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冷たいあの人の心変わりを見ると心が痛む

「人の心は変わるもの、流れる雲のようにあの風のように、永遠なんてないと知っていたのに愚かな……」


 口ずさんでいると、目の前に現れたのはディーン様でした。

 一週間ぶりですかしら?

 ごきげんようと一礼すると、厳しい顔つきでディーン様は私を見ます。


 学園の中庭、お気に入りの噴水、木陰の下で歌うを私をいつもかわいいと言ってくださいましたわよね? 今は冷たい目で私を見るディーン様……心が痛いです。

 青い瞳はとても冷たい光を放っていました。


「フェリカ、君はアリス嬢をいじめていると……」


「いじめてなんかおりません、私はアリスさんのことはどうでもいいのですわ」


「どうでもいい?」


「はい、どうでもいい相手をいじめたりはしません」


「好いてはいないと?」


 冷たい響きのあるディーン様の言葉、私は極めて普通にしようとしますが、泣いてしまいそうになる自分を抑えるのに必死でした。

 だって私のことを見るその瞳はとても冷たいのですもの。


「好いて? いえどうでもいいのですわ」


「どうでもいい?」


「はい、私にとってはアリスさんはどうでもいいお人なのです。言葉が悪いですか? 興味がないといったほうがいいかもしれません」


 本当はその姿を見るたびにまるでナイフの先で突かれるような思いをしてきました。

 しかし、ごきげんようと平然を装い挨拶をすると、馬鹿にしたようにこちらを見るアリスさんと取り巻きさん達、私のことをそういえばディーン様はかばってくださったこともありましたわ。


 私は気が弱くおとなしいと思われていて、よく馬鹿にされたこともありましたもの。


 でも今はただ私を冷たく睨むだけ。


「君は変わったフェリカ、とても優しい人だったのに」


「私が優しい? ありがとうございます」


「君は最近ずっと、アリスをいじめていると私は聞いた。それはやめてほしい」


「ドレスの件ならご忠告だけです。白は公爵令嬢以上でないと夜会では着ることができないと、恥をかかせたくなかっただけです」


「君はフェリカと呼ぶなと」


「愛称を呼んでいいのは亡きお母様とフィリア様と乳母や、ディーン様だけです。父ですら愛称は呼びませんの」


 私がにっこりと笑うと、顔色が悪いと少し心配そうに言われるディーン様。

 そんなことはありませんと返します。

 ああよそよそしい会話です。

 大丈夫かい? 侍医を呼ぶが? 風邪でもひいたのかな? なんて心配そうにこちらを見て侍医を呼び、私を慌てさせたこともありましたわね。

 あの時はディーン様に差し上げようと、徹夜で刺しゅうをしていただけですのに。


「しかし……アリスは君と仲良くしたいと」


「押しつけの友情ならいりませんの」


 私と仲良くしてくださったお友達はフィリア様だけでしたわ。

 しかしフィリア様も死んで、私にお友達と呼べる人はほぼいませんでした。

 でも、アリスさんが何を考えているのか? 私と仲良くしたいけどできない、いじめられているようだとでも仰っているのでしょうね。


 いじめてなんていません。

 何度言っても信じてもらえそうにないですが。


「最近、アリスさんとお仲がよろしいようですわね。ディーン様」


「フェリカ?」


「しかし私はアリスさんと仲良くするつもりはありませんの」


「アリスが庶民だからか?」


「いえ違います。ただ単にお友達になろうとは思わないだけです」


「君は優しい……」


「押しつけの友情はいりませんの。ディーン様だって取り巻きが自分に友情なんて求めてない、王太子だからへつらっているとよく悩まれてましたわよね? それと同じです」


 ああ、冷たい言葉です。

 ディーン様、私はただあなたが私が間違っていた君を愛してるよフェリカ、だから許してくれとおっしゃってくださいましたなら許しました。

 心変わりなんてしてないよって仰ってくださいまし。


「冷たいな君は」


「冷たくなんてありません、ただ仲良くしたいといわれても、私は仲良くなる相手を自分で選びたいだけです」


「本当に冷たくなった」


 私は変わっておりません。

 変わったというのならディーン様のせいです。

 もともと媚びたように笑うアリスさんは苦手でした。

 だけど関わり合いにならなければいいと思ったのです。


「アリスと仲良くしてやってほしい」


「嫌です」


「フェリカ!」


「それは王太子殿下としてのご命令ですか?」


「違う!」


「なら私はアリスさんと仲良くするつもりはありません。でもいじめてもいません」


 どうでもいいだけですと私はまた繰り返しました。

 ああ、とても心が痛む。あなたの目に怒りが宿るのがよくわかります。激情に身を浸し烈火のごとく怒る貴方も好きです。


「君は、本当に変わった」


「変わっておりません」


「なら……アリスは一人で寂しいと」


「お友達はたくさんいるようですが?」


「フェリカ!」


「ではごきげんようディーン様」


 私は頭を下げ、踵を返します。ああ追いかけてきてくださいまし、悪かったよフェリカ、君は変わってなんていない。愛しているよと仰ってくださいまし。


『愛しているよフェリカ、永遠にだ』

 

 そういって笑ってくださいましたわよね? お願いです一度。


 しかし私の後ろを追ってくる姿はなく、私が振り返ると、もうそこには誰もいませんでした。


 うふふ、本当に私も愚かです。

 あんな裏切りを目にしておきながら、まだディーン様の愛情が自分に戻ってくると期待しているなんて。


 あははは、馬鹿馬鹿しいです。

 私が笑うと、レイモンド様が木々の間から出てきて、相変わらずだなと笑います。


「そうですわね」


「本当に君はディーン以外はどうでもいいんだな」


「はい」


「僕が君を愛しているといっても?」


「あなたは誰も愛さない」


「え?」


「私はあなたを愛さない。愛しているのはディーン様だけです。アリスさんをうまく誘惑することだけを考えておいてくださいまし」


 私が静かに微笑むと、あの時のフィリアの死に顔にようだとつぶやくレイモンド様。

 ああ、そうですわね私の心はもう半分死んでいるのかもしれませんわ。





 

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