【番外編】現に落ちた夢幻王
東京Sideのアフター&番外編。視点は藤子です。
盛大にネタバレをしておりますので本編未読の方はご注意下さい。
「……ねぇ、いい加減デュレクに帰れば? いつまでここに居座るつもりなのよ……」
ハァ、と溜息を吐き、私は目の前で呑気にコーヒーを飲んでいる男に冷たい視線を送る。
目の前の男──見た目だけはやたらと整った黒髪の美丈夫はだがしかし、そんな私の言葉や態度には全く動じる様子がない。
「どの口が帰れだなんて言うのかな、トーコ? 僕をこちらの世界に引き留めたのは君の方じゃない。
君が帰って欲しくないって言うから、ここにこうして居てあげてるのに、全く可愛くないね、君は。
僕と同棲してるなんて知られたら、日本中のファンの女の子からカミソリレターが送られて来るかもねぇ……フフ、僕に害はなさそうだし、公表しても良いんだよ?」
ニヤリ、と口の片端だけを吊り上げる意地の悪そうな笑みをその秀麗な顔に浮かべて、楽しそうに男が言う。
何度も繰り返した会話だけど……相手の思うツボだと解ってはいても、私はつい、反論を口にしてしまう。
「……同棲、じゃなくて同居ね。しかも私の家はここじゃないし、同居ですらないわ。
私のどの言葉を都合良く解釈してくれてるかは知らないけど、帰って欲しくないなんて言った覚えは更々ないわよ。
公表したければどうぞ? そうなったら売りにしてるアンタの神秘性もなくなって、人気も仕事もなくなってまた路頭に迷うことになるだろうけど、私には関係ないしね」
コイツの相手をするだけ時間の無駄だと言うのは、解ってる。
だけど、黙っていたらまたどんな誇大解釈をして妙な事を言い出すか解らない相手だけに、事実は事実として伝えておかなければならないのだ。
……ハァ、本当に面倒臭い。
何でこんなことになったんだろう、と、コイツがこちらの世界に顕現して来たあの日の事を思い出しながら、私は再び溜息を吐いてモニターに向かい、作業を開始しようと試みる。
「シビれるなぁ……! 僕の言葉を真っ向から全否定してくれる存在なんて初めてだよ……!
トーコ、君は本当に僕の好奇心を刺激してやまないよね!」
何かスイッチの入ったらしいその男が何やら面倒臭いことを色々言っているようだけど、私は仕事モードに入ったのでまるっと無視させて頂くことにした。
だが、そんな私の態度にすら、男は何か感動してくれているようで……
「トーコ、ねぇ、トーコ! この世界の全てが僕の好奇心を擽ってやまないけれど、その中でも君はピカイチで気になる存在だ。
そんな君は僕に興味を寄せるどころか存在すら否定してかかってくる。
……否定というのはさ、相手の存在を認めているからこそ出来る所業なのに、君のそれは僕の存在すら揺るがす程に徹底しているよね!
僕は君の関心をどうすれば得られるかって事に頭がいっぱいで、この世界の事も、元いた夢幻界のことも二の次になってしまっているっていうのに……!
……けど、そんな態度が僕を煽ってることを知っててわざとやっているなら、とんでもない悪女だよ君は!」
マーベラス! ブラーヴォ! ハオ! ハラショー!!!!
