4話「スキル」
「干渉する……手段?」
僕が問い返すと、邪神はわずかに笑った──ような気がした。
「しばらくは、お前以外の人間がこの場所に辿り着くことはあるまい。
お前を生かす代わりに、私の“力の一部”を受け取れ」
その提案は──僕が、心の底から望んでいたものだった。
「でも……それじゃ、僕だけが得するような……」
ふと湧いた疑念を口にすると、
邪神は変わらぬ不気味な笑みを浮かべたまま答える。
「いずれ分かる。……さあ、受け取れ」
その瞬間──邪神が指をわずかに動かす。
ズキィン!!
「う、ぐあああああぁッ!!!」
両目に走る、焼けつくような痛み。
視界が爆ぜ、神経が焼かれる感覚が脳を襲う。
力が入らず、僕は地面に倒れ込んだ。
──地獄のような数分が過ぎた。
やがて、痛みが引いていく。
(っ……お腹の傷……塞がってる……?)
不意に、目の前の世界が“変わった”。
さっきまで見えていなかったものが、細部まで──色、線、揺らぎまで──見える。
そして──僕は顔を上げた。
そして改めて邪神の姿を確認した。
黒く艶を帯びた肌。
人間の形に似て非なる巨体。
無数に伸びた“千の手”。
そして額の中央にある、巨大な金の瞳──それがギョロリと僕を見返していた。
「……あなたが……」
邪神は、静かに笑う。
「やっと“視えた”か。」
そのとき──僕の目の前に、情報が“文字”として浮かび上がる。
《新スキル獲得》
■ スキル名:〈識環邪眼〉
■ 分類:神格級スキル
視覚系複合干渉能力(解析+介入)
「し……神格級スキル!?!」
驚きの声が漏れる。
スキルにも、アイテムと同じように“等級”が存在している。
【スキル&アイテム等級分類】
スキルやアイテムは、ダンジョンから得られる異質な力であり、その強さ・希少性・干渉性によって等級が分類されている。
■ 等級一覧:•【汎用級】:初心者が扱う補助的スキルや、一般ギルド装備。F〜E級ダンジョンで出現。
•【職能級】:特定職業に特化した中堅能力。希少性は低いが有用性が高い。
例:〈魔術精度上昇〉〈採掘強化〉など
•【希少級】:C〜B級ダンジョンで稀に出現。戦局を変える強力な効果を持つ。
例:〈影縫い〉〈衝撃波展開〉など
•【秘宝級】:A級以上のダンジョンでのみ確認。数が少なく、ほとんどが一代限りの奇跡。
例:〈因果跳躍〉〈時間停止〉など
•【禁忌級】:協会で極秘管理されるレベル。使用には国家レベルの監視が必要。
例:〈魂汚染〉〈現実改変〉など
•【神格級】:通常の等級分類を超越する存在。
“異世界からの直接干渉によって発現する”唯一性を持つ。
確認例は過去に数件──全てが世界の構造に影響を与えたとされる。
(僕が……こんな力を……)
混乱と興奮の中、詩遠の右目が再び脈動する。
スキルを授かったばかりの僕は、興味に導かれるまま、無意識に“あれ”を視ていた。
──
対象:邪神王クトゥル・イグルアス
等級:解析不能
その他:全項目にアクセス制限
──
「……まだ、私は“視えない”ぞ」
(……気づかれてる……!)
その瞬間、背筋が凍った。
視たことが、視られている。
詩遠の邪眼が、思考に干渉しているだけでなく、神との“つながり”として機能しているのが実感として迫る。
「邪眼は、“使えば使うほど進化する”。
まずはその目を使い慣れろ。──己の世界で」
邪神が言い終えると同時に、空間が震え始めた。
金と黒の渦が巻き上がり、全てが逆流を始める。
「本来なら、私を倒さねば、この空間から出ることはできぬ。
だが今回は──特別だ。私が、お前を“返してやろう”」
詩遠の体が光に包まれていく。
「忘れるな。一度交わったその眼を通して──
私はこれからも、“お前の世界”を視ている」
(……ッ!)
邪神の言葉が最後まで届くよりも早く、
詩遠の意識は一気に闇へと引き込まれ──
──視界が、消えた。
気がつくと、辺りは木々が生い茂っていた。
(……ここ……)
ダンジョンに入る前に見た、あの森の中。
「……戻ってきた……?」
視界が、ぼやける。
焦点が合わない。
脳と目がズレているような、奇妙な違和感。
吐き気が込み上げ、喉から胃の奥まで熱くえぐられる。
「おえぇえええっ……!」
さっきまでの出来事が、一気に蘇った。
──同級生たちが次々とやられ、
──腹を貫かれ、
──異界の神と契約を交わした。
「がっ……はぁっ……」
(僕は……これから、どうなっていくんだろう)
やっとの思いで手に入れたスキルは、〈識環邪眼〉。
すぐにハンター登録したい所だけど、
今のままじゃ登録どころか、ハンター実技試験すら通る気がしない。
「早くスキルに慣れないと……」
少しずつ、目の焦点が合ってくる。
僕は振り返り、邪眼を開いた。
すると、そこにはうっすらと消えたダンジョンの痕跡が視えた。
────
ダンジョン等級:SS級
BOSS:邪神王クトゥル・イグルアス
形式:遺跡型/特殊ダンジョン
────
「……実際に邪神王に会ったから今ならわかる。あれでSS級ダンジョンじゃなかったら、それこそ驚くよ……」
そして僕はその下の表記に引っかかった。
──遺跡型/特殊ダンジョン?
疑問に思い、数秒その文字を凝視していると、視界に新たな情報が浮かび上がる。
─────
【特殊ダンジョン】
ごく稀に、ダンジョン自体が“スキル”を所持している事がある。
このダンジョンの特殊スキルは“ 隠密系”(神格級)
─────
「ダンジョン自体が神格級の隠密スキルを持ってたって事か……」
だからハンター協会の探知網(磁波センサー)に引っかからなかったのか。
ピコンッ
「……ん?」
目の前に、あの通知が浮かび上がった。
《新スキル獲得》
■ 〈幽霞ノ帳〉
隠密/幻影系スキル(希少級)
•気配・足音・魔力反応などを抑制し、自身の姿を“薄れさせる”スキル
•視認・探知の回避に優れるが、長時間の使用には集中力を要する
•高ランクの探知能力には破られる可能性がある
「えっ!?希少級の隠密系スキル!?」
僕は慌ててもう一度文字を読む。
「うわ……本当に手に入れてる…」
これでひとつ分かった。
ダンジョンを攻略(今回は異例)すると、アイテムや稀にボス関係のスキルの他、ダンジョンそのものに備わったスキルも獲得できるという事。
ダンジョン自体を覆い隠す程の神格級のスキル、等級は少し下がったけど希少級だってかなり貴重だ。
「一日で神格級スキルと希少級スキルを手に入れたのか……どのスキルも貴重すぎて、まだ表に出せるようなものじゃないな」
僕はしばらくこのスキルを使う時は、身を隠しながら人目のつかないところで慣れていこうと決めた。