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Chapter.79

「待ちに待った文化祭初日! うちのクラスには稼ぎ頭がいるから、取りこぼしなくジャンジャン利益あげていきましょー!」

「「「おー!」」」

 学級委員長、羽柴くんの呼びかけに、クラス全員でこぶしを挙げた。

 ただ“稼ぎ頭”の由上さんは、少々複雑そう。頬杖をつきながら右手を力なくあげている。その頭にはウサギ耳がついたカチューシャ。細い金縁の眼鏡をかけて、制服をキッチリ着こなしている。

 金縁の眼鏡はクラスの女子が私物を持参して、由上さんに貸したそう。どうやら『不思議の国のアリス』に出てくるウサギをイメージしているらしい。

 うん、やっぱりとっても似合ってる……と思う。

 ハッキリ言えないのは、私の視界がハッキリしていなくて由上さんの姿はぼんやりしていて良く見えていない。というのも……



 朝、フロア班とキッチン班に分かれてそれぞれ開店の準備を始める。

 自分の席でモソモソとカチューシャを付けていたら、

「ミイナちゃん、メイクしよ~」

 初音ちゃんがメイク道具を片手にいそいそと近付いてきた。

「えっ、いいよ」

「良くないよ~。絶対可愛くするから! ねっ」

 そう言って、笑顔のチカラで私をうなずかせた。

「メガネ外してもらっていいかな」

「あ、はい」

 外した眼鏡を机の上に置き、初音ちゃんの「はい、目ぇ閉じて~、開けて~、上のほう見て~」なんていう眼科健診のような指示に従いつつ、じっと座る。

 顔の上を色々なブラシが走っていく感覚がわかる。でも、自分の顔がどうなっているのかはわからない。

 メイクとは別にヘアメイクまでしてもらってしまって、ありがたいことこの上ない。

「はい、猫耳つけて~……よし! めっちゃ可愛い!」

 初音ちゃんの声と共に、周囲で見ていたらしい男子から「お~」という声がもれる。しかも複数人の声が混ざっているように聞こえて、伏せていた視線をあげたら、5~6人の男子が私たちを取り囲んでいた。

「わ」

「いや、やっぱ女子はすげーな」

「普段からそういうメイクで来ればいいのに」

「前の私服も良かったけど、制服でメイクばっちりってのも新鮮だね」

 なんて言われて、なんて返していいかわからなくて

「あ、ありがとうございます」

 もにょもにょお礼を言うしかできなかった。

「こっちなんか盛りあがってんね、なにやって……」

 言いながらやってきた由上さんが私を見て止まった。その姿を見て、周囲の男子がニヤニヤしだす。

「どうよ、蒼和ちゃん。私の力作」

 ニヤリと笑った初音ちゃんの質問に、

「うん……かわいい……」

 口をぽかんと開けて由上さんがつぶやく。ストレートすぎる褒め言葉がさすがに恥ずかしい。

「ぁ、あ、ありがと、ございます……」

 だいぶ慣れたと思っていたけど、出てきた言葉はかみまくりで動揺が見てとれる。うぅ、いつまで経っても成長できてない……。

「わー、アオハルだねえ」

「なに“ソワさま”ったら、急に大胆になっちゃって」

 ニヤニヤを続けながら言う男子たちの横で、初音ちゃんも興味深そうな顔でうなずいてる。

 由上さんもウサギ耳似合っててとてもかわいいしかっこいい……いつの間にかかけている金縁メガネもとてもステキ。でもさすがにみんなの前で褒め称えるの気恥ずかしいなってちゅうちょしてたら、

