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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第二章:始動、水蓮ギルド。
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30話「グラキエス」

「ダメだよ詩遠くん。中途半端に諦めちゃ」


その声に、僕は反射的に目を開いた。


目の前に──紫雲さんが立っていた。


まるで霧が人の形をとったかのように、

その姿は静かで、それでいて確かに“そこ”にいた。


「紫雲さんっ……!」


霧を纏ったような雰囲気に包まれていても、彼の声は穏やかに届く。


「目は痛む?」


「……!いえっ…大丈夫です!」


ふっと笑った紫雲さんが、足元にわずかに重心をかけた。


「なら、よく視るんだ。俺が動くから、君が指示を」


──ゆら。


空気が揺れる音がした。

紫雲さんの輪郭が霧と混ざり合い、視界の中で揺らめくように消えた。


《スキル発動:幽霞刃ゆうかじん


一瞬のうちに、彼は霧そのものになった。


僕の“邪眼”は、すべてを視ている。


(まるで──舞っているみたいだ)


紫雲さんの剣筋には、一切の無駄がない。


熟練と、技と、戦場を読み切る目。

そして何よりも、刀に迷いがない。


「綺麗……」


まるで幻術に掛けられているみたいに


僕は──目が離せなかった。


──ゆら。


再び霧が揺れた。


その軌道の先に、グラキエスの肩装甲が裂けていた。


「っ……!」

(今だ!)


「紫雲さん、主核の外殻、右下──厚みが甘いです!」


声を飛ばすと、すぐに返事が来る。


「おーけい」


紫雲さんの双剣が正確に主核の継ぎ目へ滑り込む──


──ギィンッ!!


氷殻に亀裂が走った。


「すごい……」


僕は思わず呟いた。


でも、感動している暇はない。

この人が戦ってくれてるから、僕は“目の力”で全体をサポートできるんだ。


(紫雲さんが流れを切り拓いてくれるなら……僕はしっかり“視”ないと!)


紫雲さんの双剣が、まるで舞うように霧の中を滑る。


──ゆら。


空気がたわみ、淡く漂う霧の流れに剣の軌跡が溶け込んでいく。

霧の一振り一振りが、氷の巨獣グラキエスの装甲に、確かに“道”を刻んでいた。


僕の目は、敵の内部構造と魔力の動き、その一切を見通している。


(……主核を守る防御回路……今、交代の周期が来てる……!)


目に映る魔力の糸が、ゆるくほどけ始めた。


「紫雲さん!」


僕は叫んだ。


「主核の防御が切り替わって、一瞬だけ隙ができます!あと五秒──!」


「了解」


静かな返事とともに、紫雲さんの姿が再び霧と一体になる。


──ゆら。


残像のように剣閃が走る。

防御の切れ目を的確に狙って、紫雲さんの双剣がグラキエスの主核を包む氷殻を斬り裂いた。


──ギィィッ……パリッ


細かいひび割れが走り、主核が脈動する。


紫雲さんが軽やかに後ろへ跳んだ。


「よし……今だ、詩遠くん。そこは任せたよ」


(──今だ!!)


足元に転がっていた氷柱を拾い、僕は一気に距離を詰めた。

視穿で見た“魔力の中心”──その一点だけを狙って。


(ここしかない!)


「うおぉぉっ!!」


全力で跳び、氷柱を振りかぶって――


──ズガァン!!


主核の中心に、まっすぐ突き立てた。


──ギギギギィィィ……ッ!


砕ける音が、ダンジョン全体に響いた。


《ボスモンスター討伐完了》

《個人貢献度:85%》

《特別評価:A+》

《新スキル取得チャンス:解放》


目の前に、淡い光を帯びた文字が現れた。


《新スキル獲得》

《スキル名:氷鎧結界ひょうがいけっかい

《等級:希少級スキル》

《属性:氷・防御系》

《説明:冷気による魔力膜を展開し、身体全体を覆うことで高い耐久性を発揮する。斬撃・衝撃・熱を軽減。継続使用で魔力消費大。》


(やった……!防御スキルだ!)


