序奏(Prologue):三女神の不満と時の足音
はじめまして、ご覧いただきありがとうございます!
本作は、不思議な「造船図書館」を舞台に、心に悩みを抱えた人々が自分の「時の書」と向き合い、人生を新しく整えていく連作短編(オムニバス形式)の物語です。
1話ごとに読み切りのように楽しめる構成になっていますので、ぜひ気軽にお楽しみください!
3月のなかごろ。
吐く息も白くなる
手をスリスリしながら
螺旋階段を下りながら30代前半ぐらいの男が一人でボソッとつぶやく。
「夜はまだまだ冷えるなぁ」
建物の下の階から
「兄さ~ん。またモイライたち(運命の3女神)が揉めてるよぉ~」
と20代前半ぐらいの男が大声で力が抜けたような口調で伝えてきた。
螺旋階段を下りてきた兄クロノスが
「なんだ、カイロス来てたのか」
感情が乏しい口調で応えた。
カイロスは
「今、来たところ~」と両手を頭の後ろで組みながら、
ひょうひょうと笑った。
クロノスは溜息をつきながら
地下1階へとさらに螺旋階段を下り始めた。
カイロスは「暇つぶしにはちょうど良さそうだ」とばかりに、
軽い足取りで兄の後を追いかけた。
二人は暖かい光が照らすレンガ調の通路を歩いていく地下1階の奥。
重厚な扉の向こうから、
機織り機の「コトコト」という規則正しい音に混じって、
姦しい話し声が漏れ聞こえてくる。
「この子、天秤座の美しい調和を持って生まれてくるわ。
でも、糸の張り— —が少し繊細すぎて心配ねぇ……」
50代ぐらいの女性クロートが運命の糸を紡ぐ手を止めずに呟く。
すると、隣で糸の長さを測っていた60代ぐらいの女性ラケシスが、
眼鏡をくいと上げながら応じた。
「そうねぇ。とりあえずこれぐらいの長さにしておきましょう。
あとは本人の選択次第で、伸びるも縮むも自由自在よ」
シュパシュパと
70代ぐらいの女性・アトロポスが
運命の糸を大きなハサミで断ち切りながら
「はぁ〜私だって、運命の糸を紡いだり、長さを調整したいものだわ〜。
人の終わりを決めるのは悲しいし儚いのよ!あなた達変わってちょうだい」
と愚痴りながら2人に問いかけた。
「何言ってんの!姐さん!姐さんがこの糸を断ち切らないと人は
永遠に生き続けなきゃいけないのよ!永遠って拷問に等しいものなのよ!」
クロートが声を荒げながら説得している。
「そうよ!姐さん!永遠は調和を欠いているわ。
そんなのちっとも美しくないのよ!
なんなら一度みんなの仕事を交換してみましょうよ!」
ラケシスが測り終えたばかりの糸を放り出すように言った。
「そうねぇ!紡ぐのも、測るのも、切るのも、
みんなで分担すればいいじゃない。
役割、役割って。ほんの少しの間よ。
クロノスも何も言わないわよ……
ずっと同じ顔ぶれで
何千年この閉鎖的な空間にいると思っているのよ!」
二人も賛同した。
クロノスがバンッと勢いよく開けて入ってきた。
「ダメだ。何を言っているんだ!
あなた方はクロートは運命の糸を紡ぎ、
ラケシスは運命の糸の長さを調整し計り、
アトロポスが運命の糸の断ち切り終着点を作る。
これは古来よりあなた方しかできない仕事でしょう。
現最高神ゼウスや私、時の神クロノスですらできないのですよ。
それに一番困るのはこれから航海に出る、
あの『魂』たちなのです!」
毅然と、しかしどこか労わるように告げると、
「ひゃっ」と肩を跳ねさせたクロートに対し、
ラケシスはピクリとも動かず糸の長さを測り続けている。
「急に入って来たらビックリするじゃない!クロノス!」
アトロポスが驚きながら応えた。
「だってクロノス館長、永遠にこの仕事をさせられている
私たちの身にもなって休みもなく永遠よ」
冷静にラケシスが応える。
「でたでた、またいつもの理由で揉めてる。ホントに懲りないねぇ。」
カイロスが面白がってちゃちゃをいれる。
運命の3女神は一斉に
「カイロス!アンタは黙ってなさい!
ヒョウヒョウといろんなところに行けるアンタにはわからないのよ!
この気持ちは!」
クロノスは
「わかったわかった。少し外の空気を吸って来ていいから、
仕事を続けてくれ」と仲裁した。
その時、
受付の冬の女神ケイモンが館内アナウンスで
「クロノス館長、カイロス様。至急、2階ラウンジへとお越しください。」
クロノスは
「来訪者が来たか。……今の風の吹き方は、
ずいぶんと自分を置き去りにしてきた魂のようだな。
少し休憩したらすぐに仕事に戻ってくれよ、
時は待ってはくれないのだから、あなた方の仕事はこの時の図書館において始まりの仕事なのだから」
と運命の3女神に指示を出しラウンジへと向かっていった。
カイロスは運命の3女神に変顔をしながら、
クロノスの後を追いかけた。
「くぅ〜カイロスのやつぅ〜ムカつくわ〜」
クロートが苦虫を噛み潰したような顔をした。
運命の3女神は区切りの良いところで休憩に入った。
「26年前にあの3女神が揉めながら紡いだ糸が、
ようやくここまで辿り着いたか」
ラウンジへと向かうクロノスがボソッと独り言を漏らした。
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