男は、各国の言葉で『素晴らしい!』と感嘆を漏らしながら踊るように私の周りをウロついている。
またバリエーションが増えている。何処で情報を仕入れて来ているかは知らないが、その適応力にだけは関心せざるを得ない。
だけど……ハァ。五月蝿いったらない。これじゃ仕事にならないじゃない。
「……これ以上騒いだらまたお兄に言って遠方に労働に出させるわよ」
「え? 今度は何処に連れて行ってくれるの!? マグロ漁船? ライン工? それとも農家のお手伝い!?」
焼け石に水、とはこのことか、と私は日本の諺の素晴らしさを改めて実感する。
コイツには何を言っても何をやらせても無駄なのだ。その全てが好奇心に変わってしまうのだから。
「……五月蝿い。良いから黙ってて。それくらいならアンタでも出来るでしょ」
そう言い捨て、私は再びモニターに向かい、今度こそ頭を仕事モードに切り替える。
親友と二人で創っていたライトノベルだけど、今は小説も挿絵も私がやらなければならないのだ。
文章は向こうの世界で親友が──璃心がたまに書いてくれ、異空間を通じて送ってくれているのだけれど。
「ふぅ~ん? それじゃ、お言葉に甘えて、仕事をするトーコを観察させて貰うね?」
それくらい良いよね、と、男は璃心が使っていたデスクに腰掛け、無遠慮にこちらを眺めて来る。
視線はビシビシ感じるけど、そんな事を気にしていたら本当に何も作業が出来なくなってしまう。
「……好きにすれば」
私のその言葉に、男が破顔したのが解ったけど、これもまるっと無視させて頂いた。
起伏の激しいこの男の感情にいちいち反応した所で、コイツを喜ばせるだけなのだから。
「……好きにするよ。トーコ、君は本当に見ていて飽きないよね」
少しだけ縮まった距離から、男の楽しそうな声が聞こえた。
……ハァ、本当に面倒臭いの拾っちゃったなぁ……と、私は再びあれからの事を反芻しながら、いよいよ仕事を開始したのだった。
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私の名前は鈴村 藤子、17歳。現役の高校生だ。
親友の一之瀬 璃心と二人でライトノベル作家として、璃心が文章、私がイラスト、という形で小説を創っていたのだけれど、
相方の璃心が突然異世界にトリップして恋に落ち、そして出生の秘密も露になって異世界で生きると決め、あちらの世界に戻っていったのはつい最近のこと。
それ以来、璃心とは会ってはいないけれど、この仕事場で繋がっている異空間を通して文通めいたことはしている。
文通と言うか、私が嗾けて璃心に向こうでの冒険をこちらの小説の設定に合わせて書いて貰っているんだけどね。
そこには近況報告や……今では彼女の恋人となったレオンに対する萌えとか惚気とかが綴られていることもあり、まぁ、元気で幸せそうで何より。
小説に関しては、生み出した作品を未完のまま終わらせるのは、私も璃心もイヤだったし、かと言って私に璃心のような文章が書けるか、と言われれば答えはNOだ。
私は、どちらかと言えば物理や数学の方が得意で、国語や作文なんかは苦手な部類に入るタイプの高校生だし、
途中で作者が変わってしまったら文体も変わるだろうし、何となく、二人で創って来たものだから、きちんと二人で完結させたいという気持ちもあって。
璃心が異世界に戻って行った空間の歪は、人が通れる程に大きなままにしておいては危険だからと、今は向こうの世界から水龍が閉じている状態なのだけど、
連絡手段用にと、手紙程度ならやり取り出来るくらいの大きさの歪みは残してくれている。
いずれは私も異世界とやらにも行ってみたいし、何より親友である璃心ともまた会いたいと思っているので、再会の手段についてはこれから要検討、といった状態だ。
と、まぁ、璃心の恋物語についてはハッピーエンドを迎え、その後も幸せそうなので問題がないのだけれど……。
……問題は、異世界からやって来たこの男──元・夢幻王のディールだ。
璃心が異世界に戻る際に水龍と打ち合わせをした時に、魔力を抑えた状態でやって来たディールをこちらの世界に止め置き、暫くお仕置きしてやろうという事になり、コイツには璃心も泣かされたし、ざまぁ、と言ってやりたい気持ちもあり、それを請け負ったのは間違いなく私なので、自業自得、と言われてしまえばそれまでなのだけれど……。
実際、異世界にやって来たコイツは警察のご厄介になったり、その服装のまま街中をウロついて嘲笑の渦に巻き込まれて泣きながら帰って来たり、
『働かざる者食うべからず』という我が家の家訓に則り、兄である紫の口利きで色々な場所での労働をやらせてみたりしたのだけれど……
本当に、何を言ってもやらせても楽しい、非常に興味深いと言い、こんな経験をさせてくれた君達には感謝するよ、と、感動すらしてくれるのだ。
悲しそうな表情を見せたのは、デュレクでの服装のまま街を闊歩し、近所の子どもに指をさされて大笑いされた時くらいかな……。
それすら今では貴重な経験だったよ、とプラスに変換しているようで、たまにはあの服を着て歩くのも良いよねなんて爆弾発言をするので、お願いだから止めてくれと、禁止している始末だ。
だって鈴村の関係者にコスプレ癖があって、それを勝手に街中で披露しているなんて知られたらスキャンダルになりかねない。
