この気持ちの正体は…
ずっと夢を見ていたような気がした。僕なのに、勝手に動いて、話しているような…
でも、そこで冷水を頭から浴びせられたような出来事が起こった。ナギサが倒れたのだ。
そこで『僕』は自分に戻った。僕はナギサをベッドまで運び、母さんを呼んだ。
母さんが言うには、生理らしい。母さんは遠回しに伝えてくれた。隣に居たかったが、僕は何の役にも立てない。僕は、後ろ髪の引かれる思いで登校した。
…静かだ。何もすることが無い。いつもはナギサと話したり遊んだりしているからだろうか。
「ん、おはよ。ナギサは?」
カエデが僕の隣の席から聞いてくる。
…まただ。何だろう、表彰式でカエデの笑顔を見てから、カエデの顔を見るたびに不思議な、でもどこか懐かしいような気持ちになる。
「おはよう、ナギサは体調不良だ。今は母さんが看病してる。」
「ん。珍しい。妹離れ?」
カエデが聞いてくる。心なしか、少し嬉しそうだ。
「いや、男の僕には分かりようが無いからな。」
「あ、なるほど。大体わかった。」
分かったようだ。
「やっぱり辛いのか?」
僕は聞いてみる。
「ッ!///うぅ、エッチ。」
カエデが顔を真っ赤にして俯いてしまう。
僕はその表情に見惚れてしまう。…やっぱり、そうか。
「え、あっ、すまん!悪気はないんだ。じゃなくて、その…」
「ん。聞いちゃダメ。絶対。」
「ああ、分かったよ。」
この気持ちは…
僕はこの感情を知っている。
かつてナギサに対して抱いていた感情。今はもう、彼女に向けられない感情。ずっと守ってやりたい、そう思ってしまう。何の打算も無い、純粋な好意。
ナギサには申し訳ないと思ってしまう。でも、もうどうしようもないんだ。
この気持ちは、一度抱いてしまえば自分ではどうすることもできないのだ。何より、無くす訳にはいかないと、自分自身が思ってしまうから。
…認めよう。認めるしかない。この気持ちは、『愛』なのだ。
かつて妹に抱いていた、その感情。
だが今や、それは打算や情欲で汚れ切ってしまった。
妹にそのような感情を向けてしまうとは、自分で自分が嫌になる。
しかし、あの時、カエデが笑ったのを見て、初心に帰ることができた。思い出すことができたのだ。掛け値無しの純粋な好意を抱くことは、これほどまでに心地良かったのだと。
僕は決心する。
僕はカエデを愛し続ける。
…妹として。
本当の妹であるナギサには弁明のしようがない。中学二年生の頃からだ。ナギサを妹として見れなかった。異性として意識した瞬間、自分でも発狂したのかと思ってしまう程、ナギサに情欲した。
今まで、自分に言い聞かせるように自分の事を『お兄ちゃん』なんて言っていたが、本当は恐ろしかったのだ。ナギサは僕に、そういう感情を向けていなかったはずだ。それなのに、僕のこの醜い感情を見せてしまえば、彼女を傷つけてしまう。それが何よりも恐ろしい。
だが、血の繋がっていないカエデを妹として扱うのだ。本当の妹であるナギサを蔑ろにする訳にはいかない。
伝えよう。この気持ちを。かつて母さんが言った言葉を思い出す。
『悩むくらいなら、行動しなさい。何もせずに後悔するのは、愚か者がすることよ。』
そこには、いつものおっとりとした母さんの姿は無く、あるのは、厳格な態度を取った、一人の『女』の姿だった。
そうだ。『後悔するのは行動した後。』
…こうしちゃいられない。今すぐ帰ろう。まだ一限目すら始まっていないけど。
席を立ち、早退をしようとしたその時、煙を纏わせて収納してある『黒猫』用のスマホに着信が来た。僕は体内でスマホを操作し、その内容を見た。
『エリクサーが発見された。時間が空いているなら今すぐ来い。』
ギルマスからだ。って、マジか!
「カエデ!悪い!早退する!先生に伝えてくれ!」
僕はそう言い残し、体を煙にして、服や荷物を収納。そして、ギルマスの傍に体を再構成し、意識をそれに移した。
「ギルマス!エリクサーはどこにある!」
「うおっ!っと、ここだ。一旦落ち着いてから読め。」
ギルマスは書類を渡してくる。
…それによると、アメリカのニューヨークで発生したSランクダンジョンで見つかったらしい。
だが、発見した探索者は、それを売るか保持するか迷っているらしい。
マジか。国家予算並みの報酬の依頼で即決しないとは…
「ギルマス。」
「もうすでに、お前の端末にその探索者達が泊まっている宿の住所を送ってある。」
「ありがとな。謝礼は弾むぜ♪」
僕はその宿の前に体を再構成し、『死煙』のコートを着て、宿に入る。




