第一章:残り12カ月——選択の始まり
「わあ、本当だ……! すごくキレイだね」
「でしょ! エリンね、初めて見たときとても感動したのよ」
エリンお手製の果実水。
その透き通った青色が、レモンを垂らした途端夕焼けのような赤へと変化していくのを、目を丸くして見つめるコトネ。
そっとカップを手に取り光にかざす。
すると、揺れる液体はまるでどこか遠い空の色を閉じ込めたみたいで、思わず見入ってしまう。
そんなコトネを見て、得意げに笑うエリン。
(やっぱり、余計なことは言わなくて正解だったな)
楽しそうなふたりの様子を見ながら、微笑ましくそんなことを思うフェリカ──の目が、コトネとエリンの背後。
開け放たれたままの、朝食の間の入り口で止まる。
その瞬間、柔らかな笑みが、スッと消えた。
そこに立っていたのは、見慣れた侍従ではない。
東の国の正装に身を包んだ、ひとりの男だった。
「皇貴様」
不意に背後からかけられた声に、コトネは振り返った。
「東の国より、正式な通達がございます」
「正式な通達……?」
物々しい様子に、コトネの黒い瞳にわずかに不安の色が混じる。
「本日をもって、婚姻の儀に向けた準備を開始いたします」
「……え?」
婚姻の儀まで、後1年。
それはわかっていたことだが、漠然と「1年」というだけで、具体的な日にちなどは決まっていなかった。
だから、しっかり考えないといけないと思いつつも、まだどこか現実味がない。
あるいは少しだけ、他人事のように感じていた部分があったのだと思う。
「各国への通達はすでに済んでおり、先程ここ北の国ルーシアの王に手紙を届けた時点で、1年後の本日が婚姻の儀の日付となりました」
「え、あの……」
そんなこと聞いていない、とは言えない。
「皇貴様のご意思に関わらず、儀は予定通り執り行われます」
わかっている、わかっていた、でも、だけど。
サヴジも、エリンも、フェリカも、皆好きだ。嫌いなんかでは決してない。
ただ、誰を選ぶかでそれぞれの国の運命も、国民の運命も変わってしまう。
「──これは、既に定められたことにございます」
それだけの責任が、怖い。
なんと言えばいいか、どう答えればいいか。
言葉に詰まるコトネを諭すように、
「どうぞ、皇貴様もその心づもりでお過ごしください」
──あるいは現実を突きつけるように、静かな声が続く。
「期日まで──残り、十二カ月」




