対極の二人
今回は祐理君以外の話です。
―――――新潟
「ふわああ~。」
装甲列車内で寝ていたと言うのに未だに眠気がする。皆に会えるからとテンションが上がって前日に寝られなかったのが原因かもしれない。
次は―――――新潟 次は―――――
「あ~着いた着いたっと」
席を立ち、列車を出る。
それと同時に俺の後を尾けるように付いて来る気配が複数。
祐理の言った通り、尾けられているようだ。
都市防衛壁の周辺では戦闘が起きやすく、はぐれ魔物も多いので人が非常に少なく、人家も少ない。そこなら追っ手を始末するのにある程度荒事になっても大丈夫だろうと都市防衛壁の方向に歩く。
そのまま人気が無くなったところで振り返る。
「出て来いよ。いるんだろ?」
言った瞬間に、自分の周囲に複数の人の気配。魔力で感知したところ、ざっと30人程度いるようだ。
「うわ、俺一人にこれは多過ぎるだろ・・・・・・これで煩わしい程度にしか思ってなかった俺って間抜け」
どうやら相手はこちらを速攻で仕留めようとしているのか各所で動く気配がしている。
だが、今俺の頭の中を占めるのはその事とは違かった。
「チッ・・・・なんであの時俺は戻らなかったんだよ・・・・」
俺は祐理にあんな忠告をしたが、正直なところ、失敗だったと思っている。あの後、俺が列車内で揺られている時に、その何かの気配を感じていたのだ。魔力的な方向でしか感じられなかったので祐理には気づけなかったはずだ。あの時、祐理なら大丈夫だろうとそのまま放っておいたのだが、後になって後悔することになった。
もし、祐理が死んでしまったら?香菜ちゃんが死んでしまったら?郡山さん達が死んでしまったら?といくつもの不安がよぎる。
その度に憤りをかんじるのだ。列車の窓から降りるなり星魔法の応用で転移するなり方法はあったのだ。東京に戻る方法は。もし彼らが死んでしまったら俺のせいだ。
その事を考えれば考える程自分に対して怒りを覚える。
考えこんでいたせいで気づかれたら囲まれている。丁度良い。俺の憂さ晴らしに付き合ってもらうとしよう。
相手が戦闘体勢を取る。
それに合わせて俺は右腕を振る。
その右腕から仕込まれていた鎖鎌が飛び出し、一人の顔面に突き刺さる。
突き刺さったところから大量の鮮血が舞う。その光景が自分の嫌な過去と重なる。
男の振りかぶった包丁が女性の胸に突き刺さり、鮮血が溢れる。
その女性に俺が駆け寄る。
その女性が血の着いた手で俺の頬を撫でる。
『貴方は・・・・優しく生きて・・・貴方には・・・・界を・・・変え・・・力・・・』
彼女がもう一度息をすることは無かった。
「貴様!!」
仲間を殺された怒りか一人がこちらに突っ込んでくる。
その男の姿がどこか自分に似ていたような気がして、余計に怒りを感じる。
未だに刺さっている鎖鎌の鎖をしならせ、鎌を自分の方に飛ばして回収する。
回収した体勢のまま自分がいつも押さえ込んでいる魔力を垂れ流すようにして一部を開放する。
「なっ」
俺の周りに強烈な魔力が生まれる。その魔力は奴等の動きを止めるのには十分だった。
「これだけ魔力があると日常生活にも支障が出るんだよ。知ってたか?」
自分から流れ出る魔力が圧倒的なプレッシャーとなって奴等に降り注ぐ。
垂れ流しているだけだというのに魔力が空間に干渉している。
あまりにも多過ぎる魔力が無理矢理に空間に干渉し、空間を歪ませている。
それは、まるで世界そのものを呑み込む星の残滓のようだった。
俺を殺そうと動いていたものが皆逃げようと背を向ける―――――が、時既に遅し、垂れ流した魔力を対物障壁に変え、奴等を囲むように張る。
「だ、出せ!出してくれえ!」
誰かが叫んでいるようだが、気にせず魔法を次の段階に繋げる。
あの様子だと、俺の魔力の禍々しさから何か幻覚でも見たのかもしれない。
対物障壁を奴等一人一人を囲むようにして全員の自由を奪う。
そのまま対物障壁を小さくしていく。
ゴキッ!バキッ!
