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Chapter.81

「おまたせ」

「全然。なんだ、外しちゃったんだ」

 と、津嶋くんが頭を指さした。

猫耳(あれ)付けたままはちょっと……」

「そっか。まぁ猫耳なくてもかわいいけど……メイクと髪は文化祭仕様?」

「え、あ、ありがとう……。今日は初音ちゃんが顔も髪もキレイにしてくれたの」

「あぁ、立川のカノジョ」

「そうそう」

「そういやいつも身ぎれいにしてるもんな」

 津嶋くんは歩きながら通りすがる教室を眺めている。

「なんか食いたいもんある?」

「えー、なんだろ。津嶋くんのクラスは飲食系?」

「そう。【粉もん屋】っつって、たこ焼きとお好み焼き……もどきを出してる」

「もどき?」

「素人の高校生が作るもんだから、それなりの具材とそれなりの技術の結晶、で“もどき”」

「なにそれ」

 言い回しがおかしくて、つい笑ってしまう。そんな私を見て、津嶋くんは安心したように表情を緩めた。

「悩み、解決したんだ?」

「え……」

「ちょっと前まで、なんかしんどそうだったから」

「……やっぱり、わかってくれてたんだ」

「じゃなきゃ、待ち伏せなんかしない」

 言われて、由上さんを思い出す。初めて学校をサボったあの日、駅のホームで待ち伏せしてくれていたことを。

「……うん。おかげ様で、なんとか解決した、かな?」

「なんかあれば相談乗るよ」

「ありがとう。でももう、多分、大丈夫」

「……そう」

 少しだけ寂しそうに見えた……けどすぐ笑顔になって、こちらを見た。心配かけてたんだって、心底申し訳なく思う。でも、同じくらい心底ありがたい。

「もしまた、なにかあったら声かけるかも」

「うん。そうして」

 二人で話ながら歩いていたら「あ。そこだよ」津嶋くんが廊下の先を指した。

「あれ? 二人そろってどうしたの? 津嶋さっき休憩入ったばっかじゃん」

 首をかしげたのは立川くんだ。肩から【粉もん屋】と書かれた看板を提げ、廊下で呼び込みをしている。

「客、二人」

「お、マジで? どうぞどうぞ」

 立川くんは教室内に案内してくれる。お昼どきを過ぎているからか、教室内の着席率は五割くらい。

「うちもそっちみたいに付加価値つければ良かったよ~。昼のピーク過ぎたら落ち着いちゃった」

「情報早いね。初音ちゃんから聞いたの?」

「いや、そっちのクラスから流れてきた人が話してるの、いやでも聞こえるから」

「あー、なるほど……」

「ってか、どうせだったら津嶋が作れば? まかないも兼ねてさ」

「ん、いいの?」

「いいよ。このまま食材余らせてもなんだし」

「じゃあ、そうしようかな。何がいい?」津嶋くんは長袖のシャツの腕をまくりながら、鉄板へ近づく。

「え~、どうしようかな」

 お財布の中身を思い出しつつメニューを見て悩んでいたら

「なんでもいいよ~。どうせ津嶋のおごりでしょ?」

 立川くんが横から言う。

「えっ、悪いよ、払うよ」

「いーよいーよ」

 答えたのは立川くんだ。

「ねっ」

 短く言って、笑顔で津嶋くんの肩を叩く。

「あぁ、別にかまわないよ。お好み焼きにトッピング全部乗せとかでもいいし」

「そ、そんなには食べられない」

 プルプル首を振ったら、津嶋くんと立川くんが同時に笑った。でもそれは【陰】と【陽】なんて対極の言葉で表現できそうなくらい、違った面持ち。性格の違いが出ていておもしろい。

