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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第一章:邪眼を継ぐ者
10/31

10話「GEAR CAGE」

家に帰り着いたとき、空はもう夕焼けに染まりかけていた。


制服姿ではないけれど、

今日一日が“普通じゃなかった”ことを、まだ身体がどこか理解しきれていない。


玄関を抜けて、自分の部屋へ。

カバンをベッドに放り投げて、ようやく座り込む。


(……B級、か)


スキル欄のないハンターIDカードを胸ポケットから取り出して、もう一度見つめる。


(あの空間で命を落としかけて、邪神と契約して、スキルをもらって……)


不思議と、実感がない。

名札だけもらって、自分がその世界にふさわしいかどうかは、まだ分からない。


ポケットからスマホを取り出す。

ハンター協会で言われていた、**「専用アプリ」**を起動する。


画面に表示されたのは、青と黒の洗練されたデザイン。


《HunterLink》(ハンターリンク)──

ハンター専用の公式統合アプリらしい。

•ダンジョンの現在の出現状況

•各ギルドの募集一覧

•個人宛の依頼メッセージ

•登録スキルの再評価通知

•ステータスや通過した試験の記録


ログイン画面にIDナンバーを打ち込み、カードの裏に記載された初期パスワードを入力する。


ピッ。


画面が切り替わり、僕の登録情報が表示された。


[ID:S-019889|一ノ瀬 詩遠]

階級:B級(高位)

認可カテゴリ:知覚系/視覚解析

所属ギルド:なし

活動歴:0件

ステータス:アクティブ


ログイン直後に、通知がいくつか届いていた。


【新規ハンター様へ】スキル補助講習の案内

【推薦】近隣の初級ダンジョンに関する調査パーティ募集

【個人向け提案】ギルド“ラド・クロム”より仮勧誘通知


(……もう僕に依頼とか、来るんだ……)


どこか、世界の色が変わったような気がした。

だけど──それは、手放しに喜べる変化じゃない。


(本当に、ここにいていいのかな)


「まずは……慣れないと、だな」


スマホをいじりながら、僕はしばらく画面を見つめていた。


(何からすればいいんだろう……)


スキルを手に入れた。

でも、それを“ただ持ってるだけ”じゃ、意味がない。


(……瀬早さんも言ってた。視えすぎる目は、使わないと慣れないって)


なら──


(ダンジョン、行くしかないか)


僕は「ダンジョン攻略パーティ募集」のタブを開いた。

地図と等級フィルターを使って、

“自分が行けそうな場所”と“解析系スキルを求めているパーティ”に絞り込む。


そして──


『C級ダンジョン攻略メンバー募集中(解析スキル歓迎)』


──という投稿が目に留まった。


詳細をタップ。


■ 募集主:天川 あまかわ・つばさ

■ パーティ等級:C級(中位)

■ 募集枠:1名(解析/知覚系)

■ 攻略予定:明朝、都内第六ダンジョンゲート

■ 条件:最低限の行動力と判断力/実戦経験は不問

■ 備考:指示に従える方優先/初心者OK


(……実戦経験不問か。解析重視なら、今の僕でもなんとか……)


“B級”だとは書かず、

スキル名も出さず、

「視覚解析系です」とだけ明記して、申請ボタンを押した。


数分後──返信が来た。


【リーダー天川 翼】

初めまして。一ノ瀬さんでお間違いないでしょうか?

申請ありがとうございます。

明朝、自由が丘駅に7時集合となります。

攻略対象はC級ダンジョンで、現在メンバーは3名。

当日は解析補助に入っていただければと思います。


詩遠は落ち着いた気持ちで返答を打つ。


【詩遠】

はい、承知しました。

明日、よろしくお願いいたします。


すぐに返信が返ってくる。


【天川 翼】

装備については不要ですが、動きやすい服装でお越しください。

初回ということで無理のない範囲でサポートいただければと思います。


やり取りは、丁寧で事務的なものだった。


(よかった、優しそうな人で)


僕はスマホを閉じ、ベッドに座り込む。


日が沈みかけた頃、僕は再び外に出た。


(初めてのダンジョンだし、何も持たずに行くのは不安すぎる)


