↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第十三科学系戦術師団  作者: みずはら
[第2章]拓磨
PR
20/64

(3)-3

 視線の先で、ほぼ弁当を片づけたエリスの上半身が、揺れていることに気づく。

「エリス? 眠いの?」

 思い当たることを口に出した拓磨の声に、エリスははっと気づく。

「いや、大丈夫だ」

 そう答えるそばから、視線が宙をさまよう。

 食事をすると、胃に血液がたくさん流れ、眠くなるのは自然の摂理だ。

 しかも、エリスはここ数日まともに寝ていないのだろう。

 端から見ても、睡魔と戦っているのは明白だ。

「少し寝たら? 昨日も寝てないんだろう?」

「いや、大丈夫だ」

 エリスは首を振る。

「大丈夫じゃないように見えるけど。少しは寝ないと、頭も働かないだろう」

「作戦行動中に……寝るわけにはいかない」

 エリスは立ち上がり、伸びをする。

「昨日は寝ていたじゃん」

 その言葉に、エリスは拓磨を見下ろし、半眼になる。

「……処分されたいのか? 少尉」

 そんな無茶苦茶な、と拓磨は言葉に詰まった。

 マントを炎上させながら走る、タケトの姿が頭をよぎる。

 すっかり忘れていたが、エリスはそういう立場にあるのだ。

 そして、組織上は、拓磨はエリスの部下と言うことになっている。

 拓磨は、過程はどうであれ、第十三科学系戦術師団に入隊したのである。

 その場合、軍律が適用される、とタケトから説明を受けた。

 上官への口答えは反逆罪……だそうだ。

『中将は強いからな。逆らう事は物理的に不可能だ』と、笑みを浮かべながら付け加えるタケトを思い出していた。

「い、いや、昨日のことがどうとかじゃなくて、……そりゃ、エリスを頼りにしている数千人……八千人だっけ、その兵士の前では、エリスの態度が必要なのは分かる。だけど、昨日初めて出会った僕の目には、エリスは常に張りつめた糸のように見える」

 拓磨は短く息をつき、続ける。

「その目は、まるで獲物を物色する鷹のようだし、その翼は、遙か南の国を目指すツバメのようだ。決して休むと言うことを知らない。だけど、ここは学校で、ここには、僕しか居ない。だから、せめて、ここでは、その翼を休めても良いんじゃないかと思うんだ」

 うまいこと言うな、と拓磨は一瞬自己満足に浸る。

 そんな拓磨の様子を見下ろしていたエリスは、今日何度目かのため息をついた。

「……本当に、少尉は不思議な奴だな。言い回しも回りくどくて、何を言っているのか、分かりにくい」

「……」

 その言葉に、打ちひしがれる拓磨。

 エリスは腰を下ろす。

「しかし、少尉の言うことも一理あるな。確かに、睡眠は必要だ」

 そして、エリスは拓磨の顔をじっと見た。

「少尉、私が寝ている間、何かあったら、すぐに私を起こすんだぞ?」

「うん」

 エリスは、拓磨に顔を寄せる。

 相変わらず慣れない拓磨は、心臓が高鳴ることを防げない。

「いいか? どんな些細なことでも、少尉の身の回りで、普段と違うことがあったら、絶対に私を起こせ。わかったか?」

 一言一言を確実に言い聞かせるようにエリス。

 ここで、拓磨は自分の考えの浅さに気づいた。

 エリスは、何故寝ていないのか?

 そして、エリスは何故寝ようとしないのか?

 初めて会ったときに言っていた。『拓磨の警護と移送の任務』と。

 そして、たった今、エリスは『少尉の身の回りで』と言った。

 恐らく、拓磨の身に起こるであろう、危険から守るために、エリスは拓磨の周辺に警戒していたのだ。いわば、寝られないのも、拓磨が原因なのだ。

 冷静に考えれば、保安室の位置だって調査済みだったに違いない。拓磨を連れてくる口実のために案内させたのだろう。

「わかった。何かあったら絶対に起こすから」

 拓磨の言葉にエリスは頷くと、拓磨の隣に移動し、すっと身を寄せる。

「ちょっ、エリス?」

 拓磨は狼狽するが、エリスは既に寝息を立てていた。

 ふわっと良い香りがする。昨日と同じ、森林浴をしているような香り。

 そうか、こうすれば、何かあってもすぐに気づくというわけだな。邪な想像を振り払うように、拓磨は論理的に考える。

 今まで見た範囲でも、エリスは、常に論理的かつ合理的に物事を行っているのだ。全てにおいて無駄ということがない。ある意味、その行動には優雅ささえ感じてしまう。

 今の行為も、そういうことなのだ。

 睡眠に関しては、本当に限界だったのだろう。今、睡眠を取り、かつ、拓磨に対するリスクを最小限にとどめるための行動を取った。

 そう、それだけのこと……。

 やや硬直しながら、拓磨はエリスの寝顔を見つつ、今の状況に注釈をつけていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。