骨の砕ける音が響く。
対物障壁を小さくしたことで中に閉じ込められていた奴等が潰れていっているのだ。
そのまま、死んだであろうと言う状況まで潰す。
最早悲鳴すら上げなくなった肉塊を無情に見つめる。
ここまでやれば昔のことなんて思い出さないだろう
「ひっ、ひいいっ!!」
どこからか悲鳴が上がる。まあ、あえて一人だけ残したので当然だが。
男に無防備に近づく。
「あんたさ、格闘家だろ?俺は魔術師だ。この距離なら俺が魔法を発動する前に殺せるんじゃないかな?」
あえて馬鹿にするように両手を広げる。
その事に希望を見たのか男は転んでいた体勢から急速に体勢を変え、右正拳突きを放ってくる。
俺はその攻撃を腰を低くしながら体を後ろにやや倒すことで紙一重で避ける。
そのままの体勢から肘を飛ばすように相手の胸を殴りつける。拳が当たった瞬間に拳を回転させながら肩の力を使って押し込む。その動作で衝撃を相手の体に流し込み心臓を破裂させる―――――はずが予想以上に相手の体が脆く、あっさりと俺の拳は相手の胸を食い破り、腕が胸を貫通してしまった。
「あれ?以外と脆い・・・・あ、血だらけになっちまった。」
貫いたままの腕を引き抜く。また過去の記憶と重なりそうになったが、自分の手に残っていた生々しい血と肉片が自分の思考を元に戻させる。
「ふう・・・・これ、どうしよう・・・・・」
どうしようかと辺りを見回していると、強化魔法が間に合ったのか、まだ死んでいない者がいた。
「お、生きてる。おっさ~ん。返事できる?」
頭を小突くと、反応があった。
「ぐふっ・・・・・グプッ・・・・!!貴様ア・・・」
「結構元気だな・・・・」
見た目からは結構ダメージがあると思うのだが、普通に話せている。
「貴様・・・・よくも俺達を・・・」
「俺を殺そうとしてただろ。俺もお前らもあまり変わんないと思うけど。」
「貴様・・・貴様はっ!・・・・・何故ああも簡単に人を殺せる?・・・・」
「あんたらは魔物を殺したことがあるか?」
「ある」
「それなら話は簡単だ。」
「なんだと?」
「魔物を殺すことと人を殺すことに何の違いがある?種族の違いか?同族だからか?違うだろ。人間は魔物が憎いから殺し続けてるんだ。俺達は殺したいから殺してるんだ。このことに気づかずに魔物を殺し続けてるあんたらにとって俺がおかしいと言うならそれでいいさ。俺は人を捨てる。そんな人間のままでいるというなら俺は―――――虐殺鬼でいい。
あらゆる生物を死に追い込む死神でいい。それだけの覚悟を持って俺は魔物を殺してる。それだけの覚悟があればあんたも簡単に人を殺せるさ。」
喋りながら俺は足を持ち上げる。
「さようなら、この狂った世界から。」
俺は足を躊躇い無く振り下ろした。
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―――――日光都市跡
「・・・・・・・酷いものだな・・・・・・」
辺りには廃墟が広がっていた。
人の管理がなくなると家等の建物は一気に荒廃すると言うが案外本当なのかもしれない。
「おっと・・・フハハハハハハハ!!ここまで酷くなるとはな!・・・・・・いや、やめよう・・・・」
あの変人は友人といる時だけにしよう・・・・
そのまま歩いていると、幾つかの気配があった。
「魔物?・・・・13・・・いや16か・・・・・」
人っ子一人いないのだ。魔物が住んでいても当然である。いつもならここで魔物を仕留めるなりするのだが、今日は戦う為に来た訳では無いのだ。今日はある人の弔いに来ているのだ。
更に歩き続けると、ある場所が見えてきた。
「ここは・・・・・変わらないか・・・」
見渡す限りの墓。どこまでも広がる墓所だった。
ここは、日光が滅んだ際に出た死者を生き残り総出で弔った際に出来た墓地だ。ここには、日光都市に住んでいた数万人の墓地がある。
だが、俺の足は墓地とは逆の方向に向いている。俺の目的の人の墓は違う場所にあるのだ。
「・・・そろそろか・・・・」
後少し、後少しで・・・・君に・・・・
だが、その思いが叶えられることは無かった。
「はは・・・・・嘘だろ・・・・・・」
墓が掘り返されていた。誰がしたのかは見当もつかないが、許されないことであることは間違いない。
ふと気配を感じて後ろを振り返る。
「グルルルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ」
人と狼が混じったような形をした魔物が立っていた。
この魔物は、居合わせた場所が悪かった。
この魔物は、隠されていた化け物の真の姿を見てしまったのだ。
