零 プロローグ
時は西暦20XX年。栄華を極めた人類に存亡の危機が訪れていた。
宇宙を荒らし回る海賊ブロズオマーダーが、地球に存在する豊富な資源に目を付け地球の支配を目論んだ。その情報を掴んだ宇宙警察機構は、ブロズオマーダーの野望を阻止する為に一人の戦士を送り出す事を決定する。
その者の名はゴーギャン。宇宙警察機構の全権代理人たる捜査官である。
☆ ☆ ☆
新宿が燃えていた。天空より突如として現れた巨大戦艦からの砲撃によって街は焦土と化していた。
人々は逃げ惑い、他者を押し除けてでも自身が助かろうとする。その様子をビルの屋上からほくそ笑みながら眺めている者が居た。
「ハッ。所詮は惑星にしがみ付く事しかできないサルの末裔だな」
その者は上空を見つめ次々と落とされる戦闘機を見ながら、こんな原始的な戦力しかない星など楽勝だ。などと思っていた。
「さて、第一段階は終了。次いで第二段階だ」
第一段階は群れるサル共の排除。そして第二段階は新宿地下に埋没するレアメタルの採掘である。その者は採掘機械を呼ぶべく、上空の戦艦に向かって右手を高々と上げようとした時、どこからともなく男の声が響いた。
「そこまでだ! ブロズオマーダー!」
「何奴だ!?」
ブロズオマーダーと呼ばれたその者が振り返ると、いつの間にか一人の男が立っていた。その男は真下に向かって右腕を突き出し、何かを引っ張り上げるようにその腕を天高く突き出す。
「着装っ!」
男がそう叫ぶのと同時に、男の体から眩い光が放出される。その光が収まると男の姿はどこにもなく、代わりに銀に輝く甲冑の様なものを着た何者かが立っていた。
「宇宙捜査官っ! ゴーギャン参上っ!」
「何ぃっ!? 宇宙警察だとっ?!」
こんな辺鄙な惑星に何故奴らが? ブロズオマーダーは懐の中から愛銃を取り出し、ゴーギャンと名乗った者に向けようとした刹那、上空の戦艦から光の輪が二人の間に降り立ち一人の異形の者が姿を見せた。
「ブロズオマーダー様。ここは私めにお任せ頂き、お引き下さいませ」
「良いだろうアラゴスタよ。ここはお前に任せる事にしよう。この者の四肢を引き裂き、我が玉座に捧げるが良い」
「畏まりました」
「待て!」
光の輪の中に消えゆくブロズオマーダーを追うゴーギャン。そのゴーギャンの行手を遮りアラゴスタは鋭利なハサミが付いた手を振るう。
「クッ!」
かろうじてハサミをゴーギャンは躱わす。その後ろではビルの壁面に真一文字の亀裂が入った。それを見て呆気に取られるゴーギャンに蹴りを叩き込むアラゴスタ。蹴り飛ばして大きく距離を離したところで再びハサミを振るった。
「ケェッ!」
「クソッ!」
不可視の斬撃をゴーギャンは飛んでかわす。アラゴスタの目が怪しく光った。
「今だ!」
「何っ!?」
振るった逆の手のハサミがアラゴスタから離れ、宙に居るゴーギャンを捕らえた。そして二度の斬撃によって脆くなったビルの壁面に突き刺さる。
「クソッ! 離せ!」
ハサミの中でゴーギャンはもがく。けれどハサミはびくともしない。もはや勝負あった。そう確信したアラゴスタは、口角を釣り上げる。
「さらばだ。ゴーギャンとやら」
三度振るわれる不可視の斬撃。かろうじて建っていたビルがそれによって崩れ始める。アラゴスタの笑い声が高々と響く中でゴーギャンの姿は崩れゆくビルの瓦礫の中に消えた。
「カハハハッ! 宇宙警察なぞ我らにかかれば恐るるに足らんわ!」
高笑いしながら崩れたビルに背を向け、帰還しようとするアラゴスタ。その背後でビルの瓦礫が吹き飛ばされた。
「ば、バカな。あの質量に耐えただと!?」
一万トン以上もの瓦礫が降り注ぐ中から生還したゴーギャンにアラゴスタは驚く。その直後にゴーギャンはガックリと膝をつき関節などの部位から火花が散った。流石に無傷では無かった事に内心安堵するアラゴスタ。
