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哀れな公爵令嬢は、愚かな計略にひっかかる。

「フェリカ様」


「愛称で呼ばないでくださいましアリスさん」


 私のほうが地位が高く、王太子妃の婚約者という地位に今は一応あります。

 だが嘲りの笑いを唇に張り付け、アリスさんは学園で私を呼び止めました。


「お話があるのですか」


「私はありません」


「どうして私をいじめるのです?」


「いじめてなどおりません」


「どうして私を嫌われるのです? 私はフェリカ様と仲良くしたいのです」


「私は仲良くしたくはありません」


 平行線でした。しかし私はいじめているという勘違いをされないほどの会話を心掛けてはいました。

 私は友人は自分で選びたいのですと続けます。


「どうしてお友達になってくださいませんの? 私がしょ……」


「身分は関係ありません。私のお友達はフィリア様だけでしたの。私は気が合う人とだけお友達になりたいのです。アリスさん」


 何か馬鹿にするようにアリスさんは笑っています。

 何を考えているのか? 私を逆上させようとしていると判断しました。

 階段の踊り場で呼び止められましたが、どうしてこのようなところで?


「私とは気が……」


「私は人見知りです。そしてお友達がアリスさんにはたくさんおられます。そのうちの一人ではなく、本当の友達がほしいのです。だからお断りしています」


「……うふ」


「え?」


 クスクスと楽しそうにアリスさんは笑ったかと思うと、後ろに少しずつ下がって行き、階段から落ちていきました。

 慌てて手を差し伸べると、にやりと笑いながら落ちていかれ、その先にはディーン様がいてアリスさんを受け止めました。


「ディーン様、私……」


「フェリカ、まさか……」


「ディーン様? 私アリスさんを」


「あのフェリカ様をお責めにならないでディーン様、私が悪いのです。私が足を踏み外してしまったの!」


 泣きながらディーン様に話すアリスさん。

 ああ、私も馬鹿です。助けようと手を差し出すなんてとっさにしてしまいました。

 こんな馬鹿馬鹿しい茶番、それにひっかかりこちらを強く睨みつけるディーン様。

 非難するようなその眼差し、アリスさんのことを信じ切っています。


 どんなことを言っても言い訳になります。

 私が黙り込むと、けがはないか? とアリスさんに心配そうに尋ねるディーン様。

 媚びたように笑うアリスさん。


 ああ、私は何もしてません。

 でもあなたはアリスさんを信じるのですね?


 心が完全に砕かれてしまったようで、動けません。

 私はただ黙って二人を見るしかありませんでした。

 周りに人が集まってきて、ひそひそと何か話していました。


 ああ、私も愚かです。ディーン様の心が戻ってくるとか淡い期待を持っていた。

 愚かな私、そしてこんな陳腐な罠にひっかかる愚かすぎる公爵令嬢。


 それが私です。


 まだ少し良心が残っているのでしょうね。でも私は何もしていません。

 私はただディーン様を愛しただけです。

 アリスさんをいじめて居ません!


 なのにディーン様は処分を考えておくようにとつぶやき、私を睨みつけました。

 ああ神様、お願いです。

 私は何もしていません。どうして信じて下さらない?

 心が冷たい、ああお願いです。ディーン様はアリスさんを抱き上げ、後ろを向いて歩きだしました。


 皆が私をにらみ、何かひそひそといいます。

 レイモンド様が現れ、ここにいてはまずいと私の手を引きました。

 ああ、もう私の心は何も考えられない。

 私は手を引かれるままに後をついていくしかありませんでした。



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