は満月。その光りが、ちょうど鎌に当たるように。

 デスサイズを売ってもらった後、少年は死神の呼び方を教えてくれた。

 満月の光りに鎌を浴びせろ。そうすれば鎌を落とした死神がやってくる、と。

 アフターサービスというやつですよ、と言った少年の顔は、少し憂いを帯びていた。

 あなたがその鎌を使ってやりたいことを実行したそのとき、あなたを代価として頂きに参ります。

 その言葉が脳裏に浮かぶ。

 店を出た直後、いつの間にか俺は家の前に立っていて、今に至る。

 鎌に巻きつけてある布を外す。

 外した瞬間に、鎌は元の大きさに戻った。これも少年が運びやすいようにとサービスしてくれたものだった。

 月光に光る刃は、禍々しくも美しかった。

 どれだけ待てばいいのかわからず、俺はベッドに寝転がった。

 もし死神が来たとして、栄二を助けることが出来たとしたら、俺はどうなるのだろう。

 奴隷商人の下に売られるのだろうか。もしくは、人間の新鮮な肉として売られるかもしれない。

 そんな幼稚な想像をしては、ぞくりと身を震わせた。

 いずれも、可能性が無いわけじゃないのだ。

 なんたって、相手は人間じゃない、と思う。人間のみを相手に商売をしているわけじゃないし。

 震える体を必死に押さえつけていた、そのときだった。

 頭のほうから、がたりと音がした。

 慌てて振り返ると、窓が風に揺れただけだった。

 なんだ、とほっと息を吐き、再び横になろうとして、気づいた。

 月明かりが、無くなっていた。

 慌てて起き上がる。

 窓を見ると、そこには。

 ホラー映画に出てくるような、漆黒の布を纏った、骸骨がこちらを見ていた。

 息が喉で詰まる。あまりの非現実的な光景に脳が幻覚だと叫ぶ。

 骸骨はゆっくりと窓枠に手をかけ、中に入ってきた。

 死神の鎌を、じっと見つめながら。

 死神は窓枠を乗り越えて、俺の部屋に降り立った。

 鎌を見つめていた顔が、ゆっくりとこちらを向く。

 目がある場所には、ただ真っ黒な空洞があるだけだった。でも、俺を見つめているのを感じる。

 もしかして、と恐怖に満ちた心で思った。

 俺を売るというのは、死神に命を取られると言うことなのではないかと感じた。死神の鎌を買う代わりに、俺の魂を売る。有り得ない話ではない。

 いやむしろ、そちらの方が筋が通っている気がした。

 ごくり、と喉が鳴る。震えは最高潮に達していた。

 俺は覚悟した。死神に命を取られようと、それで栄二が助かるなら。

 でも、怖い。

 死神は俺を覗き込むように首を傾げて見つめている。

 真っ黒な布がふわりと動く。

 そこから見えたのは、異様なほど真っ白な、骸骨の手。

 それが俺に向かって伸びてくる。

 俺は目を瞑ることさえ出来なかった。

 震えながら、その手が俺を殺すのを、待つしかなかった。

 俺の首に向かってきたその手が、突如方向転換した。

 俺の右手をいきなり掴んだのだ。

 叫ぶことすら出来ない俺は、完全に固まってしまった。冷たい骨の感触が全身の肌を粟立たせる。

 右手の骨の手が俺の右手を掴むと、まるで握手するかのように軽く上下に振った。

「きみがデスサイズを見つけてくれたの? いやあ、ありがとう! 助かったよ!」

唇も舌もないはずの死神から、意外にも明るくて活発な声が聞こえた。しかも少年のような無邪気な声だ。

 俺はきょとんとして骸骨を見つめた。

「もー、探して探してさあ。二百年くらいは経ったかなあ。ずっと無くて諦めてたんだよねえ。」

気さくにそう言って、死神は俺から手を離した。

「そりゃ二百年くらいあっという間だったけど、やっぱ仲間からバカにされるでしょ? もう必死で必死で。」

あははは、と軽やかに笑う。

「ねえこれ、どこにあったの? 海の底? 山の中? それとも・・・あ、博物館とか!」

恐怖心が驚愕で吹っ飛んだ俺は、唖然としながら答えた。

「そ、それ・・・・音木箱って、いう、あの、骨董品屋に・・・」

「ああ、音木箱! あそこにあったのかあ。行けば良かったなあ。」

ぺしゃりと自分の頭を叩く。いや、正確にはかつんと乾いた音がした。

「そっかそっか。そこにあったのか・・・ん?」

何かに気づき、考え込むように死神は首を捻った。

「そうすると・・・きみ、これを買ったの?」

はっとして顔をひきつらせる俺に、死神は手を振った。

「あ、大丈夫大丈夫。強奪する気はないよ。それじゃルール違反だしね。でも、そうすると、これはきみのなんだよなあ。」

うーん、と考え込んでいる。

 俺は恐る恐る口を開いた。

「あの・・・これ、あんたのなんだろ?」

「うん? そうだよ。あ、でもいまはきみのだね。」

