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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第一章:邪眼を継ぐ者
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9話「B級ハンター」

瀬早さんが手元の端末を操作すると、

先ほどとは違う種類の機材がゆっくりと壁面から現れた。


台座の上に置かれたのは、黒く光る楕円形の結晶体だった。

まるで生き物の心臓のように、微かに脈打つような光を放っている。


「では、最後の試験だよ」

瀬早さんの声は、静かだった。


「この物体を視て、分かったことがあれば教えてほしい。

 正解はない。君の目に映るままを答えてくれればいい」


僕は一歩前に出て、結晶体に向き直る。


(見るだけ、か……)


少しだけ、息を整えて──

僕は、邪眼を開いた。


──直後。


視界に走る、異様な気配。


物体の表面。螺旋状に走る金属様の皮膜。

その内側に──魔力とは違う、“なにか別のもの”の流れがある。


(……これは、構造じゃない)


揺れている。

断片的な記憶のような、“何かを考えていた残響”が、内部に渦巻いている。


それだけじゃない。


視線が、その“核”に届いた瞬間──


ズン、と逆流するような感覚。

喉の奥がギュッと締まって、

胸の中心に“何か”がぶつかってきた。


(……誰かが、見てる……!?)


思わず邪眼を閉じた。

一歩、後ろに引いてしまう。


「……っ、す、すみません」


額には汗。

身体の奥がざわついていた。


けれど、僕は絞り出すように声を出した。


「……外殻は金属のようなものに覆われていて、

 内部には……何かの記憶、というか……“思考の痕”のようなものが渦巻いていました」


瀬早さんは、静かに僕の顔を見つめていた。


しばらくの沈黙。


やがて彼は──ゆっくりと笑った。


「……ああ、なるほど。やっぱり、君の目は本物だ」


そう言ってから、瀬早さんは歩み寄り、黒い結晶体を見下ろす。


「実はこの物体──数ヶ月前、とある未認可ダンジョンから回収されたものなんだ。

 現場で多数のハンターが混乱状態に陥った“精神干渉事故”の中心にあった」


「えっ……」


「協会内でも用途は未解析。触れた者が“視えないものに追いかけられる”と言い出したケースが複数ある」


「……そんな危ないものを、試験に……?」


「君が“視えた”のは、反応の中でもかなり深い層だ。

 この試験、知覚系の受験者の9割は“何も起きなかった”って言って終わるからね」


言いながらも、瀬早さんの声には薄く熱が滲んでいた。


「素晴らしい感応力だ。……君のその目が、本当にどこまで届くか──」


その先を言う前に、彼は眼鏡をクイッと上げて、表情を戻した。


「……合格だよ、詩遠くん。これで、君も正式に“スキル保持者”として登録される」


僕は、言葉が出なかった。


ただ──

背中に、目に見えない何かを背負ったような、重みだけが残っていた。


試験室の空気が少しだけ和らいだ気がした。


瀬早さんはいつもの落ち着いた笑顔のまま、手元の端末を操作していた。


「これで、すべての試験は完了だ。お疲れさま」


僕は小さく頭を下げた。

全身の力が抜けて、少しだけ足がふらつく。


(……終わった……)


緊張が解けていくのを感じながら、僕は机の上に置かれた紙に目をやった。


《スキル保持者 登録票》──僕の名前と、スキルの等級評価がそこに記されている。



[スキル保持者 登録票]

登録名義:一ノいちのせ 詩遠しおん

スキル名:視覚解析スキル(視穿)

等級:B級(高位)

分類:知覚系/魔力構造解析型

適性評価:戦術支援・調査分析向き

備考:初回発現による制御段階につき、継続的評価対象



(……B級……)


ホッとした。

目立たないけど、ちゃんと評価されてる。


(これなら──目立ちすぎずに、動ける)


僕は用紙を両手で持ち直して、深呼吸した。

そこには、確かに“僕の力”が刻まれていた。


「受付でこれを提出すれば、正式なハンターIDが発行される。

 スキルの再評価は定期的に行われるから、成長の度合いによってはまた来てもらうかもしれないね」


瀬早さんは、相変わらず静かな笑みを浮かべたまま、

ただ、最後の一言だけがどこか含みを帯びていた。


「……詩遠くん。君はこれからもきっと成長するだろう。でも──気をつけてね。見えるという事は、あちら側にも“視られてる”から」


一瞬、あの黒い結晶体の“視線”が脳裏に蘇る。


(……視られる)


僕は静かに頷き、書類を胸に抱えた。


「ありがとうございました」


そう言って、試験室を後にする。


扉が閉まった後──


瀬早 正人は、机の端末に手を伸ばした。

通信チャンネルを一つ開く。


その目の奥には、先ほどまでの穏やかさとは違う、鋭い光が宿っていた。


「一ノ瀬 詩遠……スキル・視穿、B級で登録。

 ただし……“視認情報、異常値”。詳細は別送します」


誰に向けての報告なのかは、分からない。

けれど──

その声には、明確な熱と狂気があった。


受付フロアに戻ると、先ほど案内してくれた女性スタッフが気づいて笑みを向けてくれた。


「おかえりなさいませ。試験、お疲れさまでした」


僕は、手にしていた登録票をそっと差し出す。


「はい、こちらで正式に登録いたしますね。少々お待ちください」


スタッフが端末に情報を入力し、数分後──

カウンターの奥から、黒と銀の小さなカードが取り出された。


「一ノ瀬 詩遠さま。こちらがハンターIDカードとなります」


手渡されたカードは、指先にずっしりとした重みを感じた。


名前、顔写真、そして──スキルの欄に記載されていたのは。


《視覚解析系スキル(登録名:未定)》

等級:B級(高位)

分類:知覚/構造分析系


(B級っ……!)


「……ありがとうございます」


意外といい評価を貰えたことが嬉しかった。


僕はカードを胸ポケットにしまい、軽く頭を下げた。


出口へ向かって歩く。

自動ドアが静かに開き、冷えたビルの空気から、一気に外の光と騒音が流れ込んできた。


まぶしい。

でも、その光は──昨日までの僕とは、違って見えた。


「ふぅ……」


深く息を吐いて、空を見上げる。

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