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おてんば姫の世界おやつ漫遊記 ~お城を家出したら、魔物二匹と諸国を救うことになりました~  作者: 明石竜


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最終話 次のおやつを探しに行こう!

 精霊脈が再接続されてから、数ヶ月が流れた。

 あの日、始まりの森で目にした光景は、まるで夢のようだったけれど、その効果は確かに現実のものとして、大陸中に広がっていった。

 各国からは次々と、作物の実りが回復しているという知らせが届いていた。フロレンツァ公国では、果物の甘みが以前にも増して豊かになり、ヤマトノ国では、米の質が急速に改善されていった。サハリア王国の花畑には、色とりどりの花が再び咲き誇り、ノルディア王国のベリー類も、例年以上の豊作を迎えているという。アルマ海洋共和国でも、島の柑橘類や海藻が勢いを取り戻し、漁の獲れ高も少しずつ元に戻りつつあるらしい。

 そして、ベルフィーユ王国の城でも、その変化は、確かに感じられていた。

「今日のクッキー、去年よりずっと美味しいわね」

 城の庭園で、わたしは焼きたてのクッキーを頬張りながら、思わずそう呟いた。小麦の風味も、蜂蜜の香りも、以前よりずっと豊かに感じられる。

「精霊脈の効果が、着実に表れているようですね」

 隣に座ったセシルが、穏やかな笑みを浮かべながら、そう答えた。

 あれから、わたしは以前よりもずっと真面目に、王女としての公務に取り組むようになっていた。もちろん、根っからのおてんばな性格が、すっかり大人しくなったわけではないけれど。

「リリアーヌ、少しは王女らしくなったと思ったのだが……」

 ある日、父上が少し呆れたような、それでいて満更でもなさそうな表情で、そう漏らしたことがあった。

「まだ何か、企んでいるのではないだろうな」

「もちろん、企んでるわよ、お父様」

 わたしが悪びれもせずそう答えると、父上は、大きなため息をついた。

「一体、何を企んでいるというのだ」

 わたしは、これまで温めてきた計画を、いよいよ実行に移すことにした。

「お父様、わたし、正式に、諸外国の文化と食文化を調査する、特別な役職に就きたいと思ってるの」

「役職、だと?」

「そう。『王室特使』みたいな肩書きで、定期的に各国を視察して回る仕事よ。もちろん、精霊脈の維持管理についても、責任を持って対応するわ」

 わたしの提案に、父上はしばらくの間、考え込むような表情を浮かべていた。

「それは、つまり……お前が、また旅に出たいということか」

「まあ、そういうことになるわね」

 わたしが素直にそう認めると、父上は深いため息をついた。

「まったく、お前という奴は……」

 けれど、その表情には、以前のような単純な呆れだけではなく、どこか諦めにも似た、理解の色が浮かんでいた。

「分かった。ただし、今回は、正式な役職としてだ。無断で城を抜け出すような真似は、二度と許さんぞ」

「もちろんよ! ちゃんと、正式な手続きを踏むわ!」

 こうして、わたしは、正式に「諸外国文化調査特使」という役職を与えられることになった。

 これにより、わたしは合法的に世界中を旅して回ることができるようになったのだ。

 そして、セシルには正式にわたしの護衛役という肩書きが与えられることになった。

「今回は、家出ではありませんからね」

 旅立ちの準備を進めながら、セシルが念を押すようにそう言った。

「わかってるわよ」

「本当に、分かっていらっしゃいますか?」

「たぶん!」

 わたしがいつもの調子でそう答えると、セシルは呆れたような、それでいて優しい笑みを浮かべた。

              ☆

 旅立ちの日、城門前には、多くの人々が見送りに集まっていた。父上と母上、姉のシャルロット、そして城の侍女や騎士たち。

「リリアーヌ、今度も、無事に帰ってくるのですよ」

 母上が、優しく微笑みながら、そう声をかけてくれた。

「もちろんです、お母様」

「リリィ、次はどんなお菓子を持って帰ってきてくれるのかしら」

 姉のシャルロットが、楽しそうにそう尋ねてきた。

「お姉様の分も、たくさん探してくるわね!」

 城門の前には、プティとボンボンも、旅立ちの準備を整えて待っていた。

「きゅい!」

「もふぅ!」

 二匹の元気な鳴き声に、わたしは思わず笑みをこぼした。

「さあ、行きましょうか」

 わたしがボンボンの背に飛び乗ると、セシルも慣れた様子で、その後ろに続いた。

「次なる目的地は、決まっているのですか?」

 セシルの問いに、わたしはこれまで旅商人から聞いた話を思い出しながら、答えた。

「東の方には、まだ食べたことのない、不思議なお菓子があるらしいの」

「また、そのような曖昧な情報を頼りに……」

「それが、旅の醍醐味じゃない」

 わたしがそう答えると、セシルは小さく肩をすくめながらも、どこか楽しそうな表情を浮かべた。

 城門を出発する直前、わたしはもう一度振り返って、見送ってくれる人々の顔を見つめた。

 あの日、単なる家出として始まったこの旅は、今こうして正式な旅として、新たな一歩を踏み出そうとしている。

 これまでの旅で出会ってきた、たくさんの人々の顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。ミレーナ、コハル、シャヒラ、フレイヤ、マリン。

 彼女たちとの出会いと絆が、この旅を、これほどまでに豊かなものにしてくれた。

 そして、これから始まる新たな旅でも、きっと、たくさんの新しい出会いが待っているに違いない。

「さあ、次のおやつを探しに行きましょう!」

 わたしがそう声をあげると、ボンボンが勢いよく地面を蹴った。

「もふぅ!」

「きゅい!」

 プティも元気よく、その声に応える。

 四人――いや、二人と二匹は、街道の向こうへと力強く走り出していった。

 振り返れば、城壁の向こうにこれまで過ごしてきた日々の記憶が確かに刻まれている。

 けれど、前を向けば、そこにはまだ見ぬ世界の広がりが無限に続いている。

 王女という立場から、逃げ出したいと願っていた少女は今、その立場を自分なりの形で受け入れ、そして、その立場だからこそできることを見つけ出していた。

 それは、世界中を旅しながら、それぞれの土地の人々と確かな絆を結び、その繋がりを大陸全体の未来へと繋げていくという、かけがえのない使命だった。

 街道の先には、まだ見ぬ国と、まだ味わったことのないお菓子が確かに待っている。

 そして、その先で、どんな新しい出会いが待っているのか、リリアーヌ自身にも、まだ分からなかった。

 ただ、確かなことが一つだけあった。

 この旅は、まだまだ終わらない。

 次の国へ、次のおやつへ、そして、次の出会いへ。

 おてんば姫の世界を巡る大冒険は、これからもずっと続いていく。

(完)

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