諦念の段
人間どもよ、貴様らは本当に愚かだ。
吾輩が城の主となって幾年月、城内はいつだって平穏に満ちている。
結局DIYこそしなかったものの、暮らすうちにしつらえた家財はすべて生活になじみ、見栄だけのために宝箱を置くような浅はかなこともやめた。相変わらずもう少し広くて立地が良ければと思うことはあるものの、吾輩の城は快適といっていい環境にある。
だというのに外よ、城を一歩出た、我が領地よ。
憎き人間どものせいでここに安寧が訪れることはない。屠っても、呪いの雨を降らせても、奴らは際限なく沸いて出る。一人を駆逐すれば次の一人がいつのまにやら現れ、疲弊した吾輩が休息をとる束の間にどんどん仲間を呼び、繁殖し、成長していく。
これまで吾輩が我が同胞のために開拓に励んだ土地をどれだけ奴らに奪われたろう。吾輩が呼び寄せたかわいい魔物たちがどれだけ人間どもに屠られたろう。
人間どもよ、愚かなる隣人よ。貴様らのキリのなさに吾輩は思うところがある。
そんなに強硬にここにいるというならば、我が領地で暮らす代わりに家賃ぐらい払ってくれまいか。
もちろん、貴様らが日々ただぬうぼうと佇んでいるだけの、役立たずとは知っている。しかし数の理というものもある。全員で頑張ればなんとかなるのではないか。
貴様らには何度屠っても蘇る忌々しきガッツだってある。のし袋の輪っかを作るとか、海水浴場の駐車場整理とか、探せば仕事はいろいろあるだろう。
家賃は一族郎党で月10円でも構わない。考えてみてはくれまいか。もちろん大家としてまだ条件はある。勝手に親戚を呼びよせない。勝手に決めた以外の場所に住まない。あんまりでっかくならない、等だ。どうだろう、破格の条件だと思うのだが。
などと言ってはみたが、低能な奴らに吾輩の言葉は通じない。だから我々はずっと不毛な戦いを続けるしかない。疲れた。もうやりたくない。でも今日も明日も吾輩は奴らを屠るしかない。
止まることを知らぬ愚か者どもよ。吾輩は恐れている。貴様らの勢力に吾輩は徐々に押されてきている。疲れた。それでも吾輩は今日も領地をめぐる。だってそれが魔王の宿命だから。35年のローンもあるから。
ああ、大家になりたい。愚かなる人間どもよ、ハンコ、持ってないだろうか。吾輩は持っている。
貴様と吾輩はサインを交わし、吾輩は貴様の大家になりたい。




