問われるのは、覚悟の代償
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「それでね、これがサヴジへのお土産! 一本はシロップになってるから、あのベリーと一緒に楽しんで」
「……悪くないな。控えめな酸味が、ベリーを引き立てるだろう」
「ねえコトネ、これとてもおいしいわ。ヤコクの料理って繊細な味付けだけど、奥が深いのね」
「それ、私も好きなんだ。おいしいよね」
食事を楽しみながら、近況報告などをし、賑やかな時間を過ごす。
「エリンもそれ好き! ちょっと甘いソースが合うのね」
「この緑の実が良いな」
「そうなのよ、甘さを引き締めて香りを添えてくれるのよね」
「それはいい香りだけど、たくさん食べると舌がピリピリするよ」
「え、本当!? ……きゃっ、本当にピリピリしたわ!」
「……ピリピリすると言われているのに、なぜたくさん口に含むんだ」
エリンの葡萄園には、新たにミツバチがやってきたらしい。巣箱を設置し、無事住み着いてくれたそうで、豊作が期待できそうだと笑う。
フェリカが髪につけている飾りがコトネが作ったものだと聞き、エリンはうらやましがり、サヴジは僅かに目を細めた。フェリカが、いつかみんなで時計を作ろうと提案をする。
ルーシアの冬の厳しさは変わらないが、新たな試みに取り組んでいるとサヴジが話す。
そうして近況報告などをし合ったところで、フェリカが切り出した。
「コトネ、ヤコクの王城内に招かれての交流会は、初めてよね。しかも、コトネが望んでくれたのだと聞いているわ」
「──うん、そう、なんだ」
どこから話そうか、と言葉を探すコトネ。
ゆっくりと、三人の顔を順番に見る。
真剣なまなざしが向けられているのを受け、重くなりかけた口を開く。
「たくさん、……秘密が、あるの」
「秘密?」
「聞かせて」
「話せ」
三人の言葉に、こくり、と静かに頷く。
すると、
──りぃん、りぃん、りぃん。
と三回、鈴がなった。
***
コトネ達は侍女に連れられ、少し離れた部屋へと案内された。
中には細長い机。その両隣には燭台が置かれ、火が揺らめいている。
そして──机の中央には小皿と、小刀があった。
ぬらりと鈍く光るその刀身に、思わずエリンが足を止め、フェリカは息をのみ、サヴジの目に警戒が滲む。
──りん。
もう一度鈴がなり、部屋の奥から導師が現れた。
「皇貴様の願いにより、皆様をお迎えいたしました」
導師の言葉に、コトネが、三人が頷く。
それと同時に、入ってきた扉がするすると閉じられた。空気の流れが、すん、と停まる。
「ですが、これより先は、皇貴と皇貴に関わるお役目組のみが知ること。口外は一切禁じられます」
「……無論、口外ならぬというのなら従うまで」「ええ。そうね」「エリンも言わないわ」
三人の返事を聞きながら、負担を強いてしまうことを思い、コトネが小さくうつむきかける。
しかし、それに気付いたサヴジが口を開く。
「気に病む理由はない」
一瞬戸惑った後、こく、とコトネが頷く。
ただ、導師は身動き一つせず、サヴジたちの名を淡々と呼んだ。
全員の視線が集まったのを確認した後、懐から一枚の紙を取り出し、机の上に置く。
「──今から語られるのは、これまでの長きにわたり、皇貴達が命を賭して守ってきた秘儀です」
「何があろうと、どんなことが起ころうと、この秘密を漏らすこと、まかりなりません」
「それを知るということは、過去代々、そして現代、未来の皇貴やお役目組と同じ重みを背負うということ」
「決して、簡単なことではございません」
「故に、ご覚悟の程を問わせていただきます」
そう、静かな声音で告げる。
ひゅう、と外で風が吹く。しかし、燭台の火は一切揺るがない。
「今ならば、まだ引き返すことができます。このままヤコクに明日まで滞在し、交流会をお過ごしください」
「引き返す……って? コトネが抱えてる秘密を知らないままでいるっていうこと?」
エリンの問いに、ゆっくりと導師が頷く。
すると、エリンはぶんぶん、と大きく頭を振る。
「エリンはそんなの嫌。だってコトネは話してもいいって思ってくれたんでしょ? それなら聞きたいわ! それに、すごく、すごく大切な話なのよね?」
じっと見つめられ、一瞬戸惑うが、ゆっくりと頷くコトネ。
その唇がきゅっと結ばれるのを見て、フェリカが気遣うような視線を向ける。
「聞くことでコトネが困るのなら、聞かないわ。でも……そうではないのなら、私は聞きたい」
「……困らない、よ」
「ならば、引き返す理由など、何一つない。俺は知りたい。お前がこれまで何を抱えて来たのかを」
コトネの言葉を受け、サヴジが続ける。
もう一度導師は、その覚悟を三人に問うかのように一人一人を見つめた。
サヴジ、エリン、フェリカ。
いずれもがためらうことなく、まっすぐに見つめ返し、頷き、意思を示す。
「──では」
それを確認し、導師は机に置かれた短剣に手をかけた。




