Chapter.48
いつもの道、いつもの電車。でも人は少ない。時間も少し遅いし、なにより夏休みだから。
私服で学校に行くの、すごく久しぶりだな。
誰に会うわけでもないけど、一応身なりには気を付けてみた。
校門のすぐ近くにある受付で図書館の利用申請をして校内に入る。一年のときも良く利用してたけど、目標が決まった今年はより利用率が高くなりそう。
リュックから上履きを出して履き替えて、自分の下駄箱に靴を入れる。いつもはみんなの靴が入っている下駄箱はガランとしてるけど、ちらほら利用者がいるよう。
多分、夏休み中も部活動してる人の靴だろうと思う。そういえば初音ちゃんと立川くんって部活あるのかな? って思って下駄箱をチラッと見てみたけど、該当の場所に靴は入っていなかった。
校舎内を移動して図書室へ向かう。渡り廊下から見える校庭では運動部が活動していた。
陸上部の人たちはトラックを走ったりハードルを跳んだり。特に決まりはないのか、金髪の人が混ざってたりする。遠いから顔までは見えないけど、同じクラスに陸上部の人がいた気がする。
野球部は規則があるのか、部員の人はみんな短髪黒髪。割と強くて、県内の大会で上位に入ることもあるらしい。
もし由上さんが高校でも野球を続けていたら、あの集団の中に入っていたんだろうな。
短髪黒髪の由上さんを想像してみたけど、うまく浮かべることができなかった。けど、どんな髪型、髪色でも、由上さんの魅力は損なわれないだろうなって思う。
廊下を渡り切って図書室に入ったら、エアコンが効いていて過ごしやすい室温になっていた。
課題をやってるらしき人がぽつぽつと着席している。
もしかして使われてるかなぁと覗きに行ったら、ロフトの席はまだ空いていた。一階より蔵書数が少ないからあまり利用者がいないけど、個室みたいな感じで好きなんだよなー。
高い位置にある小さな窓から入ってくる陽ざしも、冬になると暖かくてひなたぼっこをしながら本が読めて最高。
四人掛けのテーブルの、空いた席にリュックを置いて本を探しにいく。
編集者になるためには大学か専門学校かへの進学が必要だから、夏休みの課題とは別に勉強をすることにする。
家だとどうしても気が散るし、図書室なら参考書もそろってるし。なにより好きな空間だし。
何冊かみつくろって席に戻りノートを開く。苦手な教科の参考書を開くと気がめいるけど、将来の目標のためと気合を入れて取り掛かることにした。
* * *
黙々とペンを走らせる。たまに手を止めて悩んだりして、勉強した内容が身につくように対峙する。
うーん、学年一位の人とかどうやって勉強してるんだろう。
どうしても集中力が途切れてしまう。家だと気が散るしと思ってたけど、図書室も魅力的な本が並んでいて誘惑が多いということに気付く。
いや、読書も立派な勉強だ、と自分に都合のいい解釈をして、気になるタイトルの本を読んだりしつつ初日の図書館での時間は終わった。
帰り道、誰もいない下校ルートを歩く。いるはずもないピンク色を探してしまうのはもうクセなのかもしれない。
由上さん、今頃なにしてるのかなぁ。
連絡をしようと思えばできるけど、なにを送っていいのかわからない。
何日か後には四人で遊園地に行く約束をしているし、そのときまで待てば会えるんだけど……会いたいな……。
昨日も会ったのにそんな風に思う。今朝見た夢のせいだろうか。それとも……。
電車に揺られながら、初めて由上さんに会ったときのことを思い出した。
目の前を通るピンク色に心を奪われてから一年半くらい。喋ったり、連絡先を交換したり、遊びに行ったり……そんなことができる関係になるなんて思ってもみなかった。
人生、なにがあるかわからない。
いまは無理だと思っていても、将来どうなってるかなんてわからない。だから頑張ろうって心に決めた。
* * *
お風呂から出て髪を乾かしていたら初音ちゃんからグループメッセが届いた。
うぶ{みんなごめんー!〕
うぶ{遊園地の日、家族の予定入れられちゃった~!〕
文章のあとに泣き顔のひよこのスタンプが送られてきた。
そうなんだ、残念……。
初音ちゃんは三人で行って来てって言ってくれたけど、さすがにそれは……寂しいし、緊張する。
じゃあまた今度、都合いいときにみんなで行こうよってことになって、由上さんと会える予定がなくなってしまった。
でもお泊りできたし、夏祭り行けたし、そのおかげで色々なことが進展した…と思うし、全然大丈夫。会いたいなって気持ちに変わりはないけど……。
しょんぼりして、でもご家族の予定じゃ仕方ないもんね、って思っていたら、新着メッセを報せる音が鳴った。
またグループメッセかなと思って見たら、由上さんからの個別メッセだった。慌ててスマホを持ち上げて、すぐに返信できる体勢をとる。
sowa{図書室通いってもう始めてるの?〕
〔はい、今日から行ってます。}みーな
sowa{明日は?まだわかんないか〕
〔お天気よかったら行こうかなと思ってます。}みーな
sowa{邪魔じゃなければ一緒に行っていい?〕
sowa〔家だと課題が進まなくて〕
あ、あぁ、そういうこと。ビックリした……。
過剰に反応した心臓と同じく、指先が震える。ゆっくり画面をタッチして返信を打ち込んだ。
〔もちろんです。何時に行くかはまだ決めてないんですけど……。}みーな
sowa{そっか。駅で待ち合せる?現地がいいかな。〕
〔どちらでも大丈夫です。由上さんの都合が良いほうで。}みーな
送信してから、決めるの放棄したみたいになっちゃったかなって思ったけど、すぐに返信が来て安心する。
sowa〔じゃあ現地にしよ〕
sowa{もう暑いし、室内のがいいよね〕
sowa{昼前には着くように行こうかな〕
〔わかりました。では、図書室で。}みーな
sowa{うん。じゃあ、また明日〕
文字のあとに、ハスキー犬が【おやすみ】って言ってるスタンプが送られてきた。
ふふ、可愛い。
私も同じように、猫が【おやすみなさい】って言ってるスタンプを送る。すぐに既読がついて嬉しくなる。
わー、明日会う約束しちゃった~! どうしよ、なに着ていこ。
今日も一応気を付けてたけど、確実に会えるってわかったら可愛くなりたくなった。いやいや、おでかけってわけじゃないし、勉強しに行くだけだし。でも、会えるし……。
そんなに多くはないワードローブの中から厳選して、大げさにならない程度のキレイめなワンピースを選んだ。
今日使ったリュックから、ワンピースに合うバッグに中身を入れ替える。
あぁ、女子って感じ。
おねーちゃんがカレシさんとお出かけするとき、洋服選びでワタワタしてるのを大変だな~って思って見てたけど、実際こんな感じなのかなぁ。
由上さんがカレシとか想像もつかないけど、ただ図書室で会うってだけでこんなに色々考えちゃうんだな。
夏祭りに誘ってもらったときも嬉しかったし楽しかったしなに着てこうって悩んだけど、二人でおでかけするってなるとより一層気合が入ってしまう。
明日のことを想像しながらベッドに入った。
電気を消してまぶたを閉じてもドキドキしてなかなか眠れなくて。そうだ、靴はなににしようとかメイクどのくらいしようとか髪型はどうしようとか考えながらベッドの中でゴロゴロと寝返りを打っていたら、いつの間にか眠っていた。




