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末っ子エミリアーナ  作者: ぱんどーる


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俺は影。


地獄の訓練を修了した後の初任務は、この国の王太子殿下アレクシス様の学園生活を見張ること。

アレクシス殿下は、口が悪い時もあるが、概ね品行方正な方だ。群がる女子生徒をさらりとかわし、まだ発表を控えている状態の婚約者のご令嬢とも良好な関係を築いている。

共に行動している従兄弟のエルウィン様がにらみをきかせているのも大きい。


何事もなく1年が過ぎたが、カーブンの王女殿下とエルウィン様の妹君がご入学されてから、こちら側が非常に慌ただしくなった。王女殿下を守れる範囲に護衛はいるが、影がついてる様子はなかったので、こちらで対応することになり、俺が王女殿下にあたることになった。


王女殿下も品行方正で周囲とも打ち解け、つつがなく学園生活を送っていたのだが、エルウィン様の事になると人が変わってしまい、恋する乙女モード全開になってしまうのだ。学年が違うので昼食時くらいしか一緒にいられないのだが、その時はギラギラ・・・ではなく、キラキラとした目でエルウィン様を見つめ、大好きを躊躇わずにアピールする。

対してエルウィン様の反応はなかなかに薄い。俺ならこんな美人に好き好き言われ続けたら、すぐに絆されてしまう気がする。


アレクシス殿下はエルウィン様の妹エミリアーナ様に好意を抱いてる目をよく見る。ご本人は上手く隠しているつもりだろうが、1年間見ていた俺にはわかってしまう。婚約者のご令嬢に対する対応とは違う、気さくな態度で接し、よく笑い、柔らかい目でエミリアーナ様の動きを追っている。


それをエミリアーナ様の婚約者、伯爵家のメイナード様は気づいているようで、たまにアレクシス殿下に向けてはいけない鋭い視線を投げることがあり、こちらはハラハラしてしまう。メイナード様もエミリアーナ様に好意を抱いてる目をしているのだが、エミリアーナ様が仮初めの婚約者と口にする度に、彼の表情がとても悲しげで不憫だ。それでもどうにか笑ってやり過ごしているつもりだろうが、隠しきれていない。


そんな人気者のエミリアーナ様が男子生徒から狙われる日々が続く事になった。なんでも長兄が実の妹の不名誉な事件を夜会で叫ぶっていうバカな事をやったらしい。信じられん。どんなツラをしてるか確かめてやろうと1度だけ貴族牢に行き、エイドリアンと話をした事がある。


「実の弟妹に対して、反省しているのか?」


「縁を切っている。それよりもナターシャはどうしてる?」


「・・・傷が残った」


「クソっ」


「お前の妹だったエミリアーナ様は、お前のキズモノ発言のせいで、女子生徒からは遠巻きにされ、男子生徒からは身体目的で狙われている。王家からの依頼で俺達が見守ってる状態なんだぞ? 何とも思わないのか?」


「・・・ちっ。なんでアイツらばかり王族と関われるんだ」


「それにお前の有責で婚約が破棄された事により、膨大な慰謝料を伯爵家から請求されている。子爵家は支払いに苦労している。本来ならお前がどうにかすべき金だぞ?」


「は?・・・婚約はなくなったのか? ナターシャは私を諦められないだろう?」


あー、もうコイツはダメだわ。


血の繋がりがない俺の方が、あの2人を大切に思ってると感じてしまう。

誘拐はされたけどその日のうちに解放されたし、1人で勝手に行動していた訳ではなく祖父と一緒だった妹に非はない。物心ついた時には父母が不在で、上の兄姉、使用人に見下された生活してきた弟妹。縁を切っても迷惑をかけてくる実兄の尻拭いをする弟妹。カーブンの王女殿下に対しての不敬罪であちらの国に身柄を送っても良かったが、この国に留めてやったのに、本人に反省の色は全くない。


このままここにいると俺がブチ切れそうだ。


「お前の思考がそのままなら貴族社会に戻れんし、伯爵家が許さないだろうからナターシャ嬢にも会えない。

はぁ・・・。静かにしてると聞いたから反省してると思って様子を見に来たが違ったな。牢屋で出される飯やタオルだって、タダじゃないんだ。こんな奴に金を使うのは勿体ないと上に報告しておくよ。じゃあな」


「お、おいっ! 待ってくれっ! 反省してるっ! 反省してるからナターシャに会わせてくれっ!」


これ以上話をしてもムダだと判断して、その場から離れると上司が待機していた。


「反省してない奴がよく使うトーンの反省してるって声が聞こえてきたから想像できるが、やはりダメか?」


「っすね。王女殿下、弟妹よりもナターシャ嬢って感じでした」


「・・・ 報告書をあげてくれ」


「了解っす」


見張る対象が増え、仕事は忙しくなったが、エミリアーナ様にこれ以上不名誉な事が起きないようにしてやらねばと気合を入れた。



だがっ!!



エミリアーナ様はめっちゃ強かった。


ご令嬢が男に対してあそこまで圧勝できるものなのか? 戦い慣れしすぎではないか? 俺も不埒な男子生徒達と一緒で、彼女を見た目でか弱いご令嬢だと判断してしまい、本当に驚かされた。

ねぇねぇ、これって俺が見張る必要ある?

っていうか、俺も手合わせしたら負けちゃう感じ?


なんて思っていたが、俺の重要な役割は証人になることだったようだ。とにかく男子生徒の方が罪を認めず、エミリアーナ様が一方的に襲って来たと言う奴らが殆どだった。騎士でもない女性相手に、手も足も出なかった事をさらけ出すのは恥ずかしくないのか?


エミリアーナ様が学園にいる時間だけ見張ることが俺の仕事なので、エミリアーナ様が学園から出た後に、教員に報告して、上司に報告して、たまにアレクシス殿下からもエミリアーナ様の件で呼び出されては報告をして、男子生徒の家にも証人として同行する。


その数、なんと47回。

(懲りずに2度目、3度目の奴もいた。バカすぎる)


おいおい、いくら何でもチョロく見られすぎだろ?

エミリアーナさんよ・・・。


そんなエミリアーナ様が家を飛び出したと報せが来た。


エルウィン様から指名を受け、俺は王家から離れ、エルウィン様と専属契約をする事になったのがつい先日の事。これからは表立つ仕事も多々あるし、今までのように影の動きで仕事をする事もある。


鳥を使って呼び出され、急ぎ屋敷に行くと、新しい主のエルウィン様はまさかの放心状態。頼りなさげな親父は青い顔でオロオロしていた。ローレンス様に事情を手短に教えてもらい、使用人に向かった方角を聞いて、すぐ捜索を始めた。


男性並の体力があるお嬢の移動距離を予測して計算し、追いつける速度で走る。成人の祝いを終えて大人ぶりたいなら酒か? 発散するなら・・・やはり酒か? この時間から営業を開始する店に絞って動き始めた。日が落ちる前に見つけないと、見た目のチョロさで危ない。焦りながらも5件目の店で、呑気にカウンターに座り、旨そうに酒を飲むお嬢を発見。まだ客もいないようでホッとした。


俺も喉がカラカラで、体は汗だくでクタクタだ。お嬢の隣に座り、注文した酒を一気に流し込む。


ふぅー、くぅー、うまっ!!


気配で俺が影だと察知したお嬢との長い夜が始まった。


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