唾を飲み込み、俺は意を決して言った。

「取引・・・しないか?」

「取引?」

「あんたはこれを返して欲しい。そうだろ?」

「うん。でないと僕、お仕事出来ないからねえ。」

「俺は、あんたの力を借りたい。」

「僕の力?」

俺は勇気を出して立ち上がった。ベッドを降り、死神に背を向けないように動いて、死神の鎌を掴んだ。

 それをぐいっと死神に見せる。

「これをあんたに返す代わりに、俺に力を貸してくれ。」

死神が驚いたように動きを止める。俺は強気に出た。

「これがないと、存在する意味がないんだろ、あんた。」

「そ、そうだけど・・・」

「取引するのかしないのか、どっちだ?」

冷や汗が背中を流れる。怖くてしょうがなかった。

 しばらく思案するような時間が流れた後、死神は渋々頷いた。

「仕方ない。本当は人間に深く関わっちゃいけないんだけど・・・いっか。面白そうだし。」

こくりと頷いて見せた。俺はそれを見て、鎌を差し出した。

 白い骸骨の手がそれを受け取る。嬉しそうに死神は鎌を抱きしめた。

「ああ、よかったよかった。久しぶりの鎌だ。」

喜びの再会もつかの間、死神は俺を向いていった。

「で、誰の命を奪えばいいの?」

久々に鎌を振りたいのか、楽しそうな声を出した。

 俺は慌てて両手を振った。

「違う違う! 命を奪って欲しいんじゃなくて、命を救って欲しいんだ!」

「えー?」

よくわからないと言いたげに首を傾げる。

「とにかく、病院まで来てくれ。弟が危ないんだ。」

急いで部屋を出ようとした俺とドアの間に、死神が瞬時に移動していた。

 さっきまで俺の後ろにいたはずなのに今は俺の前にいる。それが、改めて人外のモノだということを認識させられずにはいられなかった。

 死神は鎌を持ったまま言った。

「よし、病院だね。えっと、きみの弟の名は?」

「え・・・あ、栄二・・・」

「えいじ、えいじ・・・」

上を見上げ、うーんと唸った。

「いいから早く行かないと―」

「あ、待って待って。もうすぐ・・・」

そう呟くが早いか、あっと死神は声を上げた。

「いたいた。栄二。一人だけ。」

どこを見て『いた』と言っているのだろうか。俺も同じ方向を見たが何も見えない。

「僕の服に掴まって。」

白い骸骨の手が黒い服を差し出してきた。

 戸惑う俺に死神が言った。

「時間、無いんでしょ?」

その言葉に誘われるように、俺は死神の服を掴んだ。

「じゃあ行くよっ!」

ドアとは反対方向に死神は走り出した。

 反対方向。つまり、窓側だ。

「ちょちょおっと待って!」

窓から死神が躍り出る。そのすぐ後ろを引き摺られるように俺も飛び出した。

 月光が間近に迫った気がした。

 死神は重力に反して浮かび続けている。

 いや、浮かぶという表現は少し違う。

 もの凄い速さで死神は飛んでいるのだ。

 空気が暴風のように俺に襲い掛かってきて、息を吸うのもやっとだ。

 景色が凄い勢いで俺の前を過ぎていく。下を見たら貧血をおこしてたかもしれない。

 止めて、と言う前に、死神がどこかの窓へとするりと入った。抵抗できずに俺も続く。

 やっとまともに息が出来ることが嬉しくて、俺は喉を押さえて何度も呼吸した。

「ほら、彼でしょ?」

平然としている死神が俺に声をかけた。

 整えていた俺の息が止まった。

 いつのまにか、俺らは栄二の病室にいた。

 訳が分からず俺は死神を見上げた。

「あれ、違う?」

 その言葉ではっと我に返ると、俺は慌ててベッドで寝ている人物を見た。

「うそ・・・だろ。」

間違いなく、栄二だった。

 俺の家からこの病院まで少なくとも電車で二駅分の距離が離れているはずなのに。

たった数十秒で、ここまで来てしまった。

「彼でしょ?」

その言葉に頷く。なるほどね、と死神は呟いた。

「彼はねえ・・・明日までの命だね。」

何気なく言い放った一言が信じられなくて、俺は死神を見上げた。

「それ・・・本当なのか?」

「うん。彼は明日のリストに載ってるよ。」

「リスト?」

「死神のリスト。死神は命を奪うものだって誤解してる人も多いと思うけど、死神の大体の仕事は導くこと。あの世ってとこにね。まあたまに奪うこともあるけど。」

「栄二・・・明日死ぬのか?」

かちゃ、と死神は鎌を栄二に向けた。

「そうさせないために僕と取引したんでしょ?」

「じゃ、じゃあ―!」

「リストの中にある彼の名前を切るよ。そうすれば、明日のリストから消える。もちろんこれは違反行為だけど・・・取引しちゃったしね。これで彼も元気になるだろうし、おそらく今度は何十年後かのリストに写されると思う。」

