終奏(Epilogue): 黄金の風に乗って
はじめまして、ご覧いただきありがとうございます!
本作は、不思議な「造船図書館」を舞台に、心に悩みを抱えた人々が自分の「時の書」と向き合い、人生を新しく整えていく連作短編(オムニバス形式)の物語です。
1話ごとに読み切りのように楽しめる構成になっていますので、ぜひ気軽にお楽しみください!
目を覚ますといつもの天井があった。
デジタル時計の数字が『06:08』。
「……夢、だったのかな」
慌ててスマホを確認したがあの不思議なメールは跡形もなく消えている。
窓を開けて大きく深呼吸をした。
頬を撫でた三月の風が、なぜか
カイロスの悪戯っぽい笑顔が見えた。
喉の奥には、まだ微かにサクラ紅茶の温かさが残っているような気がする。
「……私らしく、やってみよう」
鏡に映る自分の瞳は
昨日までとは違う光を宿していた。
私は「自分を置き去りにしない」と心に決め、
新しい海路を漕ぎ出すために、一歩、外へと踏み出した。
本日の沙耶は早番なので、いつも通り支度をして、職場へと向かった。
職場につき、開店の準備をしていると、
新島店長が「おはよう!」といつも通りの口調で現れた。
沙耶は驚きながら
「おはようございます!今日はお早い出勤ですね。」笑顔で挨拶をした。
店長は沙耶の笑顔を見て、安心した。
沙耶のこの純粋で飾り気のない笑顔をひさしぶりに見て、
懐かしい気持ちになった。
始めて面接の時に出会ったときもこの笑顔を見て、
(この子は俺よりも人をまとめることができる人材だと)
思っていたからだ。
本郷さんが想像していたよりも早期退職することになって、
正直なところ、焦っていた。
だが、今日の沙耶は昨日までのウジウジさや、
自分の感情を“押し殺した笑顔”ではなくなっていた。
内心、急激な成長に驚きを隠せなかった。
思わず
「沙耶ちゃん、昨日何かあった?」
沙耶は驚いて昨日を振り返ってみたが、
「何もなかったですよ!どうしてですか?」
店長は昨日聞きそびれた沙耶の気持ちと覚悟を思い切って聞いてみた。
「いや……店次長やっていけそう?キツイのなら、オーナーに頼んで
名古屋か東京から応援を呼ぶことも検討しているんだ」
沙耶は屈託のない笑顔で自信をもって
「私に、店次長やらせてください。
本郷さんみたいにいかないかもしれないけれど……
チャレンジしてみたいんです。」
迷いのない言葉。その瞳に宿る輝きを見て、
店長は自分の直感が正しいかったことを確信した。
「じゃあ、お願いします!
ただし一つだけ守ってほしいことがある。
一人で抱え込まないこと。
これは本郷さんにも伝えたことなんだけど、
僕たちは二人でこの店をオーナーから
託されていることを自覚してほしいんだ。いいね?」
「はい!よろしくお願いします、店長!」
沙耶は昨夜の不思議な出来事を二度と思い出すことはなかった。
けれど、その指先には舵を握る確かな重みが、
胸の奥にはどんな風も逃さない新しい帆のしなりが、
確かに刻まれていた。
沙耶を見送った翌日の朝……
大きな光が凄まじい存在感を放ち
永劫の神でありこの図書館のオーナーであるアイオーンが、
お気に入りのロッキングチェアに腰掛けるようにしながら、
明るい空を眺めているように見えるが実際は明るさなどものともせず
遠い遠い宇宙を眺めて趣味である星読みを楽しんでいた。
そんな存在感を感じなら2階ラウンジでは
神々が琥珀色の神酒・ネクタルを酌み交わしていた。
キッチン内ではスポンデとアクテーが昨日使用した、
調理器具や食器を棚にしまいながら話しに参加していた。
「沙耶ちゃんのステラ・パス、しっかりと『時の書』に記されたね。
兄者は相変わらずキレイに記憶を書き換えることできるよね。」
カイロスは窓の外、流れる雲を見つめながらカイロスがつぶやいた。
冷静なクロノスは「兄者のいつも通りのやり方だ。」感服していた。
カイロスは少し不満げに
「でもさぁ、僕たちの記憶が残らないのはどうしても寂びしいんだよね」
アフロディーテは手鏡で自分の髪を整えながら、
「無粋なことを言わないで。
あの子の人生が美しく輝くなら、それで十分じゃない」
凛とした声で遮る。
アポロンも同意したと言わんばかりに
「そうそう。あの子の人生はこれからもっと輝きを増すよ!」
クロノスはこの前、
来た子の時間がこの場所でも繋がっていることが楽しかった。
空気がピリピリとし始めて永劫の神・アイオーンが
彼らの意識の中に直接響いた。
『……よくぞ、迷える魂を導いてくれた。
だが、ゆめゆめ忘れるな。
我ら神々の力は、彼女たちが前を向こうとする意志、
その祈りの中に宿るのだということを』
ラウンジのテーブルに残された沙耶の『時の書』。
今、真っ白な輝きを放ちながら、
黄金の風を受けてめくられようとしていた。
神々は沙耶の“時の書“を眺めるとそれぞれの持ち場へと戻っていった。
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