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Chapter.52

 □こっそり撮った写真を持ってる


 その一行に指を当てたまま、かれこれ数分悩んでいる。

 果たしてこの四角を黒く塗りつぶして、完了という状態にして良いのだろうか。


 日記を読み返して、やっぱりあの写真はあのときのだったんだって確信した。私がフルーツサンドを買えたのは、あとにも先にもあの一回だけだ。

 そのとき私は由上さんの写真をこっそり撮ったけど、由上さんが同じようにしたとは思えない。

 だってあのときはいまほどお喋りしたりしてなくて、お出かけしたりとか、待ち合わせしたりとかも……とにかくいまほど親しい間柄じゃなくて……。

 ……わからない……。

 結局、チェックリストは未完了のまま、ルーズリーフを閉じた。

 小さな写真だし、私もあんまり見えてなかったし……でもきっとあれは私とフルーツサンドの写真で、じゃなきゃ由上さんもあんな態度にはならなかったんじゃないかな。

 っていうか、もし違う写真にあんな謝罪してたら私すごく恥ずかしい人じゃん。

 由上さんもそれについては否定してなかったし、きっとあの写真には私が映ってたんだと思う。

 結局あのあと、由上さんはご家族から電話がかかってきて、家の用事ができたからとすぐに帰ってしまった。

 私は猫ちゃんを堪能してから図書室に向かったけど、写真や会話の意味を考えてしまってあまり勉強にならなかった。

 うーん、考えても仕方ない。わからないものはわからない!

 そうやって考えを切り替えようとしたけど、やっぱり頭の片隅でずっと気にしてしまうのだった。


* * *


 確認も確信もできないまま日付が変わる。今日は土曜日。

 土日祝は学校開放はお休みで、図書室へ行くことができない。夏休みも残り一か月を切って、さらに家族旅行の予定があるからあまり日程に余裕がなくなってしまった。

 夏休み中、あと何回会えるかな。

 机に置かれたカレンダーを見ながら思う。

 この先卒業して由上さんと会うことができなくなったら、私耐えられるかな……。

 それまでにたくさん思い出つくっておけば大丈夫かな。

 図書室で借りてきた本を読みながら悶々と思い悩んでいても時間はいつもと同じように進む。体感、いつもより遅く感じる。

 連絡来てないかなって、鳴ってもいないスマホを見てしまう。

 どうしよう、なにか送ってみようかなってメッセを開いて、やっぱり無理だと閉じてしまう。

 なにをしていても落ち着かなくて、でもそれがどうしてなのかわからない。集中力もないから勉強もはかどらない。

 意識してないのに由上さんのことばかり思い出す。

 あぁ、もう。どうしたらいいの。

 いつか大人になったら、この気持ちがなんだったのかわかるのかな。“思春期”なんて言葉でくくりたくないけど、いつかそうだったって思うのかな。

 でもそれは“いつか”のことで、私が知りたいのは“いま”なんだよなぁ……。

 もし私が由上さんのことを、す、すき、だったとして、だったらどうするの? 好きって思ったら、気づいたら……きっと私、いままでみたいに由上さんと交流できなくなる。いままでみたいにお話したり、ごはん食べたり、おでかけしたり……そういうのできなくなっちゃう。

 そしたらまた……一年のころみたいに、遠くで眺めてるだけになって……一年のころはそれで満足だったけど、いまは……。

 目に入ったのはルーズリーフ。

 この一年とちょっとで、いろんな思い出が増えた。そのどれもに由上さんが関係している。由上さんとの思い出が、私の人生を明るくしてくれてる。

 私も由上さんみたいに、誰かの人生を明るく照らせる人になりたい。だからいまは勉強頑張って、出版社に入れるようにならなくちゃ。

 まずは大学選びから。夏休みが終わったら先生に進路相談して、そこからどうやって勉強するかとか計画立てて……あと一年とちょっとで全部できるのかな。

 勉強しながらお友達と交流して、由上さんのことも……。

 不器用な私に全部できるとは思えない。

 なにをしていても落ち着かなくて、どうしたらいいかもわからなくて。

 ふと思い立って、スマホのカメラロールを起動した。あの日撮った写真を確認するためだ。

 【お気に入り】フォルダの中に入っている写真を呼び出す。

 あの日はテンパってて気づかなかったけど、スマホには“猫の笑顔”が保存されていた。

 フルーツサンドの奥で微笑む由上さんの目線はこちらを向いていて、未だに私をドキドキさせる。

 この目線の意味があの写真や発言につながるとしたら……私は、由上さんにとって、どんな存在なんだろう。

 遊びに誘ってもらったり、図書室で一緒に勉強したり。

 友達……とは少し違う。少なくとも私はそう思っていない。でもお付き合いしてるってわけじゃもちろんなくて、知り合い? 顔見知り? ただのクラスメイト?

 浮かぶ関係性のどれもがしっくりこなくって、由上さんが、じゃなくて、私はどう思ってるの? って考えたとき、浮かぶのは……やっぱり“憧れの人”だった。


* * *


 いつもなら嬉しいはずの日曜日をもどかしく過ごす。だったらなにか連絡すればいいじゃんって思うけど、返信が来たらどうしていいかわからないし、返信が来なくてもどうしたらいいかわからない。

 要は、なにも起きてほしくないのかな、そんなことないんだけどな。

 肯定と否定を繰り返しながら、図書室で借りてきた本を読み進める。これを読み終えたら、明日返却するために図書室へ行ける。そこで由上さんに会えるかもしれない。

 もしかしたらこないだみたいに、『明日図書室行く?』ってメッセをくれるかもしれない。そしたら、『本を返しに行くつもりです。』って返事できる。

 なんてよこしまな考えばかりが浮かんで、全然本に集中できなかった。

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