鎌を振り上げ、栄二の真横にぶすりと突き刺した。

 紙が破れるような音がしたのはきっと、聞き間違いではないだろう。

 死神は得意げに胸を反らした。

「これで大丈夫。もう安心だよ。」

栄二を見れば、確かに顔色がとても良くなっていた。全身から生気が漲っているかのようである。

 俺は栄二の横に駆け寄った。そっと髪の毛を撫でる。

 こんなに顔色の良い栄二は、生まれてはじめて見た。

「あ・・・ありが・・・ありがとう・・・」

涙がぼろぼろと零れた。嗚咽が止まらない。

 やっと、栄二を助けることが出来たんだ。

 嬉しくて泣き崩れる俺の肩を死神が叩いた。

「じゃあ、取引成立。この鎌は返してもらうね。」

泣きながら頷いた。

 死神は俺の後ろをすり抜け、窓枠に立った。

 今にも歩き出そうとしたその足が止まる。くるりと振り返った。

「ねえ、一つ聞くけど、僕の鎌を何で買ったの?」

顔を上げられず、俺はただ自分を指差した。

「あ、きみを売ったの? 『音木箱』に?」

ふうん、と死神は小さく言った。

「そっか・・・だから、ねえ。」

じっと鎌を見つめる。言おうかどうしようか迷っているように見えた。

 俺は気になって目線を死神に向けた。骸骨の顔がこきりと動く。

「あのねえ、言ったほうがいいのかどうか迷ったんだけどね。きみ・・・寿命が無くなっちゃったよ。」

「・・・?」

「だからね、きみは六十七年八ヶ月二十一日後に死ぬ予定だったんだけど、そのリストからきみの名前が無くなっちゃったんだ。」

「それって・・・別のリストに移ったってことか?」

「違うよ。リストにきみの名前が無いってことはねえ、きみは死ねなくなっちゃったっていう意味だよ。」

その言葉がよく理解できずに固まっている俺を、死神は不憫そうに言った。

「ごめんねえ。僕の鎌を買ったばっかりにこんなことになっちゃって。」

ごめんね、ともう一度言うと、死神は窓枠から外へ躍り出た。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

