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Chapter.75

 ホームのベンチに座っていた。

 着席したときには少なかった乗客が、時間経過とともに徐々に増えていく。

 同じ方向で仲の良い学校の人は津嶋くんしかいないから、彼に見つからなければ私はずっと、ここに座っていられる。

 ……もしかしたら、津嶋くんが声をかけてくれて、一緒に学校に行こうと言ってくれるのを待っていたのかもしれない。けれどそんな都合のいいことは私の脳内でしか起きなくて、私はただ、来ては過ぎ去る電車と、同じ方向に歩いていく乗客の流れを眺めていた。

 増えた人並みがまた徐々に減っていく。通勤や通学の時間のピークが過ぎたから。そろそろ遅刻の時間になってしまうけど、学校へ行く気にならなくて、でもずっとここにいるわけにもいかないから、とゆっくり立ち上がる。

 そしてそのまま、やってきた電車に乗って、学校から遠ざかった。


* * *


 私服で来れば良かったな……。

 乗客が少ない車内で、制服が目立っているような気がする。誰も気にするような人、いないとは思うけど……。

 結局、学校をさぼってしまって、その罪悪感とともに自分の服装まで気になってしまう。補導とかされたらイヤだな……とも思う。

 少し肌寒いけど、制服感が強いジャケットを脱いで、リボンを外した。これならただの白シャツにチェックのスカートだし、少しはマシなんじゃないかな。

 リボンとジャケットをバッグに入れて顔をあげたら、窓の外に海が見えた。

 わ……。

 初めてこっちのほう来たけど、こんな感じなんだ。

 ドアの上の電光掲示板で駅名を見たら、初音ちゃんや立川くんの地元駅を過ぎていた。由上さんもこちらの方向で、そういえば、聞いたことがあるはずの地元駅がどこだったか思い出せない。

 こうやって忘れていくんだって、なんとなく寂しくなって、席を立った。

 停車した駅で降りて、ホームに掲示された表示板を頼りに改札へ向かう。降車客は私のほかに三人。一人は髪の長い女性、あとの二人は男性で、フードを被ってる人とキャップを被ってる人。当たり前だけど、ピンクの髪の人はいない。

 みんな一つしかない改札口に進んでいく。私もそれに倣って改札を出たけど、いまいる場所がどこだかよくわからなくて、スマホの地図アプリで自分の現在地を確かめ、画面上に表示された海を目的地に設定して、ナビを頼りに歩き始めた。

 いまごろ学校では授業が始まっているだろうか。初音ちゃんにメッセして、体調悪いから休むって伝えたから、学校から家に連絡が行くこともないとは思うけど……。素直に休んで家にいれば良かったかなぁ。

 なんて思うけど、見知らぬ土地での散歩は案外楽しくて、地図上では遠く感じた海までの道のりもあっという間だった。

 わー、海だー。キレイー。

 少ししっとりした風を受けながら、舗装された道を歩く。ローファーで砂地を歩くと中に砂が入って大変そうだから、と遠巻きに海を見る。

 もう水は冷たいだろうにサーフィンとか、サーフボードに帆がついたものに乗って海上を走る人がチラホラ見える。

 あれ、なんていう名前だっけ……。

 スマホの地図アプリを閉じて、ブラウザを立ち上げた。

【サーフボード 帆】と入力して検索したら、画像と共に名称が出てきた。

「ウィンドサーフィン……」

 聞いたことあるような、ないような……。

 遠くに見えるそれらを眺めていたら、肩を叩かれて声をかけられた。

「おじょーさん」

「っ……! はい……」

 やばい、補導?

 身体をすくめて、声をかけてきた男性のほうを向く。茶髪でラフな格好してるけど、人は見た目じゃないっていうし……。

「ひとり? 学生? 今日お休み?」

 矢継ぎ早な質問に答えられずあたふたしていたら、近くからもう一人、同じような見た目の男性があらわれた。

「急に声かけるからビビってんじゃん」半笑いで言うその男性は、私を見て二コツと笑う。「ごめんね? 急に。よかったら一緒に遊ばない?」

 そう言われて、とっさに浮かんだ不安要素とは目的が違うと気づいた。

 これって……ナンパ……?

 経験がなくて気づくのが遅れた。

 大丈夫です、と断ろうとしたけど、すでに二人の男性に囲まれて、逃げ場がなくなっていた。

「海見てたじゃん? あーいうの、興味あったりする?」

「この辺、海上スポーツ盛んでさ、レンタルショップとかあんだわ。おごるから行かない?」

「あ、いえ、そういうの……だいじょぶです……」

「ん? 良く聞こえないよ~」

 最初に声をかけてきたほうの男性が顔を近づけてきた。

「やってみたらぜってー楽しいって。行こーよ」

 あとから声をかけてきた男性が私の手を掴む。

 えっ、やだ、どうしよう。ダッシュで逃げる……いや、きっと足の速さじゃ敵わないし……だ、誰か……!

 このままどこかに連れ去られそうで、こわくて目をつむる。

 目を開けたら誰か、助けに来ていてほしいって願いながら。

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