ファミレスのトポロジーがまじエグみ深かった件
ああ。
プラスチックのトレイの上にぶちまけられたポテトフライは、さながら無秩序に折り重なる黄金の骨の山だった。
塩分とトランス脂肪酸の頽廃的な薫香が、マクドナルドの騒がしい店内に充満している。
唯華は人差し指と親指で一本のポテトを、まるで19世紀末の耽美主義者が一輪の退廃的な薔薇を摘むかのような手つきで持ち上げ、ケチャップの深紅の海へと沈めた。
「改めて思考を巡らせてたんだけどさ、現代における『ファミリーレストラン』という空間の位相幾何学って、まじで階級闘争の縮図っていうか、人間存在のヒエラルキーが剥き出しになっててエグみ深くね?」
莉央は炭酸の抜けたコーラをストローで微かに鳴らし、気怠げに頬杖をついた。
彼女の瞳には、安価な蛍光灯が冷徹なルミエールとなって反射している。
大きな動作で指差し確認をする莉央の姿は、あの有名な芸人の所作を想起させた。
「それな。まじでそれ。
うちもそれ、実存主義的なフェーズで考えてた。ファミレスって、かつては中流階級のささやかなユートピアだったはずじゃん? なのに今や、完全に資本主義の審判によって、聖域と俗界に引き裂かれてる。分断のディストピア」
「そう。その聖域の頂点、いや、もはや不可侵の絶対王政を敷いているのが『ロイヤルホスト』という名の至高の精神じゃん。あそこはマジでダントツの高級路線。ファミレスという通俗的な概念に対する、ドラスティックな反逆でしかない」
唯華はポテトを口に運び、咀嚼の刹那、恍惚とした表情を浮かべる。
「ロイホのあの、重厚なマホガニー調の内装、そして泰然自若としたオニオングラタンスープの佇まい
……あれは完全に、凡庸な日常を拒絶する美意識の結晶じゃん。
うちらみたいな公立高校の有象無象が、スクールバッグを引きずって足を踏み入れることすら躊躇われる、一種の特権的なコスモロジー。客単価のインフレーションが、そのまま霊的な気高さへと昇華してる。神々のサロンだわー」
「わかる。ロイホは自らの階高を理解し、それにふさわしい、洗練された肉の食感と、知的で完璧な接客を差し出してくる。
まさにノーブル、気高き血統の証明。……でもさ」
莉央はそこで言葉を切り、ポテトフライの山から最も歪な形の、焦げ目のついた一本を選び出した。その指先が、告発者のように微かに震える。
「それに引き換え、『デニーズ』のあの、頽廃的で不条理な現況は一体何?
価格設定だけは一丁前にロイホの後を追って、さながらブルジョワジーの夜会気取りのくせに、提供される物質の強烈な空虚さ。これ、完全に記号の過剰摂取じゃん。価格と価値のシニフィアンとシニフィエが、完全に乖離してゲシュタルト崩壊を起こしてる」
「あはは、まじそれな! デニーズはまじで、値段だけ高級なくせに質が伴ってないの極み。美意識の伴わない成金主義っていうか、実質的なバリューの飢餓。頼んだハンバーグが運ばれてきた瞬間、うち、その造形の世俗的な平仄に直面して、まじで悲哀の深淵に叩き落とされたからね。
『お前は己の価格を自覚しているのか?』という、形而上学的な問いを投げかけざるを得ない案件」
「そう、デニーズは、自己の存在論的な欺瞞に気づいていない。あるいは、消費者を愚弄するマキャベリズム。高い貨幣を支払わせながら、うちらに与えるのはただの『ファミレスの延長線』という凡庸な現実。それは裏切りという名の、最も下俗な冒涜。神への不敬罪に等しい」
唯華はケチャップの付いた指先を、傲慢な女王のように見つめた。
「それに比べたらさ、サイゼリヤとかいう、貧者のルサンチマンを全肯定する暗黒の楽園のほうが、よっぽど誠実じゃん?
圧倒的な低価格という名の免罪符。あそこは『うちは安物の均一化されたイタリアの幻影ですよ』って、最初から自らの『無』を自己開示してる。だからこそ、うちらは安心して、その欺瞞のスパゲッティを貪り、安価なワインの血をすすることが許される。あ、未成年だからすすらないよ、知らんけど」
「それな。サイゼはニヒリズムの極地でありながら、同時に最も慈愛に満ちたマリア。
……で、結局うちらは今、そのすべての階級闘争の最底辺、あるいは原点であるマクドナルドという、この油まみれの煉獄で、200円そこらのポテトを前にして高説を垂れてるわけ。
この状況、まじで最高にアイロニカルで自己言及的じゃん。
ウケる」
「まじそれ。うちら、マックのジャンクな塩分で脳をハッキングされながら、ロイホのパフェやデニーズの欺瞞を品評してる。この、俗世の底辺から高みを見下ろすような、倒錯したカタルシス。まじ無理、エモみの閾値を超えて、精神の彼方へアセンション案件だわ」
二人の笑い声は、ポテトを揚げるタイマーの無機質な電子音に掻き消され、公立高校の制服を着た二人の少女は、冷めかけた黄金の骨を、再び黙々と口へと運び始めた。
その姿は、現代の消費社会という名の巨大な伽藍の隅で、ただ退屈を飼い慣らす、美しくも不毛な司祭のようであった。
やりすぎるとクッソ嫌味になるなあ。くー、加減が難しいぞ。