「そうだ」

 初音ちゃんがパチンと手を合わせた。

「ミイナちゃんには眼鏡外してやってほしいんだ~」

「えっ、メニューの文字とかほぼなにも見えなくなるから、接客できなくなるけど……」

 メイク道具を片付ける初音ちゃんの提案に抵抗してみるけど、

「いーのいーの。ドア付近で呼び込みやってくれてればそれで」

「あー、それは客呼べそう」

「むしろメガネありでも需要ありそうだけど」

「メガネ姿もミリョク的だけど〜、人の顔はっきり見えた状態でいつもみたいにニコニコできる? 絶対みんな、『わー、このコかわいいな~』って、いまの蒼和ちゃんみたいな顔になるよ」

「う……」本当にそうなるかわからないけど、いまのみんなみたいな反応されたら確かに戸惑って接客どころじゃないかも……。だったら……「裸眼で、やります……」うなだれるようにうなずいた。

「よーし、きーまりっ」

 私と同じ猫耳を付けた初音ちゃんがピョコンと飛んだ。今日はおろしている髪の先が跳ねて、とてもかわいらしかった。



 ……というわけで、私はいま、裸眼で過ごしている。少しでも視界を慣れさせておかないと、人や物との距離感がつかめないから。

 お風呂上りとかは裸眼だし、メガネがないとなにも見えないってわけじゃないけど、遠くの人の顔は識別できない程度にはぼやけているから、もし知ってる人が来ても気づけなさそう。

 気づいたら恥ずかしくなるから、初音ちゃんの言う通り裸眼のほうが都合いいかもな、なんて思い始めた。

「でっ」委員長は傍らに立っている文化祭実行委員会の間野さんに目配せした。「これ、許可取っただけで言ってなかったんだけど、うちのクラスは飲食物の提供以外に、もうひとつサービスをプラスしま一す」

 突然の宣言にクラス内がざわめく。

「それは~、これでーす」

 間野さんが後ろ手に隠していたものをみんなに見せた。それは小型のインスタントカメラ『チュキ』だった。

「アイドルの人とかが『チュキ撮影会』ってやってるでしょ? うちでも指名料もらって、指名を受けた人と指名した人でチュキ撮影をしまーす」

「えぇ~!」

 肯定と否定の色が混ざる。

「お察しの通り、フロア係は全員指名対象者でーす。なので、多分女子は由上くんに集中すると思うから、みなさんフォローよろしくね」

 ニコリと笑う間野さんの頭の上にも猫耳が乗っている。フロア係の女子は猫、男子はウサギで統一しよう、ということになったのだ。

「あとはこれね」羽柴くんが教壇のしたから箱を取り出した。教壇に置くと中身がカチャカチャ鳴る。「誰とでもいいから記念撮影したいって人には、ガチャ形式で誰かを指名してもらいます。カプセルの中には、クラス全員の名前が書かれた紙が入ってます」

 その説明に、教室内がざわめいた。

「だから私は大丈夫だろうって思ってる人がいても、指名を受ける可能性があるからよろしくね。まぁ、どーーーーーしてもイヤって人がいたら、前もって相談してください」

 羽柴くんと間野さんは息ぴったりに流暢な説明を終わらせた。

 なんとなく気になって由上さんのほうを振り向いたら、案の定面倒くさそうな顔をしていた。私の視線に気づいて、肩をすくめ息を吐く。

 うーん、これは大変そう……。

「なにか質問ありますか~」

「はーい」

「はい、久慈くん」

「料金はいくらですか~」

「撮影権は500円。指名料300円、ガチャは100円で、チュキ撮影権は特定のフードに付いてきます。なんで、撮影権付きフードが良く出ると思う。キッチン班はその辺も含めて頑張ってください」

 説明の中、チャイムが鳴った。いつもなら授業開始前の予鈴だけど、今日は模擬店の開始時間五分前を報せる役割を担ってる。

「お、そろそろ開始だね。じゃあみんな、ケガや体調不良などないように、もしなっちゃったら無理せず申告すること。待ちに待った文化祭初日! うちのクラスには稼ぎ頭がいるから、取りこぼしなくジャンジャン利益あげていきましょー!」

「「「おー!」」」

 こうして、“待ちに待った文化祭初日”が幕を開けた。

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