表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第2章]拓磨
19/64

(3)-2


「さて……と」

 拓磨は畳の上であぐらをかきながら、先ほどの考えを少し訂正する。

 目の前では、エリスが弁当を重箱から口に運んでいる。

 重箱と言っても、一抱えほどもある大きさだ。

 ……軽く10人分はある

 拓磨は額を押さえながら、エリスの様子を見守る。

 先ほど、保安室で包みを受け取ったとき、何か嫌な予感がしたので、事務員に頼んで隣の和室を貸してもらったのだ。

 大正解だった。

 この弁当を持って教室に戻ったら何が起こるのか想像がつく。

「あの、それ、全部エリスの分だよね?」

「そうだが?」

 箸を持ちながら、何でそんなことを聞く? と言いたげにエリス。

「そう……」

 拓磨が次の言葉を探していると、エリスが『あっ』と小さく呟く。

「少尉はどうするのだ?」

 ――そっちか

 拓磨は、心の中で突っ込んだ。

「いや、今日は弁当無いから、購買部で買ってこようかな……と」

 拓磨はポケットから携帯電話を取り出すと、ちらりと時間を見る。

 ――もう、まともな物は残っていないな

 既に、昼休み開始から20分が経過している。

 その様子を見ていたエリスは、呟くように言った。

「無駄であろう。『購買部』とやらには、昼休み開始と同時に生徒が殺到し、めぼしい食料は開始15分足らずで売り切れるはずだ」

「よく知っているね」

「ああ、昨日覚えたからな。さながら、学生にとっての戦場と言ったところであろ?」

 拓磨は、そんなことまで勉強しているエリスに感心する。

 エリスは、既に半分ぐらい平らげた弁当を見ながら、ふと箸を止めた。

「残りは、少尉が食べれば良い」

 弁当箱を差し出すエリス。

 これだけでも5人分以上残っている。

「え? ……いや」

 エリスの言葉に、拓磨は困惑する。

「心配するな、これは、この国の食材で作られている」

「いや、そのことじゃなくって」

「じゃあ、何だ?」

 拓磨は言うべきかどうか悩んだ後、エリスの顔を見る。

「それの5分の1で良いんだけど」

 エリスは顔を上げた。

「食べないと身体が持たないぞ」

 その顔は、決してふざけているわけではなく、全く当たり前のことを当たり前に言っているだけのようである。

「いや、……この国の人間の基準だと、それは5人以上の量なんだ」

 エリスは少しの間、まじまじと拓磨を見ていたが、軽く頷いた。

「そうか」

 エリスは左手で重箱の蓋を取り、持っている箸で器用に拓磨の分を取り分けると、拓磨に差し出す。

「これで良いか?」

「うん」

 拓磨は受け取る。

 拓磨がエリスから箸を受け取り、食べようとしたとき、エリスは呟いた。

「……少尉の国の基準は、私の国の基準と同じだ。私の食べる量が多いことは、自覚している」

「そうか、じゃあ、明日からは、ここで昼ご飯を食べるか。目立つと困るから」

 拓磨の言葉に、エリスは再び拓磨の顔を凝視していたが、少し微笑んだ。

「そうだな、確かに目立つのは良くない。少尉の意見に賛同する」

 拓磨は、エリスから受け取った弁当を口に入れる。

 意外に美味しい。というより、素朴な、何というか、食べ慣れている味。

 戦地でまともな食事が出来ているうちは、まだ部隊は安泰だ……と何かの本で読んだことがあることを、拓磨は思い出していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