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ロデリック伯父様と馬車に乗りこみ、屋敷に向かって走りだしてもお祖父様は俯いたままだった。
うなだれたお祖父様を見ていたら、誘拐された時を思い出してしまい、体が震え、ロデリック伯父様の服を掴んでしまった。異変に気づいた伯父様は私をすぐ抱き上げ、膝に乗せ、抱きしめてくれたので、私も伯父様にしがみついた。
「父上、あなたがエミリアーナと話がしたいと言ったのに、顔を上げず、挨拶もない。エミリアーナも怖がっている。しっかりしてください。今ここで降ろしますよ?」
伯父様が強く言うと、お祖父様がノロノロと顔を上げた。
「・・・エミリアーナ、あの時は辛い思いをさせてごめん。見舞いにも行かずごめん。まだ僕は君に会うと体が震えてしまうし、君も思い出して震えてしまう。だからまだ顔を合わせない方がいいと思う。本当にダメな爺様でごめん。君への償いとしてコレを受け取ってほしい」
お祖父様がポケットから鍵を取り出し、私に差し出す。どうすれば良いか分からず、ロデリック伯父様を見上げると、眉を下げ、何ともいえない顔をして「受け取ってやれ」と言われたので、こくんと頷き、手を伸ばすと、お祖父様が私の手のひらに鍵をのせた。
「・・・受け取ってくれてありがとう、エミリアーナ」
「・・・こちらこそありがとうございます、お祖父様」
何の鍵だかさっぱり分からないが、鍵を握ったままロデリック伯父様にまた全力でしがみついたら、私を落ち着かせるように背中をポンポンと優しく叩いてくれている。ふふ、安心します。
そうしているうちに伯父様の腕の中でいつの間にか眠ってしまったらしい。
目覚めるとベッドの上で、伯父様の子のメイナードが心配そうに覗き込んでいた。
「・・・ん、メイ?」
「うん、そう僕だよ。体は大丈夫?」
「ん、大丈夫」
「良かった。父上を呼んでくるね」
私の頭を優しくなでた後、部屋を出て行った。
伯父様が来てから話を聞いた。
お祖父様はとにかく私に会わなければ、誰かが誘拐事件について口にしなければ、今まで通りに元気にしてるから気にする事はない。なんならこっそりと見に行ってもいいが、あまりの変人さに驚くかもしれない言われた。
お母様のお父様で、私の祖父のお祖父様はミステリー作家だったが、鳴かず飛ばずの状態だった。そこで私のお父様に挿し絵を勧められ、絵を描いてみたら大ヒット。それからは売れっ子作家として有名人になったらしい。お母様がいた頃は良かったがいなくなり、お父様はいつまで経ってもしょぼくれた状態で手綱を握る人がいなくなり、多方面から狙われているのに自由に行動し、誘拐事件が起きた。それからは外に出ることは無くなったが、今は歌に夢中でうるさいから、離れに移動させた。しかも今日自ら私に渡した鍵を、メイに取り返してと言ったらしい。
そんな人だから何も気にすることはない。
「私・・・あんなに怖い思いをしたのに・・・。なんかお父様と同じくらいお祖父様のことも苦手になりそう・・・。何の鍵か分からないけど、この鍵返そうかな・・・」
「いや、それは持っておけ。父の作品の全てが収められている。気まぐれな人だから、生きてるうちに何度も鍵を返せと言ってくると思うが、渡すな。お前に会う時だけ、罪悪感でしょぼくれるふざけた父を許さなくていいし、嫌いで構わない。ちなみに私もメイもアリアも父が大嫌いだ。ローレンスだってそうだ。もしお前がこの屋敷に滞在するのがイヤならローレンスの屋敷に移動してもいいぞ?」
「・・・いえ、ちゃんと居させてください。伯父様にはお母様が取得していた体術を学びたいし、他にも色々と皆と同じようにご指導よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、伯父様に抱き上げられる。
「妹にそっくりな上に、体術も覚えたいのか。ふっ、参ったな。分かった。日中は厳しく指導するが、夕食から寝るまでは伯父と姪として過ごそう。私はお前を甘やかしたくて仕方ないんだ」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられ、おでこにキスをされる。
私も伯父様の背に手を回し、抱きしめ、頬にキスをした。
「初めてキスをされて、初めてキスをしました」
エル兄様以外でも抱きしめてもらうことが増え、幸せを感じていたが、キスは初めてだった。大切にされている、愛されいると感じて、嬉しさで顔がふにゃけてしまう。
伯父様は私を高く上げ、くるくると回って、
「それは良い事を聞いた」と、とても嬉しそうに何度もおでこや頬にキスをしてくれました。
次の日からは、かなりハードなスケジュールで、朝食後は語学から始まり、マナーレッスン、ダンスレッスンをこなしてから、昼食を食べ、午後は日が暮れるまで伯父様やメイと体術の訓練の日々。その中で月に1度、伯父様と一緒に領地にも向かい、領民の声を聞き、話し合いをしたりと、とても中身の濃い3ヶ月になりました。
夕食後はいつも伯父様は私を離さず、お膝の上にのせてもらう状態が最終日まで続き、メイもびっくりしていました。
「・・・父上、独占欲強すぎ。僕だってエミリアーナを抱っこしたい」
厳しくも楽しい3ヶ月はあっという間に過ぎました。
エル兄様にイーブン語で手紙を書きました。驚くかな?
返事が楽しみです。