慌てて窓枠にすがりつく。だが、そこには夜の街しか存在しなかった。

「あのねえ、音木箱に行けばわかるよ。」

後ろから声がして、ばっと振り返った。が、誰もいない。

 病室の外にも飛び出したが、誰もいない廊下が広がっているだけだった。




 栄二が助かった嬉しさと死神の言葉の意味が、頭の中をぐるぐると回っている。

 呆然としながら病院を出て、俺は駅へと歩き始めた。

 夜気がひんやりと冷たい。寒さにぶるりと震えながら歩き続けて、気づいた。

 駅から家まで帰るにも、金を持っていないのだ。

 しまった、と俺は歯噛みした。

 父さんと母さんはきっとすでに家に着いているだろう。病院から電話をかければなんとかなる。

 踵を返して病院へと戻ろうと歩き出したその足が、止まった。

 目の前に、あの『音木箱』が立っていたから。

「はっ、え!?」

今までそこは公園があったはずなのに。

 いつまにか周囲には深い霧が立ち込めており、他の建物はどこにも見えない。ただ『音木箱』だけが見えていた。

 信じられない光景に立ち尽くしていた俺は、今まですっかり忘れていたことを思い出した。

 そうだ、死神の鎌を買うために、俺は自分を売ったんだ。

 だから、俺という商品を取りにきたんだ。

 恐ろしさに身震いした。奴隷商人や人肉販売の文字が頭を掠める。

 でも逃げようとしたところでこの霧だ、逃げられはしないだろう。

 それにここが死神の鎌を売ってくれたからこそ、栄二は助かったのである。逃げるわけにはいかない。

 両手を握り締め、俺は音木箱へと歩き出した。

 ぶら下がった古びた看板が、嘲笑うようにぶらぶらと揺れている。

 震える手を押さえつけながら、俺は音木箱の扉を押した。

 きいい、と軋んだ音が耳に響く。あの苦く甘い匂いのする風が通り過ぎていった。

 店内は相変わらず真っ暗だった。月明かりがわずかに差し入り、輪郭をやっと浮かび上がらせている。

 そして月明かりは、中央にいた少年をも照らし出していた。

 ばたん、と扉が閉まる。今度は鈴の音はしなかった。

 少年は穏やかな笑みで俺を見つめていた。

 俺も少年を睨むように見返す。この穏やかな顔の裏には、もしかしたら人身売買の素顔があるのかもしれないのだ。

 少年はにこりと笑い、言った。

「おかえりなさい。」

言うが早いか、少年はいきなり俺の手に何かを押し付けた。

「はい、これ。箱の中に仕舞っておいてね。」

「・・・は?」

「あとは久々に掃除しようと思うから、手伝ってね。」

軽やかに笑う少年の後ろから、二人の双子が飛び出した。

「お帰り、りょーいち!」

「お帰り、りょーいち!」

同時に言うと、俺のズボンの裾をぐいと引っ張った。

「りょーいち、遊ぼうよ。」

「りょーいち、遊んでよ。」

左右からぐいぐいと引っ張られ、俺は危うく倒れそうになった。

「な、なんだよ、やめろって。」

慌てて双子から逃げると、あちこちから笑い声が響いた。

「活きの良いのが入ったのう。」

「善き哉善き哉。」

「ちとからかってくれようか。」

「だめよう、可愛い坊やにそんなことしちゃ。」

笑い声が色んな方向から聞こえる。俺は驚いて辺りを見回した。が、声がするのにその声の主はいない。

「青年。早う、我輩をベッドに案内したまえ。」

真下から渋い男性の声が聞こえ、反射的に下を見た。

 少年から渡されたのは、白い万年筆だった。白いといってもだいぶ古臭くてところどころ黒ずんでいる。

 それが、喋っているのだ。

「うおわ!」

驚いて万年筆を放り出した。かちん、と床に転がる。

「あうち! 我輩を放り出すとは、けしからん輩だ!」

万年筆が怒ったようにごろごろと転がる。それを、少年が拾った。

「ごめんね、ミスター・クリミナル。彼は新人だから・・・」

「まったく、新人の躾くらい、しっかりせんかい!」

少年がくすくすと笑う。同時に、あちこちからの笑い声も高まった。

「しっ、新人!?」

 訳が分からず立ち尽くしていた俺の腕を、誰かが引っ張った。

 見れば、双子の女の子、宝麟がぶんぶんと俺の腕を振り回していた。

「りょーいち、ここで働くんでしょ? ねえ、小龍?」

宝麟が聞くと、少年がにこりと笑って頷いた。

「そうだよ。涼一は今日から僕らの仲間だよ。」

「やった! 遊ぼう、りょーいち!」

禮麒が嬉しそうに声を上げる。

 俺はやっと、事の次第を理解した。

「ちょっと待ってくれ。ここで働くって、新人ってまさか・・・」

少年はにっこりと会心の笑みを浮かべた。

「そう。きみはデスサイズを買った。そしてきみはきみ自身をこの店に売った。つまり今日からきみは僕のアシスタント。よろしくね、涼一。」

がっしりと俺と握手する少年からは、無邪気さしか感じられなかった。

「あ、アシスタントって、俺が!? 俺は人間だぞ!?」

「もう不死なんだから人間じゃないでしょ? あれ、死神から聞いてなかった?」

「・・・あ、いや、聞いたけど・・・」

握手していた手を離し、少年はおどけるように頭を下げた。

「歓迎しよう、涼一。ようこそ、我々異形の世界に。」

「ま、待ってくれよ!」

「仕事は山盛りだからね。あー、よかった。そろそろアシスタントが欲しかったんだよね。」

そう言ってとんとんと話を進める。俺は置いてけぼりにされているようだ。

「おいおい仕事は教えていくからね。それで覚えて―」

ちりん。ちりん。

 涼しげな音が鳴る。

「おや、お客様が来るね。うーん、十世紀のローマか。」

その言葉を合図に、騒がしかった笑い声が静かになっていった。

「さあ、音木箱は眠らないよ。始めよう、涼一。」

「ま、待てって。」

「僕のことはなんと呼んでくれても構わない。マスター、龍稀、ドラクル、小龍・・・僕の名前はたくさんあるから。」

ああ、そうだ、と少年は声を上げた。

「涼一じゃあ不便だからなあ。きみはリョウにしよう。」

「はあ!? 不便って、なんで?」

「ここには様々な世界、様々な時代からお客様が来るからね。もちろん人も異形も来る。本当の名前は知られないほうがいいのさ。」

俺がさらに質問する前に、少年は楽しそうに言った。

「さあ、仲間も増えたことだし、みんな、楽しくやろう。」

ぱんぱん、と叩いた手が合図になったように、店の扉が軋みながら開いた。

 少年―龍稀が丁寧にお辞儀をする。

「いらっしゃいませ。お探しの物なら、あなたをここで待っていましたよ。」






                               終























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