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銀の令嬢は、金の鳥を絶望に陥れる。

「うふふ、ディーン様。今日のお食事はなにがいいですか?」


「いまはいつだフェリカ?」


「そうですわね。三日後ですか?」


「そうか」


「……あら、王太子が行方不明になったと大騒ぎにはなっておりませんわ。適当に陛下がごまかしてくださってます。安心なさって?」


 私は椅子に腰かけ、ディーン様がお好きな詩を暗唱していました。

 ゆっくりと耳を傾けるディーン様。

 暴れて傷になったところは癒しの魔法をかけて差し上げましたわ。

 

 素直になられたディーン様は、抵抗もせずこちらの言うことを聞いてくださってます。

 しかしその目の光はまだあきらめていません。わかりますの、長い間一緒でしたから。


「アリスさんは、そういえばレイモンド様とよろしくやっておられるようですわね」


「アリスが?」


「ええ、あら、私言ってませんでした? 王太子はもうレイモンド様になることが決定しましたの。正確には王弟殿下が陛下の跡を継がれることになりまして、レイモンド様がおうたい……」


「どうしてそんなことになるんだ。嘘だろう、フェリカ! おい、どうして父上がそのような!」


「あら怖い怒鳴られるなんて、怖いですわ」


 うふふ驚きに目を見張り、強い憎悪を含んだ表情で私を怒鳴りつけるディーン様。

 あらやっぱりあきらめていませんでしたのね、素敵ですわよ。

 私がもう決まりましたのよと笑うと、嘘だと繰り返すディーン様。


「本当です。お見せしましょうか? レイモンド様が王太子になられることが決定したら、アリスさんころっとレイモンド様のお心変わりされました。愉快でしたわよ。あらあら、そういえばそのときに見せて差し上げたらよかったです。はい、今でも遅くありませんですわよね。蜜月をすごされ……」


「嘘をつくなフェリカ!」


「嘘ではありません」


 私はそうですわねと首を傾げ、懐から水晶玉を取り出しました。これはレイモンド様が遠くを見る魔術をかけていますの。

 小さいからみにくいですわと言ったら、そうだなもう少し見やすいようにしようとか言われてましたが、趣味が悪いですわ。


「水よ、我が望む姿を映し出せ」


 呪文を唱え、ことんと机に置くと、空間に映像が大きく映し出されました。あらすごいですわレイモンド様。


『おめでとうございます。レイモンド様、王太子になられるそうで』


『ああ、父上が今度おじ上から王位を譲られることが急に決まったから、そうすると僕が王太子か、ディーンはその話を聞いて儚んで、別荘に閉じこもってしまったらしいが、あいつも気が弱いな』


 貴族たちがへつらった笑いで口々におめでとうございますと声をレイモンド様にかけています。

 驚きに目を見開いてそれを見るディーン様。

 

『王太子妃は?』


『ああ、アリスという娘だ』


『え?』


『フェリーシカという話もあったが、さすがに拒否されて、趣味も悪いしな、ディーンから王太子の地位も奪い、婚約者も奪いじゃ』


 クスクスと楽しげに笑うレイモンド様、役者ですわ。

 黙り込むディーン様、もう驚きの表情ですらなく呆然と映像を見ています。

 もう少し前に申し上げたほうがよろしかったかしら?


『アリス嬢とはどなたの?』


『フィンス伯爵のご養女らしい、僕はまあ誰でもいいからな』


 レイモンド様は銀の髪をさらりと払いのけ、クスクスとまた笑います。楽しそうにうれしそうに笑うと、はははと回りの取り巻きの貴族たちも笑いました。


『立太子の儀は』


『父上と話して引き継ぎなどもすんで、落ち着いてかららしい、おじ上も少しお疲れ気味らしく、以前から考えられていたそうだ』


『もともと、王弟殿下も同じ……』


『ああ、同じ王妃の子だから、もともと父上も王太子としての候補ではあった。長子相続だから争い回避のためにその話は立ち消えただけだったが』


 これは本当です。もともと同母の兄弟で二歳違い、王弟殿下も優れた知性をお持ちで、陛下を支えておられましたから、彼が王になられてもこの王国は安泰でしょう。


「私は父上に……」


「見捨てられたのでしょうねぇ」


「見捨てられた?」


「お可哀想、ディーン様。アリスさんもあなたが王太子でなくなった途端、レイモンド様になびいたらしいですわ。ああ、お可哀想、ディーン様」


 私が何度も繰り返すと、見捨てられたと繰り返し、虚ろな目で私を見るディーン様。

 あはは、その目にあるのは絶望、表情は虚ろ。私の気持ちが少しはお分かりになられました? 

 あなたに裏切られた時、とても悲しかったのですわよ?


「私は、ディーン様を裏切りませんわ。見捨てませんわ」


「フェリカ……」


「だって王太子なんて地位、私はいりません。ディーン様だけが欲しいんですのディーン様が王太子でなくても愛していますわ。アリスさんとは違います」


 うなだれるディーン様の耳元で優しく囁きます。愛していますわと囁くとフェリカしかと呟かれました。


「アリスが裏切った……」


「あらあら、レイモンド様、嬉しそうですわ。あらあれはアリ……」


「アリス!」


 私は出てきた女性の画像が出る前に消しました。すると早く映してくれとディーン様が怒鳴ります。

 あらあら必死です。おあずけも、いえ待ても大事ですわよ。


「続きはまた今度、そうですわね。お食事はなにに……」


「早く映せ! 見せろ!」


「……私のいうことを聞けない悪い子にはお仕置きです。今日のお食事はなしですわ」


「フェリカ、頼む。お願いだ見せてくれ!」


「……ふう、しかし暑いですわね」


「フェリカ!」


 絶叫するディーン様、かわいいですわ、愛しいですわ。

 愛していますわ、あなたのすべてを。

 強い憎悪をその青い瞳にたぎらせ、見せろと怒鳴りつけるディーン様必死です。

 絶望の後は憎悪、あらあらメインディッシュにはまだまだです。これは前菜です。


「そうですわね、おとなしくいうことをあなたが聞いてくださったら見せて差し上げます」


「フェリカ、お願いだ……」


 哀願に変わりました。ふう、しかし犬のようですわ。

 昔飼っていた犬がこんな感じの態度でしたのよ。ディーン様、プライドを捨ててはいけません。


「ディーン様、ではごきげんよう」


「フェリカ!」


 魔法の明かりを消して、実は熱の管理をしていた魔法もかけていましたが、部屋全体から消しました。

 かなり蒸し暑いですわよね。

 こんな中で一人おられるようなら、どこまで持ちますか?


 うふふ、楽しみですわ。

 




 

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