私の父は幾つも会社を経営しているグループの総帥で、母も自分の会社を持っている実業家なのだ。
兄の紫も、今でこそ父の秘書という形に納まってはいるけれど、いずれは父の後を継ぎ、会社を経営して行く立場なのだから、余計な事で波風を立てたくはない。
ディールの職場については、当初は本当に定まらなかった。
器用な男ではあるので、何をやらせても卒なくこなすのだけれど、それ以上に好奇心が旺盛すぎて、関係者を質問攻めにするので、業務が滞ってしまうのだ。
持って三日、早ければ半日で返品されて帰って来る。仕事にならないから引き取ってくれ、と。
まぁ、今まで異世界で……小説の設定通りなら自分の興味の赴くままに自由奔放に、一人で生きていたコイツのことだ、溢れる好奇心を押さえようなんてことは考えすらしないのだろう。
子どものような無邪気さでこの世界について質問をしてくる姿は、見る人が見れば可愛らしくさえ見えてしまうのだろうが、生憎私にはそんな感情は微塵もない。
だって想像してみて欲しい。
何かを見つける度にあれは何なの? どうして動いているの? どういう意味があってあそこにあるの? 何で出来ているの? ……と質問攻勢をされるのだ。
正直、鬱陶しいし、質問されたところで全てに答えられる人なんて何処にもいない。
危険なことや本当に必要な事以外は、私も無視を決め込んでいるのだけれど、どうやらそんな私の態度はディールの何かを刺激するらしく、
「君みたいな存在は初めてだ!」
と、やたらと感動してくれ、私に纏わりついて来る。
……まぁ、こんなヤツを野放しにしたら世間様に申し訳ないので、兄とも相談してこの仕事場に住まわせていて、そのやたらと整った見た目を活かし、父の会社で扱っている衣料品や雑貨、中には化粧品といった商品の広告塔として使ってみたところ、なんだか異常なまでに人気が出てしまい、出自不明の謎めいたモデル・DEELと称して活動することで、仕事問題には片を付けた。
撮影の現場でも、その旺盛な好奇心で周囲を辟易させることはあるそうだけれど、カメラの前に立てばカメラマンの注文通りに色々な表情を見せてくれるので、モデル、という職業は意外とハマっているのかもしれない。
その人気ぶりには、私はちょっと戸惑っているのだけどね……残念な中身を知っているだけに。
リリリリン……と、側に置いた私のスマホから着信を告げる黒電話の音が聞こえる。
画面を見れば、兄の紫からの電話だ。
「もしもし、お兄? 珍しいね、こんな時間に」
時刻はそろそろ夕刻に近付こうという時間帯とは言え、毎日忙しく働いている兄はまだまだ就業時間の筈だ。
それに、今日はこの後この仕事場に寄ってここで夕食を食べた後、一緒帰る予定にしていた筈。
「あ、藤子? 悪ィ、急に得意先の接待の予定が入ってさ……」
今日の夕食は外食することになった言う。
声のトーンを落とし、だが口早にそう告げる兄に、私は「了解」と返事を返した。
社会人、しかもグループ企業の代表を務める父の秘書ともなれば、接待や会食は日常茶飯事だ。
それも仕事のうちだよ、と微笑みながら告げれば、
「……お前の事だからもう食材も用意しちゃってるんだろうし、そこで飯食うなとは言わないけど……。
長居はするんじゃないぞ。これ以上ディールに懐かれたら、こっちだって心配なんだから」
……懐かれたって何だ。コイツは猫か何かか。
だが、仕事の口利きやモデルの仕事の手配等でディールとも関わりの深い兄は、コイツの面倒臭さを良く知る人間の一人。
元はと言えば私が蒔いた種なのだが、存外面倒見の良い兄は、私の事情も知った上で何かと心を砕いてくれている。
そんな兄に私は頭が上がらない状態だ。
今日の事だって、食材を用意してしまったのは本当で、兄が来られなくなったとは言え、食事はここでせざるを得ないのを心配してくれている。
「大丈夫だよ。餌付けしての躾もたまには必要でしょ。……仕事頑張って」
忙しいだろう仕事の合間に、メールではなくわざわざ電話をくれた兄に激励を飛ばし、ありがと、の声を聞いた私は通話を終了する。
……フゥ。仕方がない、さっさと夕食を済ませて帰るに限る。
「ユカリ来られないの? ……わぁ、トーコと二人でご飯なんて、久し振りだね!」
相変わらず私を観察していたらしいディールが電話の内容を察し、手を叩いて嬉しそうにそう言った。
デート! 逢い引き! ランデブー! と何だか楽しそうに踊りながら私の周りをウロついている。
「……ウザ」
ハァァァァと深い溜め息を吐く私を、尚も楽しげに見つめるディール。
全く、何がデートだ。兄が来られなくなっただけで、ただ食事をするという、毎日の日課をこなすだけだと言うのに。
「トーコが作ってくれるご飯は本当に美味しいもんね! 今日はなんだろう? 考えただけで胸が躍るよ!」
相変わらず手を叩きながら踊っているディール。
何だかテンションが上がっているらしいコイツに何を言っても無駄だ。
早く帰るには早く食事を済ませるしかない。
「食材には感謝を。これもウチの家訓なだけ。無駄にする訳にはいかないでしょ。深い意味はないんだから期待しないで」
そう言い捨てて私は今日の仕事を諦め、キッチンに向かう。
