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幻想水月物語  作者: 安良木 響花
【緋の章】
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第121話 広がる海原

「うわぁ……これが海!! きれいな赤色だね……!」


 甲板の先頭に立って大海原を見回す。どこまでも広がる赤。潮の匂いが混じった風は穏やかで、上を見上げれば雲ひとつない青空が広がっている。赤と青のコントラストがとても綺麗で、ずっと見ていられそうだった。


 船は北の孤島「チサ」へ向けて順調に進んでいた。

 隣でふちに手をついたフェルナリーザが「はぁ」と小さく溜め息を吐いた。


「私は海にいい覚えがないのだけれどね」

「そうなの?」


 フェルナリーザは今の天気とは裏腹な曇った表情を浮かべた。


「私、フォグフィール大陸には島を伝いながら、自分で召喚した鳥に乗ってきたから」

「えっ!? それってすっごい大変じゃない!? 魔力も体力も……。闇の国ってどれくらい遠いの?」


 フェルナリーザは考えるように視線を上に向けた。


「そうね……ルーゼリア大陸からフォグフィールの風の国まで、二週間くらいはかかったかしら」

「に、二週間!?」


 思わず声が裏返った。


「海の上はとにかく退屈だったわ。どこを見渡しても赤だもの。目がおかしくなりそうだったわ」


 二週間も一人で海の上を飛び続ける――まだ海のことはさほど分かってはいないものの、改めてフェルナリーザの胆力に驚かされる。


「ルィンさん」


 不意に呼ばれて振り向くと、闘技大会で戦ったアーシュリーが、階段を上がってこちらへ歩いてくるところだった。彼女もチサへの船旅に同行し、空の国まで案内してくれるとのことだった。


「……」


 無意識だったが、返事もせずにじっと視線だけ返してしまう。


「あの……まだ許して貰えませんか? 闘技大会のこと」


 小さく身を縮め、不安そうに上目遣いでこちらを見る。

 あのときはルナの魔法で衝動的な怒りは収まったが、もやもやする感情はまだ心の奥底でくすぶっていた。何か事情があったのかもしれないが、あの行いを簡単に許すことはできなかった。


「……僕たちはまだアシュアさんのことを何も知りません。空の国の王女様だってことくらいしか。どうしてあんなことをしたのか、理由を教えてくれませんか?」


 アーシュリーも甲板の端に立ち、木製の縁にそっと手をかけた。


「……私は空の国アルネシアの第二王女です。理由をお話ししたいのですが、それには少し私自身のことを話す必要があります。ルィンさんたちは空の国のことをどれくらいご存知ですか?」


 頭の中で空の国のことを思い浮かべてみる。


「うーん、何も知らないかも……。魔界で一緒に戦ったアルシェが空の国の王子様だってことくらい……。あれ? そうするとアシュアさんはアルシェのきょうだいってこと?」


 アーシュリーは首を横に振った。


「アル兄さまとは兄妹きょうだいではありません。私の国とは別の国の王子なんです」

「別の……!? 空の国って二つもあるの!?」

「空の国は三つあります。アル兄さまは『シンシア王国』、私は『アルネシア王国』、そしてもうひとつが『フリュージア帝国』です」

「そ、そんなにあるんだ……。他の国みたいにてっきり一つだけかと……。フェリ知ってた?」

「いいえ、私も何も知らなかったから初耳だわ」


 アーシュリーは一つ間を置いて続けた。


「お二人にアル兄さまのことを思い出して欲しいのですが、あの方は“()()”だったことを覚えていますか?」

「黒髪……? た、確かに短い黒色の髪だった」


 言いながら、アーシュリーの髪を見た。“()()()”な髪だった。


「空の民は皆“白い髪”をしています。ただ、王族はどの国でも“黒髪”で生まれてくるのが普通なんです。……私は、“異端”なんです」

「異端って……」


 アーシュリーの沈んだ声に、こちらまで声が小さくなる。


「髪の色が違うだけでそんなにも区別されることなの? 気にしなきゃいいじゃない」


 フェルナリーザの言葉に、アーシュリーは目線を下げた。


「そう言ってくれるのは、空の国では私の両親と、アル兄さまだけ……。空のみんなは私をさげすんでいます」

「そんな……」


 弾き結ばれた口元から、アーシュリーの抱えてきた事情の一端が伝わってくる。


「そんなアル兄さまが、大地の国へ応援へ行き、帰ってきたときに私にこう言ったんです。“勇敢で、強い少年に会った”と。あの方はあなたのことをまるで自分のことのようにお話しして下さいました」


 アーシュリーは縁に置いた手を見つめた。


「……私は、悔しかったんだと思います。アル兄さまがあんなふうに誰かを語ることがめずらしくて、少しだけ妬ましく思ってしまいました。だから、アル兄さまに“ミラスまで彼らを迎えに行ってほしい”と頼まれたとき、私は自分の目であなたを見極めたいと、そう思ってしまいました。それで、冷静さを欠いてあんなことを……。本当にごめんなさい」


 アーシュリーがこちらに向き直り、深く頭を下げた。


「……そういうことだったんですね。……でも、事情があったとしても、あんなふうに騙して脅すようなやり方は、もうやめて下さい」

「はい……反省しています。あの……フェルナリーザさんの精霊の子にも悪いことをしてしまいました」

「そうよ。私だって怒っているのよ」

「はい……」


 フェルナリーザはさらりと言いながらも、心の中は穏やかではないことが伝わってきた。


「ゼルにも何かしたの? あのとき戦ってもいないのにすごく消耗してたみたいだけど」

「空魔法の中には、“空間”を扱う魔法があります。そして、精霊と持ち主の繋がりを強制的に切断させることが出来るんです。おそらくそのようなことをされたのが初めてだったため、ゼル君はあのような……」

「理屈はいいわ。ルィンのことを試す必要があったのは百歩譲ってわかってあげてもいいけど、ゼルにはとんだ飛び火だわ」

「はい……本当にごめんなさい。場の盛り上がりに乗せられて調子に乗ってしまいました」


 試合中の強気な態度とは打って変わってしゅんと大人しくなり、アーシュリーは本来はこういう雰囲気の人なのかもしれないと思った。



――――――――――――――


※空属性を「シエル」→「ソア」に変更しました。物語の大筋に変更はありません。


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