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「どうした? 随分と楽しそうじゃないか」
そう言って隙間をあけずにぴたりと隣に座り、腰を抱くイライアス。
「んもう、近すぎるわ」
私の腰に回した手をべりっとはがして、横にずれてスペースをあける。
「私のリアはつれないねぇ」
笑顔でそう言いながら、今度は体を倒し、長い足を放り出して、膝枕をしてきた。
まったく・・・と思いながらも彼の頭に手を伸ばし髪を撫でてやると、気持ち良さそうな顔をして、こちらを見上げてくる。
「あー、最っ高」
「ふふ」
イーブンに来てから、イライアスとの距離もだいぶ縮み、とても大切にしてもらっている。政務の合間には可能な限り私を訪ねてきては甘えてくる。
エミリアーナと末の弟アーノルドから届いた手紙に書かれていた内容を順番にイライアスに伝える。
「エイドリアンはカーブンでまだ生きるのか。生きているうちにアイツの頭の中を覗いてみたいよ。あれだけ優秀な教師がついて、結局何一つ変われなかった。今の時代じゃなければ、何度か戦争を仕掛けてきそうな奴だよな」
「縁を切ったと言っても、下の弟妹を忘れられなかったことがダメだったのよ。あと私達兄弟の存在もあったのでしょうね。どうしても自分と比べてしまう。エイドリアンを担ぎ上げる人がいたら、この時代でも反乱はあったと思うわ」
「周囲がマトモで良かった。うちの陛下はあいつのやらかしを耳にする度、なぜ幽閉しないんだとキレてたからな」
「そこまでするには子爵家子息っていう低い身分が邪魔してたし、外ではエイドリアンの思想や出生はあまり知られていなかったからかしらね。私の実弟だったなら容赦なく始末していたわ。現在はカーブンで陛下のサンドバッグ状態らしいわ」
「はは。カーブンの国王は身内以外には苛烈だからな。溺愛している末娘をアーブンに嫁がせる決断がよくできたよ」
「本当にそれよね。マリアンナ様はいったいどんな条件で交渉したのかしら。そういう肝心且つ、こちらが興味がある事を書いてこないなんてアーノルドもまだまだだわ」
「エルウィンもとうとう絆されたのか。私ならどうにかしてでも逃げたいタイプの女性だな」
「ふふ。あらそうなの? エルウィンの前ではとても可愛らしくなるマリアンナ様だから、エルウィンが手綱を握る権利を保ち続ければ上手くいくと思うわ。現にこちらに嫁がせる事に成功したし、エミリアーナとマリアンナ様の関係も良好だわ」
「エミリアーナと離れたくないから交渉したか? さすが自他共に認めるシスコンだな。エミリアーナがいる限りアーブンは安泰だな。ローレンス殿もキレ者だが、エルウィンはそれを上回るヤバさだと各国が嘆いていたと耳に入ってるぞ」
「叔父様もエミリアーナの母親が生きていらっしゃったらもっとアーブンに有利な交渉をしていたのかしら。そう考えると本当に凄いわね、あの母娘」
「そうだな。私もリアがいなかったらあのまま夢中になりそうだった。あの時、想いを断ち切らせてくれて感謝してるよ」
「ふふ。そのエミリアーナがメイナードとの婚約を解消したわ」
「はぁ?」
がばっと起き上がり、信じられないという顔をするイライアス。
「あら? 断ち切れてないのかしら?」
「ないない!未練もない。私はアンジェリアを愛してる。ただ、あの2人は上手くいくと思っていたから驚いただけだ」
起き上がったついでなのか、私の頬に手を添えてチュッとキスをしてから、また私の太ももを枕に寝転がる。今度は体を私のお腹の方に向け、腰には両腕を回して、頭を左右に振るイライアス。
「本当に愛してる。 それにリア以外の奴に、この国の王妃を任せることはできない。わかってるだろ?」
お腹がくすぐったいし、恥ずかしい。でも2人の時は可愛いイライアスに私も愛情を感じてる。
「ふふ。私も愛してるわ」
顔を上げ、見上げてくるイライアスの頭を抱きしめる。
「幸せだ・・・。 今日こそ同じ寝室で寝る?」
「ダメ。ちゃんと結婚してからよ」
「ちぇ」
「ふふ、私だって早く結婚したいもの。それより今は手紙についてよ。イライアスのように、アレクシスもアーノルドも慌てたらしいわ。もちろんエイドリアンもね。エルウィンはメイナードに鉄拳をくらわせたらしいわ。なんでもアーノルドの学年にヤバい女子生徒がいて、次々と男をたらし込んでいった。アーノルドもエミリアーナのことが好きだったから、出来心で女子生徒にメイナードを紹介してしまった。婚約を解消するとは思っていなかったから、今のアーノルドは罪悪感でいっぱいだそうよ。全くバカなことをしたわね」
「うちの兄上の時と似たような感じになったのか・・・。エミリアーナは辛かっただろうな」
「エミリアーナの手紙からはそれが全く感じられないの。2人で仲良くしている姿を見ても心が痛まなかった。兄や王女がいなくなって1人になった時に、1度も顔を出さなかった時は流石に寂しくなったけど、影さんの気配を感じると安心できて、心が落ち着いたですって」
「影に惚れたのか? っていうか、気配を感じる事ができるって・・・ぶはっ、エミリアーナは規格外だな」
「エルウィンも感じるらしく、アレクシスが驚いていたわ。エミリアーナがフリーになったから、うちの愚弟共が婚約したいと申し出たけど、陛下にも本人にも却下されたらしいわ」
「2人とも婚約者がいただろう? 2人がうちの兄上と同じようにやらかしたとしても、絶対にアンジェリアをアーブンに返さないからな」
「表沙汰にはなっていないから大丈夫よ。それに幼い頃と違って大人だもの。弁えられるようになったはずよ。
エミリアーナには、イライアスに愚弟共、メイナードに、他にもエーブン、カーブンからも婚約の打診があったから、あの時は大人達の判断で急遽2人を婚約させたのよね。エミリアーナ本人には何も教えてないけど。
それにしてもメイナードは愚かだったわね。1番手が届く位置に最初から配置されてチャンスだったのに、自らの行動で手放すなんて。
そのお騒がせな女子生徒のせいで10組以上の婚約が解消されて、学園はドタバタしているみたい。その女子生徒は侯爵と愛人の間にできた子供で、愛人が亡くなって引き取った結果、とんでもない騒ぎを起こした。夫人からは離縁を突きつけられ、各家からは慰謝料の支払いを請求されて苦労しているらしいわ。
ふふ。なんだかとても面白そうな状況だから1度、里帰りしてもいいかしら? エミリアーナにも会いたいわ」
「もうすぐ結婚式があるんだからダメに決まってるだろ? 帰る時は私も一緒じゃなきゃ許可しないし、今は忙しくて国から離れられない。どうしても会いたいならこっちに呼んでくれ。分かった?」
私の婚約者はマトモな方で良かったわ。本当はアーブンに帰って状況を楽しみたい気持ちもあるけど、結婚式で皆に会えるのだから、その時にまとめて聞かせてもらいましょう。
「ええ。 分かったわ。大好きよ、イライアス」
またイライアスの頭を抱きしめ、キスをする。
それだけじゃ足りないと起き上がったイライアスに、頬を挟まれ長いキスをされる。
ふふ。 他の皆様と違って、こちらはとても順調ですわ。