「天椙やってみる? 業務用の鉄板なんて、なかなか使えないよ」

 津嶋くんがエプロンを着けながらニヤリと笑った。

「えっ、いいの? 衛生面とか」

「あー、いいのいいの。手とか消毒したり色々やってはいるけど、お店みたいにはいかないよ」立川くんがヘラッと笑って手を横に振る。

「えっ、だ、だったら、たこ焼きのほう、やってみたい……!」

「ん」

 津嶋くんは短く答えて、私の分のスペースを空けてくれた。

 髪をくくったり手を消毒したり、準備してから取り掛かる。津嶋くんは本人が言うより慣れた手つきで、焼き方を教えてくれる。

 生地を注ぎ入れて具材を入れて、焼けたら一個ずつ回転させて……その作業が想像以上に楽しくて、料理に対する苦手意識がなくなっていった。

 台の片隅に積み重なった舟皿に焼きあがったたこ焼きを乗せたら、津嶋くんがソースと鰹節を乗せてくれた。

「すごい、お店のみたい」

「うん、うまくできたな。あとトッピングは?」

「うーん、青のりはなしで」

「うん。言われなかったら乗せないようにしてる」

「すごい、ホスピタリティだ」

「そんな大したことじゃないだろ」

「えー、大事だよ」

 なんて言いあいながら、二人分のたこ焼きを持って席に着いた。

 焼きたてアツアツのたこ焼きをハフハフしながら食べる。自分で作ったからか格別に美味しくて、幸せな気分になれた。

「うん、うまい」

 向かいに座る津嶋くんもなんだか嬉しそうで、やっと文化祭を楽しんでるって感覚になる。

「お二人さん、記念撮影はいかが?」

 たこ焼きを食べ終わった私たちに声をかけてくれたのは、去年応援団で一緒だった桐生くんだ。手にはスマホを持っている。

「天椙がいいなら」

「え、うん。全然いいけど……」

「そっちのクラスの撮影会が盛り上がってるって聞いたから、うちも真似したの」

「スマホでプリントアウトできるの?」

「ううん? この場でエアドロップで送ってる。そっちみたいにチュキ準備できなかったからさ」

「なるほど。頭いいね」

「とはいえ、そっちみたいに人気あるやつがいるわけじゃないから、ただの記念撮影なだけなんだよね~」

 桐生くんが言いながら、スマホをこちらに向けた。

「撮るよ~」

 カシャリ。

「お、いい感じ~。二人ともスマホ出して~」

「おう」

「うん、あ。持ってくるの忘れちゃった」

「教室?」

「うん、バッグの中」

「じゃあおれがもらうから、あとでおれからメッセするよ」

「ありがとう。お願いします」

「じゃあ、食ったし行くか」

「うん。桐生くんも立川くんもありがとう」

「いえいえ~」

「午後も頑張ろうな~」

「うん」

 席を立って津嶋くんと一緒に教室を出た。

「ありがとう。美味しかったし楽しかった」

「うん、おれも」

「そろそろ戻らないとかも……」

「そうだな。おれも休憩そろそろ終わりだわ」

 人が行きかう廊下の片隅で、少し立ち話をする。いつもと違って浮かれた空気が流れる校舎内は、どこにいても楽しい気分になれる。

「由上とはまわんないの?」

「うーん……そもそも休憩とれるかすら怪しそう……」

「あぁ……」

 津嶋くんはさっきの教室内の光景を思い出すように視線を動かした。

「相変わらず、なの?」

「ん?」

「由上と」

「あ……えっと……」

 多分、津嶋くんが考えている関係性より、いまの私たちは少しだけ前に進んでいて……でもそれをどう表現していいか、どう伝えたらいいのかわからない。

 由上さんは文化祭が終わるまで、って言ってたけど、終わったあと、いつまでなのかをハッキリ聞いていない。そもそも私が想像しているような展開になるのかもわからないし……。

 黙って考え込む私を見て、津嶋くんはなにか察知したようで、少し寂しそうに口の端をあげた。

「ほんと、わかりやすいな」

「……さっき、“鈍い”って言ってたのに……」

「恋愛に関しては鈍いけど、自分の思ってることは全部顔に出てわかりやすい、ってこと」

「……なるほど」

 思わず納得するしかない説明に、いぶかしい顔でうなずく。

「本人より周りが気づいてヤキモキするんだよな、天椙みたいな人は」

「あー……」

「お、心当たりあるんだ」

「う、ん……そうかな? っていうのが」

「ふぅん。進歩してんだね」

「だってもう、半年後には三年生だし」

「そうだな、受験だ」

「うん。頑張らないと」

「その前に体育祭だろ」

「だねー」

 そろそろ、とか言っておきながら、思い出話に花が咲いて、本当に休憩時間を超過しそうになってしまう。

「じゃあ、また」

「うん、また」

 津嶋くんが持ち場に戻る時間になって、手を振りあってそれぞれの教室に戻った。

 自分の教室の前に行くと待機列はもうなくなっていて、ドアの前に【休憩中のフロアスタッフ】って張り紙がされていた。その中に由上さんの名前がある。

 良かった、休憩入れたんだ……。

 ホッと息を吐いて、私はまた猫耳を付けて呼び込み係に戻った。

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