本当はもう少し続きを進めたかったけれど……本気で早く帰りたいので今日は仕事は諦めよう。
冷蔵庫に入れた食材を取り出し、私は食事の支度を開始する。
用意した食材は卵と家から持ち込んだ朝の余りの白米、適量の数種類の野菜と鶏肉。
私の家は実業家一家ではあるけれど、両親の教育方針で自分の事は自分で出来るように、ということで、使用人の類いはおらず、食事は母が忙しい合間を縫って用意してくれ、それでもどうしても都合が付かない時は自分達で用意しており、またこれも教育方針の一環で、レトルトやカップラーメン、コンビニ弁当等は禁止されている。
その為、幼い頃から両親の不在時は食事の支度や掃除、洗濯を自分達でしていたので一通りの家事は私も兄もこなすことが出来る。
特に兄が社会人になってからは私がその役目を担う事も多く、一般的な高校生と比べ、私は家事は得意な方と言える。
ここで璃心と泊り込みで仕事をしていた時も、彼女の食事なんかは私が用意していたしね。
……と、いうか、璃心も掃除や洗濯なんかは人並みにこなせるのだけれど、料理に関しては
「こっちの方が美味しいかも~!」
……と、有り得ない手順、調味料を用い、作成し出すので出来れば手を出して欲しくない分野だった。
まぁ、不思議な程に味は美味しくなるのだけれど、段取り、手順を教科書通りにこなしたい私からしてみれば危険物には替わりがない。
こちらの常識が通用しない異世界で、もし璃心が手料理を披露する機会があるとしたら、きっとレオンもフォレスも感動するに違いない。
味は本当に、不思議な程に、きちんと手順を踏んだ私が作ったものより美味しいのだ。
その作業手順が見ていられなくて、こちらでは彼女に料理を任せたことは殆どないのだけどね。
ああいうのを天才、と言うんだろう。
そんな事を考えながら、私は食材を切り、卵を溶き、それらを炒め、包み、手際良く調理をしていく。
オープンキッチンな造りのマンションの一室で、私のそんな様子を色々面倒臭い事を言いながらディールが眺めているがまるっと無視だ。
料理は手順が命。特に私は頭の中で工程を組み立てながらその通りに作業を進めて行くのが好きなだけに、作業中に邪魔が入る事を全く良しとしない。
一度、料理中に質問攻めをかましたディールの片頬にグーパンをお見舞いして以降、さすがのコイツも学習したらしい。
「……出来たわよ」
調理器具の片付けまで効率的にこなし、私がテーブルの上に本日の食事を用意する。
オムライス、サラダ、コンソメスープという、私にしては簡単に用意出来るラインナップだ。
ちなみに、その華奢な体躯からは想像もつかない程に大食漢なディールには、兄の為に用意した分まで片づけてもらうべく、特大サイズとなっている。
食材を無駄にする訳にはいかないのだ。私の分も、いつものサイズより一割程度増やしているので我慢して頂きたい。
「オ~ム~ラ~イ~スぅぅーーーー!!!!」
ヒャッホーイ! と奇声を上げてディールがその場でまた踊り出す。
存外お子様舌のコイツは、ちょっと甘めのカレーライスやハンバーグ、そしてこのオムライスいったメニューが好みのようだ。
「頂きます」
そんなディールを無視し、私は食材に感謝の祈りを捧げ、食事を開始した。
ディールは未だ席についていないけれど、そんなことは関係ない。
美味しいものは美味しいうちに感謝を込めて頂く、これもまた我が家の教育方針の一つだ。
その為、家に家族がいる際は必ず食卓にはその時にいるメンバーは揃って席についていたものだ。
「……わ! 待って、トーコ! ちゃんと頂くから!」
そんな私の様子に、焦った様子でディールも対面に着席して「頂きます」と手を合わせる。
これは私の躾のひとつ。
食事の前には必ず食材と作ってくれた人に対する感謝を捧げなさいというのは絶対に譲れないお作法の一つだったので、ディールにも教え込ませて貰った。
「お~いしィィィィ~!!」
世間で流行りのフワトロ卵よりだいぶ固めに焼かれた卵に包まれたケチャップライスを頬張りながら、ディールが嬉しそうに叫ぶ。
……正直、自分が作った料理を美味しそうに頬張ってくれるのを見るのは悪い気はしない。
だけど、私は食事は静かに頂きたいので、
「……あっ、そ」
呟くのみで、自分の分を咀嚼し続けた。
自分好みではあるのだけれど、今日のオムライスもまぁ、上手に出来たと思うし。
私の分はちょっと失敗してしまい、形が崩れているけれど、ディールのそれはお手本のような理想的な形で作ることに成功していた。
「トーコって本当に料理が上手だよね! あんまりこの家にはいてくれないけど、僕には出来ないソージやセンタクも完璧にこなすし……君みたいな娘を理想のお嫁さんって、この世界の人は言うんでしょ?」
咀嚼中は喋るな、と教え込んだ通り、食材を飲み込んだ後の絶妙なタイミングでそんな事をディールが言っているけれど……
……まぁ、これもまるっと無視だよね。私も食事中だし。
「……僕はさぁ、今まで誰かが作った食事をこんな風に差し向かいで頂くなんてしたことないし……この世界、というか、君が好きだからこんな時間も本当に大切に思うんだ」
……何か言ってる。無視。
「この僕がこんなに他人に興味を示したなんて生まれて初めてだよ、トーコ。好き、大好き!
