神秘の泉
「もう少し………もう少し………」
逃げ回ったせいで体力がかなり消耗してしまった。だけど、あの白蛇がかなり暴れてくれたお陰か道中はあまり魔物が出現することはなかった。全く出ない訳じゃないけど遭遇数はかなり少ないかな?
道なき道をひたすら歩き見えてきたのは小さな教会だ。ここが目的地のようで地図の場所もここを指してると思われた。ここで祝福を受けて割符を貰って帰ったらいいんだよね?
「すいませーん」
教会の入り口の扉をノックして呼び掛けると誰かが小走りでやってくるのがわかった。扉の向こうで大人しく待っていると目が見えないのか目蓋を閉じた女性が笑顔で出迎えてくれた
「クロエさんでしょうか?」
「は、はい!」
「道中大変だったでしょう。どうぞお入りください」
目蓋を閉じてるのに見えてるかのように来たよね? それに教会のなかを歩くにも見えてるように歩いてる。サーチの魔法でも常時使ってるの? それに大変どころじゃなかったし。死ぬかと思ったんだけどね? 嫌みを言いたくないから堪えるけどさ
「自己紹介が遅れました。ここの管理を任されている司祭のナージャと申します」
「く、クロエです。そ、その………目は………?」
「あぁ、見えてませんよ。昔、魔物の毒にやられて視力を失いまして。ですが、見えなくても人は救えますし生きてもいけます。見えないことで見えることも沢山あります。何一つ不自由していませんのでお気になさらずに」
そう言いながら手慣れた様子で紅茶を用意してお茶菓子まで出してくれた。確かに疲れたから甘いもの食べたいんだけど………何か違うくない?
「その………祝福は?」
「今日は遅いので止めた方がいいかと。いえ、祝福は二十四時間出来ますが折角来られたのですから美しい光景を見て帰られる方がいいと思います。皆さん、あれを見て大変喜んで帰られてますので」
「美しい光景? ですか?」
「はい、ここで見たものは絶対に他言してはなりません。この地は神の祝福を受けた特別な場所と言われてまして奇跡の場所でもあるんですよ」
何をどう奇跡なのかは見てからのお楽しみだそうで今日は休んで明日に備えればいいみたい
ナージャさんは本当に一人で暮らしてるようで慣れた手付きで料理もするしお風呂の用意もベットメイクもしてくれた
至れり尽くせりで逆に申し訳ないので手伝わせてくださいとお願いしても仕事だから気にしないで欲しいと言われてしまった。宿に泊まって宿の人の仕事を奪わないでしょと言われてしまったら言い返せないもん
「そろそろ行きましょうか。行衣に着替えて下さい」
そう言われて渡された行衣に身を通して案内されたのは教会の地下だった
地下は洞窟のようになっていてナージャさんが先頭で案内してくれるらしい
目が見えていないから暗くても問題なく歩けるようで先に行っては壁の松明に灯りを付けていき見えるようにしていく
道は複雑で案内人がいなかったら迷っていたこと間違いなかった。そんな複雑な道を迷うことなくナージャさんは真っ直ぐ歩きながらここの歴史を語ってくれた
「クロエさんは教会の方ではないとお聞きしましたが本当ですか?」
「はい、隣国のルースフィアで騎士団に所属しています」
「そうでしたか。そんな異例を認めるなんて教皇様の崇高な考えは私ごときの凡人には理解が及びませんが何らかの目的があるのでしょう。正直、納得しがたいのですが私は案内人。仕事を果たすだけですからね」
「ははっ、そ、その………何かすいません」
「いえ、クロエさんも被害者なのでしょう。教会の事情に巻き込む形になりこちらこそ謝罪したいぐらいですよ」
終始笑顔のナージャさんは少しだけ不満を吐露したかったようでそこからはここの歴史を教えてくれた
わかっているだけでも残された古い書物から二千年前からこの場所は存在していたこと
最初に見付けた人はここを聖地と崇め宗教を立ち上げたとのこと
それからと言うもの二千年間大切に守られ人の手を加えることなく自然のなり行きのまま保存してるのだそうだ
「不思議なことに二千年前に描かれた絵と現在の景色に変化はありません。本当に変化してないのかどうかはわかりませんが、ここを再度訪れる昔の司祭様や司教様方々は変わらないと申していきます。何らかのために神の奇跡がここを守っていると我々は思っているのですよ」
「そんなに綺麗な景色なんですか?」
「ふふっ、楽しそうですね。皆さんはここよりも美しい景色を知らないと仰りますよ」
そりゃ楽しみだよ。私の人生は絶景を見るためにあると言ってもいい。そんな景色を今から見れるのかと思うと胸がワクワクしてソワソワして落ち着かないんだもん
「ここには教会の研究員も来られてまして美しい景色の秘密を解き明かそうとしているそうです。その美しい景色がこちらですよ」
「………」
あまりの美しい光景に私は言葉を失い呆然と立ち尽くすしかなかった
天井には幾つもの穴が空いていて太陽の光が差し込んでるんだけど、その光の柱が白く輝き洞窟の中の地底湖を美しく照らしてる
そんな地底湖の底には水晶がぎっしりとあるようで光を反射し様々な色の輝きを放っていた
そして、何より神秘的なのが………
「あ、あれは?」
「そう、あれがこの世の神秘とも言える神の奇跡です」
湖と天井のちょうど中間に光輝く球体が浮かんでいた。それはユラユラと揺れてはいるもののそこから全く動くことはなく何も変化することはない。何がどうなったらこんな景色を作り出すの?