〈視穿〉はあくまで“目”の力。

攻撃も防御もできない以上、少しでもリスクを減らす準備をしておきたかった。


目的地は、駅近くにあるハンター専用の専門店──《GEAR CAGEギア・ケージ》。


入店時にハンターIDの提示が必要な、登録者限定の装備ショップだ。


自動ドアを抜けると、すぐに魔力結界の気配が全身にかかる。


(……本物だ。ここがハンター用の店)


店内は思っていたよりも明るくて、スタイリッシュな陳列が並んでいた。

武器、防具、回復アイテム、簡易式の魔導具まで──

まるでスポーツ用品店と工学研究所を混ぜたような不思議な空間。


(あった、ポーションコーナー)


棚に並ぶ瓶を手に取りながら、価格と効果を照らし合わせていたその時。


「──それ、初心者用だと中身が薄いよ。

 どうせ買うなら、こっちの“濃縮型”にしときな」


背後からふと声がして、僕はびくっとして振り返った。


そこに立っていたのは、一人の男。


深い青の髪は肩まで伸びていて、ウルフレイヤー風の毛先が絶妙に跳ねている。

顔立ちは整っていて、切れ長の目元に薄い笑み。

唇の端には小さなピアスが光り、腕には沢山の刺青が浮いていた。


(…うわっ…絶対こわい人……)


「……あ、ごめんねぇ勝手に話しかけちゃって。

 でも、それ選んだままダンジョン行ったら、たぶん途中で息絶えちゃうと思って」


言葉は軽いけれど、声は優しい。

どこか音楽みたいな響き方をする、穏やかなトーンだった。


「……え、あ、そうなんですか……?」


「うん〜。見た目だけ派手だけど、中身はほぼ水。

 濃縮タイプの方が少し高いけど、効果は三倍近いし、初心者にはそれが一番安心かなぁ」


僕は戸惑いながらも、彼の指差す瓶を手に取った。


ラベルには──《緊急治癒ポーション:高濃度仕様/使用後5分は激痛》と書かれていた。


(なにこの不穏な注意書き……)


「だいじょうぶ、痛いのは慣れれば癖になるよ?」


「……癖になりたくはないです……」


「ふふ、面白いなぁ君」


男はそのまま僕の前をひょいと横切り、レジカウンターの方へ手を振った。


(なんなんだ…?この人)


「じゃ、清算する? あ、僕──この店のオーナー、黒島 霧(くろしま きり)って言います」


「えっ、オーナー……?」


思わず声が出た。

だって、どう見ても店員というより“夜の街のどこかにいそうな人”だったから。


「うん。似合わないって顔してるね。よく言われるけど」


軽く笑って、彼──霧さんは指先でレジ端末を操作する。

その指には黒いリングと、色あせた小さな魔導具のような装飾が巻かれていた。


(なんだろ……なんか、不思議な人だなぁ)


店内は他の客もほとんどいない。

照明は白っぽく静かで、魔力の流れる音だけが天井から淡く響いていた。


薬剤棚のガラスに反射する彼の姿は、何故か現実味がなかった。

綺麗すぎて、影のように揺れて見えた。


「じゃ、頑張ってね。初ダンジョンでしょ?」


「……えっ、なんで分──」


「空気?」


そう言って、彼は指で“ふわっ”と何かを払うように軽く動かした。


「君、まだ“地に足がついてない”。すぐ分かるよ、目を見れば」


そう言いながら、霧さんは僕に品物を差し出した。

丁寧に包まれた濃縮ポーションの小瓶。


「気をつけてね。……あ、あと、そのポーション、目にすごい効くから」


(……目……?)

霧さんの言葉はなにか意味を含んでいた。


(あ、そういえば、邪眼は人にも使えるのかな)

僕が〈視穿〉を使ったその瞬間、何故か“彼の情報が何も視えなかった”。


空気と、魔力の流れ、存在の輪郭すら──

まるで最初から、“滑るように”すり抜けていった。


「ダメだよ。」


霧さんの最後の言葉は、まるで確信のように穏やかで、僕の背中に何かを置いていったようだった。


扉のチャイムが鳴る音と共に外に出ると、

空気はさっきよりずっと冷えていた。

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