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叱責と体育祭

僕は校長室を後にしてナギサのいるところに向かう。


ナギサは訓練場から少し離れたところにいる。


「お兄ちゃん!」


ナギサが走って抱き付いてくる。ああ、可愛い。中年二人との会話で荒んだ心が癒されていく。


「こらこら、周りに誰もいないのに走っちゃ駄目だよ。」


僕はナギサを包み込むように優しく抱きしめる。そして軽く諫める。


「お、おにいちゃ、どう、なったの?ナギ、またお父さんとお母さんに迷惑かけちゃうの?」


ナギサは目尻に涙を浮かべ、僕の胸に顔をうずめて言う。


…『また』だって?


「お父さんとお母さんだけじゃない、お兄ちゃんにだって…」


「ナギサ、一旦、黙ろうか?」


僕は少し、ナギサと距離を取り、覚悟を決める。


ナギサを叱るのはいつも両親に任せているけど、ここには僕しかいない。今、ナギサを叱ることができるのは、僕しかいないのだ。


「え?」


僕の態度が急変したのが分かったのか、ナギサの顔が真っ青になり、今にも倒れそうになっている。嫌われたと思ったのかな?


…そんなわけないのに。


「誰が迷惑だなんて言ったんだい?少なくとも僕は言ってないし、思ってもいない。」


「で、でも…」


ナギサはまだ余計なことを言おうとする。


「あのねぇ、僕はナギサのおもらしの処理だってしたし、失明してずっと泣いていた時も三日三晩ずっと傍にいて、それでも君への想いは揺るがなかった。それが今更、この程度で迷惑だと思うわけないだろ?」


「え!?///ちょ、あ、わっ!」


ナギサは顔を真っ赤にして体勢を崩す。僕は体を煙にしてナギサの背後に回り込み、支える。そして、そのまま腕を回す。所謂、あすなろ抱きというものだ。


「あまり僕を舐めるなよ?君が何を言おうと、何を思おうと、僕は君を愛し続ける。」


「ッ!?///」


ナギサの体が一瞬震え、耳まで真っ赤に染まる。


ずっと愛しているのは伝わっていただろうけど、口にしたことはなかったからね。


「だから、ナギサ。遠慮するな。僕に頼ってくれ。僕はそれを迷惑とは思わない。」


「うん、分かった。…ありがとう、お兄ちゃん。」


ナギサは僕に微笑みかける。…おおう、天使がいるよ。今、ここに。


「うん。どういたしまして。」


「あ、でも…お兄ちゃんも、ナギに頼ってね?迷惑じゃないから!」


ナギサはしてやったりという様な顔で笑う。…おおう、小悪魔さんが、今、ここに。


「ああ、そうだ。修繕費は払わなくていいけど、お詫びとして学校の掃除をしようと思ってね。丁度いいし、ナギサにも手伝ってもらうよ?」


「やった!ナギはゴミの一つも残さないよ!」


ナギサは胸の前で拳を作り、意気込む。


「とりあえず、皆の所に戻ろうか。」


「うん!」


僕はナギサをエスコートして、訓練場に向かった。











「おう、おかえり。」


「ん。遅い。」


「さ、寒い寒いさむいよ~。あきらぁ、もっとぎゅってしてぇ。」


アキラとカエデが僕たちに言い、ナツメはアキラに抱き着いている。


…なるほど、カエデに凍らされたか。


おや?ナギサが顔を赤くしてアキラたちと僕を交互に見て、俯く。


さっきの事を思い出したのかな?僕も冷静じゃなかったし、つい本音を言ってしまった。


…まあ、愛してるって言っても、ナギサは『兄として』と、捉えてくれると思う。たぶん。


「お~、すまんすまん、遅くなった。でも、何の問題もなかったよ。」


僕はそれを顔に出さないようよう努める。


その後も模擬戦は行われた。


ヤスヒロ君はヤマト達だけではなく、他のクラスの人からもサンドバッグにされていた。


哀れだねぇ、ずっと屋上に居ればこうなる事は無かったのにね。




実技の授業が終わり、アイコが教室に入ってくる。HRだ。


「はい!皆さん、実技の授業、お疲れさまでした。実技の授業はほとんど模擬戦ですが、もうすぐ体育祭がありますので、その競技の練習も多くなります。そして、この大会で好成績を取ると、政府やギルドからの勧誘を受けることがよくあります!探索者を目指す生徒は皆、この体育祭に力を入れるのです。皆さんも、頑張ってください!先生は応援していますから!」


「マジか!俺、『黒猫』に入れるかな?」


「いや、お前じゃ無理だって。」


「私は安定の政府所属がいいな~」


ギルドは世界中にあり、『黒猫』は複数の主要国を股にかける、最大規模の民間ギルドだ。そして、政府には、ダンジョン氾濫時の国の防衛や異能を使う犯罪者に対応する、『異能対策課』がある。その構成員には汎用性の高い異能が求められるが、安定した収入を得られるので人気が高い。


「お兄ちゃんはどこかに所属したい所とかあるの?」


ナギサが聞いてくる。…ああ、お兄ちゃんなぁ、もう所属してるんだよ。それも『黒猫』に。


「いや、特に無いけど…ナギサは?」


「ナギは、やっぱり政府の異能対策課かなぁ。索敵も攻撃もできるし、収入も安定してるから。」


「じゃあ、お兄ちゃんもそうしようかな。」


すまんギルマス。妹がこう言ったんだ。『黒猫』は頼んだよ。


僕は心の中でギルマスに詫びる。

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