向こうの世界で大きな意味を持っていた魔力がなくても、自分の存在をこんなに認識して貰えるなんて……この世界は僕にとって理想郷だ」
……咀嚼の合間でこんなに喋れるなんて、ホントに器用な男だな。ムカつく。
「……実はさ、夢幻界に帰る方法、見つけちゃったんだよねぇ……」
……ブホッ!
思わず咳き込む。
その発言には、流石に私も反応せざるを得なかった。
「だったらさっさと帰りなさいよ! ヒモ状態ではないにしろ、邪魔者には変わりないんだから!」
「ヤダよ! 僕はここで生きると決めたんだ!
魔力がない以上、僕は普通に歳を取るし、いつかきっと老いて死んで行く。
……けどそれすら受け入れたい。そしてその最期の時までにはきっと……」
──君の口から好きだと言わせてみせる。
そんなディールの爆弾発言に。
「……ないわぁ……」
ハァ、と溜め息を吐いて私は答えた。
だって、こんな面倒臭い男に、私がそんな事を言うなんて有り得ないもの。
自分の蒔いた種だから、今は仕方なく受け入れているけれど、面倒臭いことには変わりがないし、コイツは元々は璃心を泣かせた憎むべき復讐相手なのだ。情なんて沸く筈もない。
「……フフ。君の性格はだいぶ把握してきたつもり。これでも色んな存在を観察してきた『夢幻王』だからね。
対人術の経験は、君よりだいぶレベルが上だと思うよ、僕は。
確かに恋愛は初心者だけれど……それでも、今までの経験は君よりずっと豊富な筈だから」
……私より相当量が多かった筈のディールの食事は、私の数倍喋っていた筈なのに既に粗方なくなっている。
……本当に器用な男だな、コイツ。
「……遠回しの意味深な言葉より、直球の方が君の心には届く筈。
そして賛美の言葉や熱烈な愛の言葉も、君にはきっと有効だ」
未だ食事中の為に反論出来ない私に、自分で汲んで来た麦茶を飲みながら、不敵な笑みで私を見据えるディール。
「こんなに心を刺激されたこと、今までにないよ、トーコ。絶対に君を僕の物にする。
……リコリアに感じてた執着心とは全く違う……ねぇ、トーコ」
……これが愛ってヤツなんだ!
さっき汲んで来た麦茶すら一瞬で飲み干し、両手を天に拡げて何か面倒臭い事を言っている。
対する私も、ようやく食事を終え……
「……アンタに絆されることなんか一生ない。アンタが泣きながら異世界に帰る光景しか、私には見えてないわ」
いつの間にかディールが淹れてくれた私のカップに注がれた麦茶を飲み干して、私はそう言った。
そんな私の言葉を正面から受け止め。
「……勝負だね、トーコ。一生をかけた勝負だ。……絶対負けないからね?」
「……受けて立たない。早く帰れ」
「勝負すら成り立たないィィィィーー!!??」
……元夢幻王の絶叫がマンションに響いた。
……ハァ、これ以上騒いだら、本当に追い出そう。後がどうなろうと知ったこっちゃない。
私がこんな奴に絆される事は絶対にないしても……
……私の面倒臭い日常はまだ続きそうです……ハァ……。
書いていてなかなか楽しい二人でした^^
進展するかどうかは……神のみぞ知る、と言った所でしょうか。
ちなみに作者には今の所解りません(笑)
また番外編の投稿を予定しておりますので宜しければお付き合い下さい。
一先ず、お読み頂き有り難うございました!