「研究員が言うには太陽の光は白だそうで太陽が穴の真上に来たときこのような光景を生み出すようです。その光を水晶が乱反射させ水中で屈折することで様々な色を作り出すようです。この光の球体もその時にしか現れない不思議な存在でして研究員たちも謎だと言っていました。どうぞ中に入り触れて見てください」
「えっ? なら、遠慮なく」
私は水中に足を入れると暖かいことに気が付いた。と言うか少し熱い? これって………
「はい、ここの地底湖は温泉です」
「マジかぁ」
私が振り返って訪ねる前に教えてくれた。みんな同じ反応をするんだろうな。そりゃ冷たいと思って足を突っ込んだら熱いんだから驚くよ
足場を確認しながら水中をぐんぐん進んでいく。水晶が足場を作ってくれているとはいえ深いところもあるからたまに滑って溺れそうになる。そんな不安定なところを歩いていき光の球体に触れると
「冷たっ!!」
「ふふっ、驚きますよね。私もまだ目が見えていた時に触れたんですが熱いんだと思って触ったら冷たいんで驚きましたよ」
これは完全に見た目詐偽だ! オレンジ色に光る球体だから熱いのかと思ったらまさかの冷たい。ビックリしすぎて思わず手を引っ込めてしまった。だけど、何度も触ってると冷たいんだけど何処か安心感があるのは気のせいだろうか
「その球体の面白いところは魔法の効果や称号の効果を全く受け付けないこと。つまり、光ってるだけで空気のような存在なんです。ですから、学者たちは光の屈折がその場所に一ヶ所に集まってるのではないかと言ってましたね」
「へぇ」
神秘的な光景を教会は科学的にも受け入れ検証していくんだ。まぁ、この神秘な何かを利用出来れば利用したいと考えたのかもしれないけど
「………はぇ?」
「どうかしました?」
「い、いえ、何もないです!」
冗談で陰口をセットしようとしたら出来てしまった。独り言もセット出来るし地獄耳もセット出来てしまった。でも、何も起きないし別に………えっ? こ、声が聞こえる?!
《………け………わた………はここに………るの。ここか………だし………。おねが………》
「………」
かすれるような声で誰かが助けを求めてる。地獄耳をセットしたのはこの光の球体だけ。つまり、この球体が喋ってるんだ
「どうしたらいいの?」
《わた………のこえが………えるの? 》
「えっと………はい」
《いのっ………。わた………名を………げていの………て》
「えっと名前は?」
《ル………ス、わた………なは………ルクス》
私は光の球体の前で跪き手を組んで祈った。何故こんなことをしたのかわからないけどしなきゃいけない気がしたからだ。私の魂の奥底に刻まれた何かがそうしろと叫んでるんだもん
ルクス、あなたに祈りを捧げます
「えっ?」
「クロエさん? 何か起きたんですか?」
私が祈った瞬間、光の球体は大きく膨れ上がり呪文の術式が現れ崩壊していった。そして、中から現れたのは私の手のひらサイズの小さな妖精だった
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