「流石に満身創痍の様だな宇宙警察。ならばこのままなぶり殺しにしてやろう。あの世で余暇を過ごすがいい!」
アラゴスタが天に向かってハサミを突き上げると、その周りに幾つもの光の輪が現れる。中からは顔に髑髏の面がついた全身黒ずくめの者達が現れる。
「戦闘員共よ、ゴーギャンを始末しろ!」
「ヤー!」
戦闘員と呼ばれた黒ずくめの者達は雄叫びらしきものを上げると、髑髏の面の目の奥に緑色の光を怪しげに灯しながら一斉にゴーギャンへと殺到する。それを見たゴーギャンは立ち上がって腰を落とし、腰だめに拳を構えた。
「フィストオン!」
『フェストオン。ウェポンスキルレディ』
ゴーギャンの言葉をスーツをサポートするAIが復唱する。ホッケーのグローブのようなものが拳に装着され、その拳に黄色がかったエネルギーが収束されていく。
「メテオインパクト!」
『マキシマムアタック』
AIの復唱と同時に、ゴーギャンの背中にあるスラスターが吠えた。構えていた拳を前へと突き出しながら前方へと瞬時に移動するゴーギャン。増大された質量によって殺到する戦闘員達を弾き飛ばし、後方で構えていたアラゴスタにその一撃を入れる。しかしアラゴスタにダメージはなく、ゴーギャンの一撃も受け止められていた。
「死に損ないがっ!」
「ガッ!」
ゴーギャンを蹴り飛ばすアラゴスタ。身を捻って地面との衝突をなんとか避けたものの、関節部から再び火花が飛び散り片膝をつくゴーギャン。彼のバイザーにはダメージリポートが次々と映し出されていた。
「トドメだ……」
ハサミを大きく振りかぶり、ゴーギャンの脳天に向けて振り下ろす。流石にゴーギャンといえどもこの一撃を喰らってはただでは済まない。そんな一撃を飛んできた何かが弾き飛ばした。
「何っ?!」
驚愕に染まるアラゴスタ。ハサミを弾いた何かは大きく弧を描き、陽の光で逆光となった黒いシルエットへと戻っていった。
「何奴だ!?」
ハサミで陽を遮って誰何するアラゴスタ。けれど黒いシルエットからの返答はなく、代わりに真下からAIの復唱音が聞こえた。
『コアブレードオンライン』
「しまった!」
黒いシルエットの何者かは自身の気を引く為にあえて応えなかったのだと悟り、アラゴスタはその場から大きく飛び退く。だが一瞬遅かった。
「グアッ!」
ゴーギャンが新たに繰り出した武器。光剣コアブレードによって自慢のハサミが半ばから斬られた。皮一枚繋がったハサミを見つめ、アラゴスタは怒りでその身を震わせる。
「おのれ……よくも。よくも私のハサミを!」
マグマの様に熱く燃えたぎる怒りをその身に宿し、怒りを力に変えてねじ伏せる為に突貫するアラゴスタ。それを好機とみたゴーギャンはコアブレードを構えて腰を低く落とした。
「星殻鎧・光翼展開!」
『全機能解放』
AIの音声と同時にゴーギャンの各部位から光が溢れ出す。背中のスラスターからは光の粒子が溢れて翼の形を成し、ゴーグル部分には目が輝き始めた。
「いくぞ! ゴーギャンスラッシュ!」
『限界突破・全力運転』
その瞬間、ゴーギャンは一筋の光となってアラゴスタを貫いた。二つに分たれたアラゴスタの背後に姿を現したゴーギャンは、各部位の冷却による水蒸気の中にその身を再び消した。
自身が最早主人の意を叶えられないと知ったアラゴスタは、上空に浮かぶ戦艦に手を差し伸ばす。
「申し訳……ありません……ブロズオマーダーさ……ま」
アラゴスタが事切れると同時に、空中戦艦はその姿を何処かに消した。
もうもうと立ち込める水蒸気の中でゴーギャンは立ち上がり、何処かに消えた戦艦が居た空を見上げる。
「ブロズオマーダー。必ずこの手で捕らえてやるぞ」
黒煙が立ち昇る空を見つめ、ゴーギャンはそう決意した。
こうして地球は一人の男によって救われたのだった。




