体育祭開催
時は深夜。体育祭の前日。
探索者ギルド『黒猫』の応接間で二人の男がソファーに向かい合うように座っていた。
「ふざけるなああああああああ!」
ギルマスが机を叩き、前のめりになって叫ぶ。
「ふざけてないよ?妹のため、僕は真剣だ。」
「何、だと…お前がいなくなれば、どれほどの損害が出ると思う!」
ギルマスは再び叫ぶ。
「と、言われてもね。妹が『黒猫』より異能対策課を選んだんだ。『黒猫』の魅力が無かったんじゃない?」
「本気、なのか…いや、待てよ?お前の妹が『黒猫』を選べば、お前はここに残るんだな?」
ギルマスはそう言った。
「ん?まあ、そうだけど、立場はわきまえなよ?間違っても、脅しなんてしたら…」
「分かってる分かってるよ。そんな気は無いから、その物騒な殺気を止めてくれ。」
僕は一度落ち着く。
「そうか。なら、良い。まあ、ギルマスの事は信頼してるんだ。僕も、『黒猫』に居れる事を願うよ。」
「ああ、私もだ。」
僕はソファーから立ち上がり、その部屋から出て行く。そして世界中の煙を集め、自宅のベッドに戻り、そのまま寝た。
一人取り残されたギルマスは、彼の秘書とナギサを雇うためにどこまでの報酬を捻出できるか徹夜で相談していた。
翌日、体育祭開催。
「わあ~、凄い人。風を上手く感じれないよ。」
僕の腕に掴まっているナギサは、楽しそうにしている。
「ああ、そうだな…おっ、次は『スピードシューター』だ。行くぞ?どっちが多く的を打ち落とせるか、勝負だ。」
「えへへ、お兄ちゃんには負けないよ?」
ナギサはやる気満々だ。
「ははは。お兄ちゃんの本気を見せてやる。」
ナギサには負けない。お兄ちゃんとして!
僕達選手は一人ずつ会場に入り、時間以内に高速移動するドローンを撃ち落とす。一番多くのドローンを撃ち落とした者が勝者だ。
僕はっと…一番手かよ。僕は会場に入る。
『それでは、始まりますよ~?…レッツ、スピードシューター!』
放送の声が聞こえた瞬間、僕の周りの地面や壁からドローンが飛び出してくる。
…速いな。時速二百キロは出てるんじゃないか?僕には関係ないけどね。
『さあさあ、始まりました!毎年恒例の、一年殺しであるこの競技が!ドローンを撃ち落とすという、異能を使えば簡単だと思って出場した選手たちに、苦い記憶を植え付けます!私も去年やられました!経験談として、まず、ほとんど見ることすらできませんでした!』
誰だこんな事考えた奴。性格悪すぎるだろ。
僕は薄く広げていた煙でドローンの位置を感知し、その全てを撃墜した。全部で二十機。
「…次は?」
僕は尋ねる。
『え!?…げ、撃墜!二十機の全てが墜とされました!い、一体何をしたんだ~!?…え?えっと、資料によりますと、コウキ選手の異能は煙!?あのSランク探索者『死煙』と同じ異能力者のようです!』
「いや、そうじゃなくて、次のドローンはいつ来るの?」
僕はせっかちなんだ。ナギサの為ならいくらでも待てるけど。
「あ、あの~、すみません。選手一人につき、二十機しか用意していなんですよ。」
僕が会場に入ってきた入り口から技術者の様な男が出てきた。
「そうか。無いのか…勝負にならないじゃないか。」
僕は会場の出口に向かう。肩透かしを食らったので、速度は少し遅めだ。
…ハア。
『で、では!気を取り直して、次の選手の入場です!…えっと、どうやら、次の選手は目が見えないそうですが、高位の風の異能を持つ選手のようです。では!ナギサ選手の入場です!』
ナギサが歩いている。ゆっくりとだが、一人で。確実に。
だ、大丈夫だ。落ち着け、こけるなよ。みぎ~、ひだり~、みぎ~、…
ナギサが会場の中心で立ち止まる。やった!こけることなく、無事に着いた!
だが、僕はまだ気を抜かない。
『位置に着きましたね?では!…レッツスピードシューター!』
先程と同じようにナギサの周囲の床や壁からドローンが出てきた。
…細切れになり、変わり果てた姿となって。
『て、あれ?ドローン…事故?え?いや、げきつい?したんでしょうか?』
「しましたよ~。ぶい!って、きゃ!」
ナギサが可愛くピースをした瞬間、ナギサはドローンの破片に足を取られ、後ろに倒れ込む…
その前に僕は今の体を全て煙に変え、ナギサに纏わせてある、探知できない煙から体を再構成し、意識をそれに移し替えた。
そしてナギサの体を支える。
『あ、危な~い!…って、あれ?』
「はあ、いつもこうだから僕は心配で気が気じゃなかったよ。」
僕は愚痴る。
「う、ごめんなさい。お兄ちゃん。」
『こ、コウキ選手!?どこから入ってきたんですか?えっ、というより、兄妹!?…あっ、言われてみれば少し似ている気がします。あ、いや、そうじゃなくて…』
解説の人が混乱している。
会場の入り口から拍手が聞こえる。
「素晴らしい!あの速度のドローンを容易く撃墜してしまうとは。その反応速度、異能の練度、どれをとっても素晴らしい。ぜひ、この国の為に、異能対策課に来てその力を振るってくれないだろうか。コウキ選手、ナギサ選手?」
一人の青年が僕たちに話しかける。…どうやら勧誘のようだ。
「それは少し待ってもらおうか?その二人には我が『黒猫』に所属して貰いたい。」
あ、ギルマスだ。…本人が来ちゃったよ。