喜びが込み上げた瞬間──


「……っ」


ガクッ。


全身から力が抜けて、僕はその場に膝をついた。


「おっと」


すぐさま隣から伸びてきた手が、僕の肩をしっかりと支えてくれる。


「君、意外と実践で動くのもいけそうだね」


声の主は、紫雲さんだった。

あれだけの戦闘をこなした後だというのに、息一つ乱れていない。

肩で僕の体重を受けながら、涼しげな目で穏やかに微笑んでいた。


(さ、さすが……S級ギルドの……トップメンバー……)


僕は支えられながら、少し離れた岩陰に腰を下ろした。

脈打つ心臓を落ち着かせながら、肩で息をする。


……と、その時。


──ゴォオオオオッ。


赤い炎が遠くの氷を溶かしながら迫ってくるのが見えた。

その中心にいたのは――


「おーーい、お前ら無事かー?」


焔を揺らして登場したのは、龍炎さんだった。


「詩遠ーーー!怪我ないー?!」


後ろからは、薙さん、安良さんの姿も見える。


どうやら、みんな僕たちを追ってこの階層まで来てくれたらしい。


「皆さん!すみません、ご迷惑おかけしてしまって!」


僕が立ち上がり、頭を下げようとした瞬間──


「もぉおおお、心配したんだからぁ!」


勢いよく、薙さんが飛びかかってきた。


「紫雲が一緒だったから安心だったけど、目の前で落ちた時めっちゃ焦ったんだからね!」


「……本当に、助かりました。紫雲さん、1人でこの階層まで来るの、大変だったはずなのに……この階層のボスまで一緒に戦ってくれて……」


そう言って感謝を伝えた僕に、薙さんはきょとんとした顔を見せた。


「え?何言ってんのーもう!詩遠ちゃんが落ちた時、紫雲も一緒に落ちたでしょー!」


薙さんは僕の言葉を冗談と受け取り笑った。


「……え?」


僕は固まった。


(……たしかに、あの時、何か腕を掴んだ感触はあった……)


ゆっくりと、僕は振り返って紫雲さんの姿を探す。


龍炎さんと何かを話している紫雲さんの後ろ姿。


(じゃあなんで途中まで姿を現さなかったんだろう……)


この少しの時間紫雲さんと過ごしたけど、僕はまだ全然彼の事を理解出来ていなかったようだ。


一休みが終わる頃、薙さんが勢いよく立ち上がった。


「じゃ、詩遠が紫雲と一緒にボス仕留めたってことは──そろそろこのダンジョンも崩れ始める頃じゃない?」


その言葉に、僕はすぐに邪眼を開いて出口を探した。


──ジジ…


視界に広がる魔力の流れと構造を読み取る。


(……あそこだ。あの氷の奥が出口に繋がってる)


そう確信して足を向けようとしたその時──


「……ん?」


視界の端に浮かぶ、もうひとつの情報が目に留まった。


──《第4階層:入口》──


(え……第4階層!?)


読み終えるより早く、ダンジョン全体が低く唸るように揺れ出した。


「やばっ、来た!!崩れるぞ!!」


安良さんの声に、全員が即座に反応した。


「こっち!」


氷のゲートに向かって全員が走り出す。


僕はまだ状況を理解しきれていない中、紫雲さんに軽々と抱き上げられた。


「ちょ、紫雲さん!? 自分で──」


「黙って掴まってな、詩遠くん」


氷の床を駆ける足音、響く振動、砕け散る足元。


ギリギリで全員が光るゲートをくぐると、後ろの階層は氷に包まれて完全に閉ざされた。


「……ふー、焦った~~」


薙さんが大きく息を吐いた。


僕もほっとしかけて──思い出した。


「あ、皆さん……ちょっと、お伝えしておきたいことがあって」


「ん?」


僕は先ほど邪眼で見た情報をそのまま伝えた。


「この先……第4階層があるみたいです。そして、そこの階層にいるボスの名前が──」


──《氷華妃ひょうかひ》──

S級モンスター、氷の女王と呼ばれる強大な支配者。


「氷の女王か……さっきの階層はまだ最深じゃなかったってこと?」


「そうみたいです。というより……皆さん、1階層と2階層の時って、それぞれの入口近くに大型の魔物いませんでしたか?」


僕の問いに、龍炎さんたちが顔を見合わせる。


安良さんが指をぽりぽりと掻く。


「うーん、なんかデカいのいたけど、俺ら急いでたし──」


「全部龍炎が燃やして進んじゃったよ?」


「それ……たぶん各階層のボスですね……」


僕は小さくため息をつきながら、引きつった笑みを浮かべた。


(このパーティ……心配要らなかったか……)


僕達は体制を整えて、4階層に進む事にした。

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