「この場所を・・・・汚すなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
彼女の尊厳を汚された。彼女の場所を汚された。
許せない
許されない
許すはずが無い。
「たとえ何者が貴様らを許そうとも俺は許さない!貴様らを、貴様らを皆殺しにしてやるううううううううううううううううううううううううううう!!」
その魔物が俺を殺そうと迫る。瞬間、いくつもの技が浮かぶ、だが、どれも足りない。こいつらに与える罰には足りない。
「足りないんだああああああああああああああああああああああああああ!!」
最早何も考えられず、怒りに任せて体が動く。
怒りに任せて動いた俺の体は技でも何でも無い力任せの動きをする。
右手が閃き、その直後には俺の手には奴の頭が握られていた。
頭を失った体がひとりでに倒れる。
どうやら俺は、奴の頭をもぎ取るようにして力任せに取ったらしい、
俺は、未だに燃え盛る怒りに任せて奴の頭を握り潰す。
握り潰したと言うのに未だに俺の中の怒りは収まらない。
危険を感じて後ろを振り向く、そこには先程と同じ形の魔物がこちらに飛んできていた。
「お前が死ねええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
そいつの顔面に向けて手刀を飛ばす。その手刀が人の顔で言うところの顎に当たる。その瞬間、まるでスプーンですくい取る時のように顔面が抉れる。
どう考えても死んでいる魔物の腹に正拳突きを放つ。
その拳はあっさりと奴の腹を貫いた。
「次は・・・・・次はどいつだあああああああああああああああああああああ!!!」
その手を引き抜きながら周りを見ると、俺の叫びを聞いたのか沢山の魔物が集まって来ていた。
「クククククク・・・・・・ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
狂ったように笑う。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
愉快だった。ただ愉快だった。
かつてない程の怒りの中、俺は楽しさを覚えていた。
これが復讐か、と―――――
****************
「ハア、ハア・・・・・・・・・・」
辺りには血の海が広がっていた。
怒りに任せて戦ったせいで、体力の消耗が激しい。
「終わった・・・・・」
彼女の尊厳を汚した奴は殺せたようだ。戦闘中に発見したのだが、二番目に殺した奴の腕に土がこびりついていた。彼女の墓を掘り返した奴は俺の手で殺せたようだ。
幸い、彼女の遺体までは掘り返されていなかったので彼女の尊厳を完全に汚されたわけではなかった。
「終わった・・・・終わったよ・・・・つぐみ・・・」
墓に喋りかける。
つぐみ。俺が初めて愛した人。
生まれて、物心ついた時には親はいなかった。その後も孤児院に入るようなことは無く、一人で生きていた。だが、子供一人で生きるには今の世界は厳し過ぎた。はぐれ魔物に襲われ、殺されかけた。なんとかその時は逃げ切れたが、その日は運が良かっただけだった。また魔物に襲われ、逃げられなかった。その時、ある人に助けられた。その人は、俺を救ってくれただけでなく、俺を育ててくれた。その人の娘が、つぐみだった。俺はその人に多くの事を教わった。
俺は、つぐみと話す時だけ、何故か変な喋り方をしていた。それが、照れ隠しなのだと気付いたのはいつだったか。その喋り方が癖になり、いつしか誰と話す時もその喋り方になっていた。
それから祐理達に出会い、友を知った。朝日だったか。俺の嘘を見破ったのは。本当の喋り方にしたら?と言われて、癖になってしまったと言ったら笑われた。
『あ、好きな人にしか素は見せないのか?』
と言われた。本当は彼女にも素は見せていなかったが。
それから暫く経ち、日光を滅ぼした奴等が現れた。そいつらとの戦闘中、奴等の攻撃が俺の家の方向に飛んだのを見て、俺は急いで家に戻った。
そこには死ぬ間際の彼女がいた。そこで、俺は彼女の最期の言葉を聞いた。
『大貴・・・・大好きだよ・・・・・私は・・・・・今の大貴も本当の大貴も・・・・・』
彼女は血を吐きながらも続ける。
『でも・・・・・・本当の大貴と・・・話かったなあ・・・・』
俺は泣いた。悲しかった。何よりも彼女の最期の望みすら叶えて上げられなかったことが悲しかった。
だから、俺はいつもあの喋り方のままだ。つぐみの見ていた俺は本物なんだよと、真実をすり替える為に。
彼女の墓を前のように戻し、本来の目的―――――調査に戻ろうとした時だった。
「ん?・・・・・これって・・・・祐理の?・・・・」
二人が何故対極なのか、それはその内分かります。




